【これで完結。第9巻】
長らく書かせていただいた言いたい放題記事もこれでおしまい。
第9巻です。
とても美しい絵の漫画ですが、特に最終巻のカバーイラストは晴れやかに優しく描いていてステキですね
最後まで一貫して表紙にのるのはソータだけっていうのもブレてなくていいな~。
これはソータのショコラ物語ですものね。
ではでは、言いたい放題させていただいちゃいます!
【サエコ、戦う】
ショコラヴィを去ったサエコは、はるばるおばあちゃんの住む土地に移動してしっかりアリバイ工作。
見栄っぱりで怖がりのダンナさんはおばあちゃんに会いに行って確かめることはできない…そこまでしっかりわかってやってますね。
さすが配偶者。
ソータが最後に贈ってくれた
「元気になれるようなチョコ」
チョコバーをここではじめて開けてばっくばく(ぱくぱくじゃない。PAKUPAKUじゃなくてBAKUBAKU)食べるサエコは、思わず笑みがこぼれます。
こうやってソータのショコラ=真心。にいつも元気をもらってきたんだよね、彼女は。
ダンナの車が視界に入ると静かに戦闘スイッチオン。
サエコはもう逃げない。
愛されモテテクや小悪魔テクで相手を操るのではなく、正々堂々対峙するのだ。
アリバイ工作をきちんと説明するぬかりなさはさすがでござる。
相変わらず幼く、弱い相手には
「お前が悪い!俺をイライラさせるな!」
スタンスのダンナにサエコさんはきちんとした言葉で言います。
あたしは
あたしも人間だから
ひどいこと言われたり
怒鳴られたり
ぶたれたりするならもうあなたとは暮らしたくない
暮らせない!
このあとに続くやりとりもすごくいいよ。
「子どもができたらダンナも暴力をやめるだろう」
なんて甘いスタンスでもなく、
「赤ちゃんがかわいそう!」
って子どものせいにして取引するでもなく、ちゃんと向き合って話してる。
「口だけじゃないって証明してくれないと帰らない」
と話すところも最高だね。
ムードに流されてキスしたり感動的な口先テクニックで…ではなく。
ああいうのって被害者側のキャラをバカにしてるもん。
一応ハグはされるもののサエコの静かな表情がいいですね。
これはよかった。
帰り道、おばあちゃんに挨拶することもなく家に帰る二人。
(サエコのダンナよ…ちゃんと目をみてお礼と挨拶しにいけや…そういうとこだぞ)
「おばあちゃんの家で何が一番おいしかった?」
とダンナに問われ、そっと涙を流しながら
「…フレンチトースト…かな…」
とこたえるサエコ。
そう、ソータが真心こめて作ってくれたあのフレンチトーストです。
切ないね~。
【薫子、人のために動く】
サエコのエピソードのあとに描かれるのが薫子の物語。
やっぱりこの物語における運命の二人って実はサエコと薫子なんじゃないの(笑)。
思いがけず片想いしているソータと二人っきりでデートできることになった薫子。
バカにしている関谷くんとのデートの時は
「狙ってると思われると嫌だから」
と髪をわざわざまとめたままにしたり、かたくなにパンツルックで大人っぽい感じだったのに、本命のソータとデートできるとなると迷いなく髪をおろし、少女っぽいスカートスタイル。
人間てこういうところ本当にあるよね…かわいいけどさ…。
自分がソータとエレナの仲をひきさいてしまった(エレナが店に来たときにサエコが来てることをバラした上でエレナのことも罵ったから)と考えている薫子は、ソータの気持ちを試すことばかり聞きます。
ソータがエレナを想ってることもよくわかるし、頭が冷えるとあんなにバカにしてたエレナのいいところばかりが思い出される。
「あたしだって少しは償いがしたい」
と思った薫子は、まぁひどいことばっかり言うんだけど、結果的に
「ちゃんとエレナに会ってこい!!!」
とソータを仕向けます。
それが償いなんですって。
しっかしまぁ何度も書いているけど、薫子というキャラは美女(美少女)でなければぜったいゆるされないひどいこといっぱいいうよね。
甘やかされるってこういうことだよね~リアルだわ。
でもいいところもいっぱいあるキャラ。
そういうのもリアルだよね。
このデートシーンで出てくるガレットもそうだし、最後の最後でサエコとお茶する場面のパンケーキもとっても美味しそうです
実在するお店なんだろうな。
このふたつはわかんないけど。
サエコがパンケーキ食べる時の癖は星乃珈琲店でお茶する場面の癖をしっかりここでもやっていて、作者の水城さんがきちんと考えてキャラを描いているのがわかる。
細部に神が宿るぜ。
【エレナとソータは、ちゃんと本音を語り合う】
エレナとソータが再会し、きちんと話し合う回。
この二人にとっての課題は本音で語り合う、本心を見せ合うことなのよね。
「彼氏(彼女)じゃないよ、セ〇レだよ」
と言い合ってた時代は二人とも
「本命は別にいるんだし!」
という心の保険を頼りにして本音で付き合っていたのね。
(この時代恋愛は策略と戦争みたいにメディアが表現していたからね~それをしっかり表しています。
惚れたら負けって言葉が流行ってました)
でも、いざ恋人としてしっかり1対1で付き合うとなるとお互いにいいところばっかり見せたくなっちゃって、それが誤解やすれ違いをうむという。
出会った時から一貫してソータが好きなのはエレナなんだけどね。
サエコは芸術のための火種、幻だから。
サエコの
「あたしも人間だから」
「幻なんだって気付いたらすぐ気持ちは冷める」
という言葉がここに…!!
さて、生身の人間同士の二人は向き合うよ。
そうさせる勇気をエレナにくれたのが六道さん。
その勇気を受け取ってソータにぶつかりにいったのがエレナ。
エレナの勇気にこたえたのがソータ。
つながってますね~。
エレナが
「何があったかきちんと話そうよ、いつだってそうしてきたじゃん」
と言えるのは、彼女が仕事を頑張って自分にちゃんと自信があるから。
しょーもないっちゃしょーもないけどカッコ良さがあるよね。
二人の恋愛においてはやはり
「サエコとの関係の全て」
を話すことがぜったい必要でしたね。
めちゃくちゃな設定をこうじゃなきゃいけない、としっかり構築して展開するのすごいわ~。
作者の水城さんはヒロインのエレナともう一人の主人公であるサエコに
「戦う」
という言葉を選んで使っているけど、たしかにこの戦うスキルは今まで日本女性がとりあげられてきたものをよく表してると思う。
「愛されモテ子」
「魔性の女」
「ものわかりのいい大人の女」
このどれになったって、幸せになんかなれないじゃん。戦おうよってメッセージに私は受け取りました。
共存するために戦おう、対等な人間として心でぶつかろうって。
このめちゃくちゃなのに必然的な場面を描くために、ソータの失恋物語はあったんじゃないのって思うくらいメッセージ性の強い場面だと思います。
そんなこんなでエレナとソータは恋人になったよ!
おめでとう。
【お前が泣いてんじゃねーよ!!!】
次に描かれるのが、
「描く必要あった?」
と話してる人も見かけた、まつりがゆかりんにカッターで襲われる場面です。
あらすじをざざっと書くと…。
・大学の授業でまつりとゆかりん(元彼…というかヤった男の本命彼女)が久しぶりに再会する。
↓
・ゆかりんの耳にピアスが。
まつりがなくしたピアスにそっくり。
↓
・「かわいいピアスもらったから昨日(ピアス穴を耳に)あけたんだ」
と話すゆかりん。
「あれ?私のピアスじゃないか?」
と青ざめつつごまかすまつり。
↓
・なんか怖い笑顔でまつりの隣に座るゆかりん。
↓
・ゆかりん、まつりにオリヴィエとの近況を聞きながら
「このピアスはもらったんじゃない。
彼氏の部屋で見つけて、まつりのでしょ?って問い詰めたら、うだうだいいながら結局認めた。
好きだったとか二股とかじゃないって彼は言うけど。
そんなわけないじゃん、だったらこんなもの大切にとっておくわけないじゃん」
とホラーにつめよる。
教室にいる人たちも聞いてるけどおかまいなし。
↓
・ゆかりん
「なんで嘘つくのかな…
彼も…
まつりも…
ねえ
ねえ」
↓
・まつり、脂汗ながしつつ
「ごめんなさい…
…ごめんなさい…」
まつりの目には涙。
涙を見たゆかりんは…。
「お前が泣いてんじゃねーよ!!!」
と握っていたカッターでまつりに襲いかかる。
~~~
…とこんな感じなんだけど、すごくない?
一回だけわざとらしくまつりちゃんが身に着けてきたピアス。
ゆかりんの最低彼氏がオリヴィエに返さなかったピアス。
(ちなみにこのとき灰皿に入ってるのが、それまでこの男がいかにまつりをバカにしていたかが溢れてて最低で最高)
そしてここで、ゆかりんが耳につけてくる。
しーかーも!
これがイヤリングじゃなくてピアス、ポスト(穴に通す針みたいな部分)がまっすぐでなく曲がったピアスってのも計算して選んでるんだよ。
ピアス穴はすぐにできないのだ。
ピアッサーで穴あけても、最低1か月はファーストピアスをいれっぱなしにして、ポストが曲がったピアスを安全に身に着けるにはさらに数か月かけて穴を完成させなければいけません。
ってことは、ゆかりんのピアス穴はもうじんじんしてるはずで、そもそも何かで衝動的にあけた穴で…。
ホラー!!!
よくできてて本当さすがです。
私はこの場面、ぜったい必要な話だったと思う。
だってゆかりんの
「お前が泣いてんじゃねーよ!!!」
って叫びは、主人公のソータがずっとずっとサエコに言いたかった言葉だもん。
人の心を踏みにじるってどういうことか、この場面で描きたかったんだと思う。
大事な場面だよ~。
ただ、まつりちゃんはかわいそうだよね。
だましたのは男なのに、まつりちゃんだけがゆかりんに罪悪感もって
「あたしも悪いの!共犯なの!!」
って自分責めちゃってさ。
男がまつりちゃんとゆかりんをバカにして心と体をふみにじっただけなのに。
まあそれでも
「わかっててもやめなかった」
のはたしかにまつりか。
まつりとゆかりんが見えている現実は別物です。
まつりはずっと
「ゆかりんが本命彼女で、私は悪い間女」
だと思い込んでいたし、ゆかりんの口ぶりから察するに
「まつりはオリヴィエくんという彼氏を持ちつつ、私の好きな人にまで手を出して手玉にとった」
って思ってるんじゃないでしょうか。
二人とも被害者なのに…ゆかりん、襲うなら男を~!
この
「見えてる現実は人それぞれ違う」
描写はすでにサエコが髪を切って初めてショコラヴィにやってきた場面でさりげなく描かれています。
サエコの見てる現実とソータの見てる現実は全然違うものとしてそれぞれに受け止められている。
上手いっ!(何回目?)
続く、オリヴィエからのまつりへの感動プロポーズとアレな言葉のやりとりはう~んと感じつつも、まあ一番いい流れかなと思って読みました。
腕にも頭にも悲しいことに傷が残るという悲しい現実の前でも
「ゆかりんがああなっちゃうのはあたしのせいだ…」
と涙するまつりはピュアすぎてバカだけど、いいこであるに違いはないし。
オリヴィエならあそこでかける言葉はアレしかないだろう。
「まつりちゃんバカだからうんぬん」
のくだりは当時の女性蔑視を若干出してるが、まあ意味があるのでしょう。
よかったね、まつりちゃん。
【ハッピーハッピーエンディングとそれから】
最終話はオリヴィエとまつりの結婚式。
サエコは結婚式に呼ばれず(当たり前か)薫子さんと楽しくお茶する場面でサムシングブルーを
「まつりちゃんに渡してね」
とたくしています。
サエコラストシーンは短めのストレートボブで、前髪に飾りピン。
これは
「大人になろうとするサエコ」
と
「私の好きなものを大切にするサエコ」
のハイブリッドですよね。
この時の薫子はロングヘアですが、ラストシーンでは短くカット。
これも彼女が変わる暗示かもしれません。
エレナとソータはそのまま。
これも暗示だね。
次のクリスマスケーキはエレナにインスパイアされて作った人気ボンボンのケーキ版であり、バレンタインテーマは
「ぽかぽかしたあったかくなるような、ホッとするようなチョコレート」
っていうのもバッチリシンクロした作り。
いいぞいいぞ~細部までテーマがしっかりつまってる~。
最後の最後となる場面はソータがお店の中で静かに(原作のソータはちゃんとショコラヴィを続けるよ!)六道さんに感謝し、エレナを想い、支えてくれている全ての人に感謝しながらも
「すべてサエコさんがもたらしてくれた」
と大泣きするソータの場面は、哀しみ(“哀”という漢字をこの作品は大切にしていたので)を昇華していく象徴かな。
「いつまでも何度でも貴女に失恋していたい」
芸術家ならきっとわかる気持ちなんでしょうね。
幸せであたたかいハッピーエンドでよかったです
やっぱり作り物は幸せになれるのが好きだな。
…っていう大好きな話でした
【仕事ができる人ならではのリアルさ】
この作品の
「好き!」
「ステキ!」
と思うことは今まで散々書いてきましたが、それらと同じくらい水城さんすごいな~と思ったのは仕事ができる人ならではのとてもリアルな働きぶりでしたね。
ソータすっごいハードワーカーだし、エレナも一日3食とらないとかとってもリアル。
私は根性もなけりゃ体力もないので、ソータたちのように働けないし、トライした時点で体壊すか死ぬかすると思う。
頑張れる人が売れっ子・人気者・キャリア組として成功していくのね…。
しかし、彼らはそれを余裕でこなしてるわけでなく彼らの次元で追い詰められながら必死に頑張っている…自力じゃぜったい見られない世界を垣間見させてもらった感じです。
そして…ああ、だから漫画家さんて重病になる方がいるんだともわかった。
すごすぎです。
『ご近所物語』で実果子のママ・るり子さん(職業は売れっ子少女漫画家)が
「ママの命削って稼いだお金なんだからね」
って何度も言っていたのをはるかな時をへて理解…。
矢沢あいさんもご病気だと聞いたしなぁ。
水城せとなさん、体を大切して長く漫画を描いてくださいませ。
【最終巻で食べてみたいお菓子!】
最終話で出てくる
「スペキュロスがざくざく入ったタブレット」
(スパイス入りクッキーがたっぷり入った板チョコ、という意味)
だと考えていたのですが、自分で簡単に作ってみたのがすごく美味しくできたのでそれで満足。
(近々記録のためにレシピ記事書きたい)
なので…オリヴィエとまつりの結婚式のためにソータが作るウェディングケーキ、が食べたいです
シンプルで綺麗なクロカンブッシュステキ
これにものっているショコラヴィのロゴは、失恋を栄養にして新しい幸福を生み出すって意味だったんだね。
さすが~ぶれてない~・
【原作についてるもうひとつのお楽しみ】
原作漫画を読むとついてくるもうひとつのお楽しみが、水城せとなさんのメッセージが全巻読めることですね。
すごく楽しいですよ。
若々しい文字でつづられる彼女(女性だよね?)の言葉は漫画と同じくらい面白いです。
楽しい漫画とメッセージを本当にありがとうございました
長らく書かせていただいた言いたい放題記事もこれでおしまい。
第9巻です。
とても美しい絵の漫画ですが、特に最終巻のカバーイラストは晴れやかに優しく描いていてステキですね
最後まで一貫して表紙にのるのはソータだけっていうのもブレてなくていいな~。
これはソータのショコラ物語ですものね。
ではでは、言いたい放題させていただいちゃいます!
【サエコ、戦う】
ショコラヴィを去ったサエコは、はるばるおばあちゃんの住む土地に移動してしっかりアリバイ工作。
見栄っぱりで怖がりのダンナさんはおばあちゃんに会いに行って確かめることはできない…そこまでしっかりわかってやってますね。
さすが配偶者。
ソータが最後に贈ってくれた
「元気になれるようなチョコ」
チョコバーをここではじめて開けてばっくばく(ぱくぱくじゃない。PAKUPAKUじゃなくてBAKUBAKU)食べるサエコは、思わず笑みがこぼれます。
こうやってソータのショコラ=真心。にいつも元気をもらってきたんだよね、彼女は。
ダンナの車が視界に入ると静かに戦闘スイッチオン。
サエコはもう逃げない。
愛されモテテクや小悪魔テクで相手を操るのではなく、正々堂々対峙するのだ。
アリバイ工作をきちんと説明するぬかりなさはさすがでござる。
相変わらず幼く、弱い相手には
「お前が悪い!俺をイライラさせるな!」
スタンスのダンナにサエコさんはきちんとした言葉で言います。
あたしは
あたしも人間だから
ひどいこと言われたり
怒鳴られたり
ぶたれたりするならもうあなたとは暮らしたくない
暮らせない!
このあとに続くやりとりもすごくいいよ。
「子どもができたらダンナも暴力をやめるだろう」
なんて甘いスタンスでもなく、
「赤ちゃんがかわいそう!」
って子どものせいにして取引するでもなく、ちゃんと向き合って話してる。
「口だけじゃないって証明してくれないと帰らない」
と話すところも最高だね。
ムードに流されてキスしたり感動的な口先テクニックで…ではなく。
ああいうのって被害者側のキャラをバカにしてるもん。
一応ハグはされるもののサエコの静かな表情がいいですね。
これはよかった。
帰り道、おばあちゃんに挨拶することもなく家に帰る二人。
(サエコのダンナよ…ちゃんと目をみてお礼と挨拶しにいけや…そういうとこだぞ)
「おばあちゃんの家で何が一番おいしかった?」
とダンナに問われ、そっと涙を流しながら
「…フレンチトースト…かな…」
とこたえるサエコ。
そう、ソータが真心こめて作ってくれたあのフレンチトーストです。
切ないね~。
【薫子、人のために動く】
サエコのエピソードのあとに描かれるのが薫子の物語。
やっぱりこの物語における運命の二人って実はサエコと薫子なんじゃないの(笑)。
思いがけず片想いしているソータと二人っきりでデートできることになった薫子。
バカにしている関谷くんとのデートの時は
「狙ってると思われると嫌だから」
と髪をわざわざまとめたままにしたり、かたくなにパンツルックで大人っぽい感じだったのに、本命のソータとデートできるとなると迷いなく髪をおろし、少女っぽいスカートスタイル。
人間てこういうところ本当にあるよね…かわいいけどさ…。
自分がソータとエレナの仲をひきさいてしまった(エレナが店に来たときにサエコが来てることをバラした上でエレナのことも罵ったから)と考えている薫子は、ソータの気持ちを試すことばかり聞きます。
ソータがエレナを想ってることもよくわかるし、頭が冷えるとあんなにバカにしてたエレナのいいところばかりが思い出される。
「あたしだって少しは償いがしたい」
と思った薫子は、まぁひどいことばっかり言うんだけど、結果的に
「ちゃんとエレナに会ってこい!!!」
とソータを仕向けます。
それが償いなんですって。
しっかしまぁ何度も書いているけど、薫子というキャラは美女(美少女)でなければぜったいゆるされないひどいこといっぱいいうよね。
甘やかされるってこういうことだよね~リアルだわ。
でもいいところもいっぱいあるキャラ。
そういうのもリアルだよね。
このデートシーンで出てくるガレットもそうだし、最後の最後でサエコとお茶する場面のパンケーキもとっても美味しそうです
実在するお店なんだろうな。
このふたつはわかんないけど。
サエコがパンケーキ食べる時の癖は星乃珈琲店でお茶する場面の癖をしっかりここでもやっていて、作者の水城さんがきちんと考えてキャラを描いているのがわかる。
細部に神が宿るぜ。
【エレナとソータは、ちゃんと本音を語り合う】
エレナとソータが再会し、きちんと話し合う回。
この二人にとっての課題は本音で語り合う、本心を見せ合うことなのよね。
「彼氏(彼女)じゃないよ、セ〇レだよ」
と言い合ってた時代は二人とも
「本命は別にいるんだし!」
という心の保険を頼りにして本音で付き合っていたのね。
(この時代恋愛は策略と戦争みたいにメディアが表現していたからね~それをしっかり表しています。
惚れたら負けって言葉が流行ってました)
でも、いざ恋人としてしっかり1対1で付き合うとなるとお互いにいいところばっかり見せたくなっちゃって、それが誤解やすれ違いをうむという。
出会った時から一貫してソータが好きなのはエレナなんだけどね。
サエコは芸術のための火種、幻だから。
サエコの
「あたしも人間だから」
「幻なんだって気付いたらすぐ気持ちは冷める」
という言葉がここに…!!
さて、生身の人間同士の二人は向き合うよ。
そうさせる勇気をエレナにくれたのが六道さん。
その勇気を受け取ってソータにぶつかりにいったのがエレナ。
エレナの勇気にこたえたのがソータ。
つながってますね~。
エレナが
「何があったかきちんと話そうよ、いつだってそうしてきたじゃん」
と言えるのは、彼女が仕事を頑張って自分にちゃんと自信があるから。
しょーもないっちゃしょーもないけどカッコ良さがあるよね。
二人の恋愛においてはやはり
「サエコとの関係の全て」
を話すことがぜったい必要でしたね。
めちゃくちゃな設定をこうじゃなきゃいけない、としっかり構築して展開するのすごいわ~。
作者の水城さんはヒロインのエレナともう一人の主人公であるサエコに
「戦う」
という言葉を選んで使っているけど、たしかにこの戦うスキルは今まで日本女性がとりあげられてきたものをよく表してると思う。
「愛されモテ子」
「魔性の女」
「ものわかりのいい大人の女」
このどれになったって、幸せになんかなれないじゃん。戦おうよってメッセージに私は受け取りました。
共存するために戦おう、対等な人間として心でぶつかろうって。
このめちゃくちゃなのに必然的な場面を描くために、ソータの失恋物語はあったんじゃないのって思うくらいメッセージ性の強い場面だと思います。
そんなこんなでエレナとソータは恋人になったよ!
おめでとう。
【お前が泣いてんじゃねーよ!!!】
次に描かれるのが、
「描く必要あった?」
と話してる人も見かけた、まつりがゆかりんにカッターで襲われる場面です。
あらすじをざざっと書くと…。
・大学の授業でまつりとゆかりん(元彼…というかヤった男の本命彼女)が久しぶりに再会する。
↓
・ゆかりんの耳にピアスが。
まつりがなくしたピアスにそっくり。
↓
・「かわいいピアスもらったから昨日(ピアス穴を耳に)あけたんだ」
と話すゆかりん。
「あれ?私のピアスじゃないか?」
と青ざめつつごまかすまつり。
↓
・なんか怖い笑顔でまつりの隣に座るゆかりん。
↓
・ゆかりん、まつりにオリヴィエとの近況を聞きながら
「このピアスはもらったんじゃない。
彼氏の部屋で見つけて、まつりのでしょ?って問い詰めたら、うだうだいいながら結局認めた。
好きだったとか二股とかじゃないって彼は言うけど。
そんなわけないじゃん、だったらこんなもの大切にとっておくわけないじゃん」
とホラーにつめよる。
教室にいる人たちも聞いてるけどおかまいなし。
↓
・ゆかりん
「なんで嘘つくのかな…
彼も…
まつりも…
ねえ
ねえ」
↓
・まつり、脂汗ながしつつ
「ごめんなさい…
…ごめんなさい…」
まつりの目には涙。
涙を見たゆかりんは…。
「お前が泣いてんじゃねーよ!!!」
と握っていたカッターでまつりに襲いかかる。
~~~
…とこんな感じなんだけど、すごくない?
一回だけわざとらしくまつりちゃんが身に着けてきたピアス。
ゆかりんの最低彼氏がオリヴィエに返さなかったピアス。
(ちなみにこのとき灰皿に入ってるのが、それまでこの男がいかにまつりをバカにしていたかが溢れてて最低で最高)
そしてここで、ゆかりんが耳につけてくる。
しーかーも!
これがイヤリングじゃなくてピアス、ポスト(穴に通す針みたいな部分)がまっすぐでなく曲がったピアスってのも計算して選んでるんだよ。
ピアス穴はすぐにできないのだ。
ピアッサーで穴あけても、最低1か月はファーストピアスをいれっぱなしにして、ポストが曲がったピアスを安全に身に着けるにはさらに数か月かけて穴を完成させなければいけません。
ってことは、ゆかりんのピアス穴はもうじんじんしてるはずで、そもそも何かで衝動的にあけた穴で…。
ホラー!!!
よくできてて本当さすがです。
私はこの場面、ぜったい必要な話だったと思う。
だってゆかりんの
「お前が泣いてんじゃねーよ!!!」
って叫びは、主人公のソータがずっとずっとサエコに言いたかった言葉だもん。
人の心を踏みにじるってどういうことか、この場面で描きたかったんだと思う。
大事な場面だよ~。
ただ、まつりちゃんはかわいそうだよね。
だましたのは男なのに、まつりちゃんだけがゆかりんに罪悪感もって
「あたしも悪いの!共犯なの!!」
って自分責めちゃってさ。
男がまつりちゃんとゆかりんをバカにして心と体をふみにじっただけなのに。
まあそれでも
「わかっててもやめなかった」
のはたしかにまつりか。
まつりとゆかりんが見えている現実は別物です。
まつりはずっと
「ゆかりんが本命彼女で、私は悪い間女」
だと思い込んでいたし、ゆかりんの口ぶりから察するに
「まつりはオリヴィエくんという彼氏を持ちつつ、私の好きな人にまで手を出して手玉にとった」
って思ってるんじゃないでしょうか。
二人とも被害者なのに…ゆかりん、襲うなら男を~!
この
「見えてる現実は人それぞれ違う」
描写はすでにサエコが髪を切って初めてショコラヴィにやってきた場面でさりげなく描かれています。
サエコの見てる現実とソータの見てる現実は全然違うものとしてそれぞれに受け止められている。
上手いっ!(何回目?)
続く、オリヴィエからのまつりへの感動プロポーズとアレな言葉のやりとりはう~んと感じつつも、まあ一番いい流れかなと思って読みました。
腕にも頭にも悲しいことに傷が残るという悲しい現実の前でも
「ゆかりんがああなっちゃうのはあたしのせいだ…」
と涙するまつりはピュアすぎてバカだけど、いいこであるに違いはないし。
オリヴィエならあそこでかける言葉はアレしかないだろう。
「まつりちゃんバカだからうんぬん」
のくだりは当時の女性蔑視を若干出してるが、まあ意味があるのでしょう。
よかったね、まつりちゃん。
【ハッピーハッピーエンディングとそれから】
最終話はオリヴィエとまつりの結婚式。
サエコは結婚式に呼ばれず(当たり前か)薫子さんと楽しくお茶する場面でサムシングブルーを
「まつりちゃんに渡してね」
とたくしています。
サエコラストシーンは短めのストレートボブで、前髪に飾りピン。
これは
「大人になろうとするサエコ」
と
「私の好きなものを大切にするサエコ」
のハイブリッドですよね。
この時の薫子はロングヘアですが、ラストシーンでは短くカット。
これも彼女が変わる暗示かもしれません。
エレナとソータはそのまま。
これも暗示だね。
次のクリスマスケーキはエレナにインスパイアされて作った人気ボンボンのケーキ版であり、バレンタインテーマは
「ぽかぽかしたあったかくなるような、ホッとするようなチョコレート」
っていうのもバッチリシンクロした作り。
いいぞいいぞ~細部までテーマがしっかりつまってる~。
最後の最後となる場面はソータがお店の中で静かに(原作のソータはちゃんとショコラヴィを続けるよ!)六道さんに感謝し、エレナを想い、支えてくれている全ての人に感謝しながらも
「すべてサエコさんがもたらしてくれた」
と大泣きするソータの場面は、哀しみ(“哀”という漢字をこの作品は大切にしていたので)を昇華していく象徴かな。
「いつまでも何度でも貴女に失恋していたい」
芸術家ならきっとわかる気持ちなんでしょうね。
幸せであたたかいハッピーエンドでよかったです
やっぱり作り物は幸せになれるのが好きだな。
…っていう大好きな話でした
【仕事ができる人ならではのリアルさ】
この作品の
「好き!」
「ステキ!」
と思うことは今まで散々書いてきましたが、それらと同じくらい水城さんすごいな~と思ったのは仕事ができる人ならではのとてもリアルな働きぶりでしたね。
ソータすっごいハードワーカーだし、エレナも一日3食とらないとかとってもリアル。
私は根性もなけりゃ体力もないので、ソータたちのように働けないし、トライした時点で体壊すか死ぬかすると思う。
頑張れる人が売れっ子・人気者・キャリア組として成功していくのね…。
しかし、彼らはそれを余裕でこなしてるわけでなく彼らの次元で追い詰められながら必死に頑張っている…自力じゃぜったい見られない世界を垣間見させてもらった感じです。
そして…ああ、だから漫画家さんて重病になる方がいるんだともわかった。
すごすぎです。
『ご近所物語』で実果子のママ・るり子さん(職業は売れっ子少女漫画家)が
「ママの命削って稼いだお金なんだからね」
って何度も言っていたのをはるかな時をへて理解…。
矢沢あいさんもご病気だと聞いたしなぁ。
水城せとなさん、体を大切して長く漫画を描いてくださいませ。
【最終巻で食べてみたいお菓子!】
最終話で出てくる
「スペキュロスがざくざく入ったタブレット」
(スパイス入りクッキーがたっぷり入った板チョコ、という意味)
だと考えていたのですが、自分で簡単に作ってみたのがすごく美味しくできたのでそれで満足。
(近々記録のためにレシピ記事書きたい)
なので…オリヴィエとまつりの結婚式のためにソータが作るウェディングケーキ、が食べたいです
シンプルで綺麗なクロカンブッシュステキ
これにものっているショコラヴィのロゴは、失恋を栄養にして新しい幸福を生み出すって意味だったんだね。
さすが~ぶれてない~・
【原作についてるもうひとつのお楽しみ】
原作漫画を読むとついてくるもうひとつのお楽しみが、水城せとなさんのメッセージが全巻読めることですね。
すごく楽しいですよ。
若々しい文字でつづられる彼女(女性だよね?)の言葉は漫画と同じくらい面白いです。
楽しい漫画とメッセージを本当にありがとうございました