意識の底の方から声が聴こえた。自分の声と彼の声が。
暗闇の中に響くそれは、かつて抱いていた彼への感情と、彼が雪に抱いていた彼の感情だった。
捕って食われる いや、そうじゃない
一人でちゃんとやっていけますから よく間違いを犯すね
気をつけろって言っただろ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/68/da89721bba12fbf2948ebc3c930c578c.jpg)
それは次第に変化して行く。
彼と彼女はまるで鏡のように、互いに影響を及ぼし合って変わりゆく。
何をそんなに悩んでるの 俺と付き合わない?
良い人間でいたいけど‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/b5/dc2cbc957b18ca7b735e22bb78aba498.jpg)
変わらないものとは何だろう。
長い時を経たとしても、さざ波に揺られ続けたとしても。
「う‥う‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/11/2176bfbd6ccb0a0d4150d1cbf041b736.jpg)
雪の意識がだんだんと覚醒に向かう。
鼓膜の裏に響いていた声を振り切って、雪はガバッと飛び起きた。
「奨学金!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/d6/9907163348b889674b13c50839fcd8f1.jpg)
口をついて出たのは、ある意味、時を経ても変わらず欲している「奨学金」だった。
起き上がった勢いで、雪は思わずベッド脇に転げ落ちる。
「ぎゃっ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/5e/746d7ee1d86ce9cfba8e3e5b5a32bc8e.jpg)
バタン!と大きな音を出して転げた雪に、
淳はベッドの上から声を掛けた。
「大丈夫?」「????」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/04/ebc386d356a688bab5c0db1f4bf4cacd.jpg)
未だ状況を把握出来ない雪。
淳は彼女に向かって手を伸ばす。
「ほら」
「あ、え‥?あぁ、ハイ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/7d/c199f6ebd844973201dd4c0557618b74.jpg)
雪が淳の手を掴んで力を掛けた時、不意に淳が眉間に皺を寄せた。
「あっ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/4b/12594e1c513770f82791df9d0d876a21.jpg)
雪はすぐに手を離し、心配そうに声を掛ける。
「先輩、手まだ痛みますか?」「え?ううん、大丈夫だよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/ee/863da6a6c2f18e2e7a7d96665c91f7bd.jpg)
しかし淳はそれを否定し、
まだベッド脇にしゃがんでいる雪を引き上げた。
「さ、起きて。学校行かなきゃ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/5a/fca323e10af1c3a532e940a248eb7a3f.jpg)
「朝ご飯食べてから行こうな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/01/0869d8ae0add3329c207a5279cf0cdae.jpg)
「それにしてもお行儀よく寝てたね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/65/af077f27bc42db1f43456173497b4a01.jpg)
はは、と小さく笑いながらキッチンへと歩いて行く淳。
その背中を見つめながら雪は、自身の胸の中に微かな違和感が生じるのを感じる。
寝てない‥?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/9b/73d7019b35592504a40aad5daa4744fa.jpg)
それは小さな小さな違和感の芽‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/d8/31c919f3b44886e2945b957bfd5d49f8.jpg)
朝食を済ませた二人は家を出た。雪は大学へ、淳は会社へ。
その分かれ道で、二人は別れの挨拶を交わした。
「送って行けなくてごめんな」「全然です!先輩のお家、大学から超近いですもん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/e0/420295f5bd892c06f67158589222a3b6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/b2/b16ae9649a162cf9aec256d3bd5ac5a4.jpg)
二人は互いに笑顔を浮かべ、互いの顔を見つめ合った。
頬に触れた淳の手に、心配そうに雪が手を伸ばす。
「手、大事にしてくださいね」「うん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/61/f7f7632e1a0e69698f94e9891af5cac3.jpg)
まだ冷たい朝の空気の中で、繋いだ手がとても温かだった。
「へへ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/b9/026840b029c4eeeccde0246a593150ad.jpg)
先にその手を放したのは淳。
「早く行きな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/35/1128e321647daf47b28a2507d7ed69c7.jpg)
咄嗟に手を伸ばしたのは雪。
「あっ!もうちょっと‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/ca/bb149fd41321ebe31431b014c2d9e0d0.jpg)
微かな違和感とすれ違いが、二人の間に微妙な空気となって残る。
「あ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1b/45/ed2ef3cb47826326646ece5c96ab15f2.jpg)
淳は微笑みながら、もう一度その手を自分から放した。
「手は大丈夫だから。行きな」「あっ、はい!それじゃ行きますね。気をつけて!」
「うん、雪ちゃんもね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/6b/a3ed71225c783eaf6fb98955be6067d1.jpg)
雪は「何だろう?」と首を傾げながら、そこに漂う空気を微かに気にした。
そんな彼女の背中をじっと見つめる淳。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/23/2236ac893b076f97135cfa47b41b0907.jpg)
そして彼は、ニッコリと微笑みながら彼女にエールを送った。
「試験、頑張れよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/57/0731b6b82a8c448700db2bd62c2b1388.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/a9/82a735c24a634232d514909d1a484a7a.jpg)
胸に芽生えた小さな違和感の芽は、その彼の笑顔を目にした途端見えなくなった。
雪もまたニッコリと笑いながら、彼のそのエールを受取る。
「はい!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/fc/1d0dbf3212712cbbdb22fb9c57c5f039.jpg)
「奨学金!」「うっ‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/93/f97eabd586e3740cd7a67876333f2c41.jpg)
寝ぼけて口にしたその言葉を冗談めかしながら、二人は笑い合う。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/fb/efde3b821cf621e022ccd5d254edc253.jpg)
彼女の背中が見えなくなるまで、淳はその場で見送り続けた。
淳の胸の中にある違和感の芽は、もう随分と育っている‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/50/aecdf742ff347754ee0de8c7bd0ff973.jpg)
大学までの道を歩きながら、すっかり冷たくなった空気を感じながら、雪は一人考えていた。
期末試験が終わったら、冬休みで‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/6a/e06adcfc32648b94975108e33134b28c.jpg)
冬休みが終わったら、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/95/ccd5b9e275e079cc553cb772ed1988ce.jpg)
三年生も終わり‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/9b/b5ed2c89875c4464c6794733da7370f2.jpg)
時は刻一刻と流れて行く。
見上げた空に、白い息が溶けて消えて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<微かな違和感>でした。
なんともいえない微妙な空気感ですね〜。淳の作り笑い、雪はなんとなく違和感を感じてはいるけど、
その原因にはまだ至らないですよね‥。
三年生も終わり、のモノローグが「もうすぐ連載も終わり」と受け取れて切ない私です![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face_naki.gif)
それにしても淳の全身茶色コーデが気になる‥。
次回は<前進と停滞>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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暗闇の中に響くそれは、かつて抱いていた彼への感情と、彼が雪に抱いていた彼の感情だった。
捕って食われる いや、そうじゃない
一人でちゃんとやっていけますから よく間違いを犯すね
気をつけろって言っただろ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/68/da89721bba12fbf2948ebc3c930c578c.jpg)
それは次第に変化して行く。
彼と彼女はまるで鏡のように、互いに影響を及ぼし合って変わりゆく。
何をそんなに悩んでるの 俺と付き合わない?
良い人間でいたいけど‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/b5/dc2cbc957b18ca7b735e22bb78aba498.jpg)
変わらないものとは何だろう。
長い時を経たとしても、さざ波に揺られ続けたとしても。
「う‥う‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/11/2176bfbd6ccb0a0d4150d1cbf041b736.jpg)
雪の意識がだんだんと覚醒に向かう。
鼓膜の裏に響いていた声を振り切って、雪はガバッと飛び起きた。
「奨学金!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/d6/9907163348b889674b13c50839fcd8f1.jpg)
口をついて出たのは、ある意味、時を経ても変わらず欲している「奨学金」だった。
起き上がった勢いで、雪は思わずベッド脇に転げ落ちる。
「ぎゃっ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/5e/746d7ee1d86ce9cfba8e3e5b5a32bc8e.jpg)
バタン!と大きな音を出して転げた雪に、
淳はベッドの上から声を掛けた。
「大丈夫?」「????」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/04/ebc386d356a688bab5c0db1f4bf4cacd.jpg)
未だ状況を把握出来ない雪。
淳は彼女に向かって手を伸ばす。
「ほら」
「あ、え‥?あぁ、ハイ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/7d/c199f6ebd844973201dd4c0557618b74.jpg)
雪が淳の手を掴んで力を掛けた時、不意に淳が眉間に皺を寄せた。
「あっ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/4b/12594e1c513770f82791df9d0d876a21.jpg)
雪はすぐに手を離し、心配そうに声を掛ける。
「先輩、手まだ痛みますか?」「え?ううん、大丈夫だよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/ee/863da6a6c2f18e2e7a7d96665c91f7bd.jpg)
しかし淳はそれを否定し、
まだベッド脇にしゃがんでいる雪を引き上げた。
「さ、起きて。学校行かなきゃ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/5a/fca323e10af1c3a532e940a248eb7a3f.jpg)
「朝ご飯食べてから行こうな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/01/0869d8ae0add3329c207a5279cf0cdae.jpg)
「それにしてもお行儀よく寝てたね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/65/af077f27bc42db1f43456173497b4a01.jpg)
はは、と小さく笑いながらキッチンへと歩いて行く淳。
その背中を見つめながら雪は、自身の胸の中に微かな違和感が生じるのを感じる。
寝てない‥?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/9b/73d7019b35592504a40aad5daa4744fa.jpg)
それは小さな小さな違和感の芽‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/d8/31c919f3b44886e2945b957bfd5d49f8.jpg)
朝食を済ませた二人は家を出た。雪は大学へ、淳は会社へ。
その分かれ道で、二人は別れの挨拶を交わした。
「送って行けなくてごめんな」「全然です!先輩のお家、大学から超近いですもん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/e0/420295f5bd892c06f67158589222a3b6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/b2/b16ae9649a162cf9aec256d3bd5ac5a4.jpg)
二人は互いに笑顔を浮かべ、互いの顔を見つめ合った。
頬に触れた淳の手に、心配そうに雪が手を伸ばす。
「手、大事にしてくださいね」「うん」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/61/f7f7632e1a0e69698f94e9891af5cac3.jpg)
まだ冷たい朝の空気の中で、繋いだ手がとても温かだった。
「へへ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/b9/026840b029c4eeeccde0246a593150ad.jpg)
先にその手を放したのは淳。
「早く行きな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/35/1128e321647daf47b28a2507d7ed69c7.jpg)
咄嗟に手を伸ばしたのは雪。
「あっ!もうちょっと‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/ca/bb149fd41321ebe31431b014c2d9e0d0.jpg)
微かな違和感とすれ違いが、二人の間に微妙な空気となって残る。
「あ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1b/45/ed2ef3cb47826326646ece5c96ab15f2.jpg)
淳は微笑みながら、もう一度その手を自分から放した。
「手は大丈夫だから。行きな」「あっ、はい!それじゃ行きますね。気をつけて!」
「うん、雪ちゃんもね」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/6b/a3ed71225c783eaf6fb98955be6067d1.jpg)
雪は「何だろう?」と首を傾げながら、そこに漂う空気を微かに気にした。
そんな彼女の背中をじっと見つめる淳。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/23/2236ac893b076f97135cfa47b41b0907.jpg)
そして彼は、ニッコリと微笑みながら彼女にエールを送った。
「試験、頑張れよ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/57/0731b6b82a8c448700db2bd62c2b1388.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/a9/82a735c24a634232d514909d1a484a7a.jpg)
胸に芽生えた小さな違和感の芽は、その彼の笑顔を目にした途端見えなくなった。
雪もまたニッコリと笑いながら、彼のそのエールを受取る。
「はい!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/fc/1d0dbf3212712cbbdb22fb9c57c5f039.jpg)
「奨学金!」「うっ‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/93/f97eabd586e3740cd7a67876333f2c41.jpg)
寝ぼけて口にしたその言葉を冗談めかしながら、二人は笑い合う。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/fb/efde3b821cf621e022ccd5d254edc253.jpg)
彼女の背中が見えなくなるまで、淳はその場で見送り続けた。
淳の胸の中にある違和感の芽は、もう随分と育っている‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/50/aecdf742ff347754ee0de8c7bd0ff973.jpg)
大学までの道を歩きながら、すっかり冷たくなった空気を感じながら、雪は一人考えていた。
期末試験が終わったら、冬休みで‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/6a/e06adcfc32648b94975108e33134b28c.jpg)
冬休みが終わったら、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/95/ccd5b9e275e079cc553cb772ed1988ce.jpg)
三年生も終わり‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/9b/b5ed2c89875c4464c6794733da7370f2.jpg)
時は刻一刻と流れて行く。
見上げた空に、白い息が溶けて消えて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<微かな違和感>でした。
なんともいえない微妙な空気感ですね〜。淳の作り笑い、雪はなんとなく違和感を感じてはいるけど、
その原因にはまだ至らないですよね‥。
三年生も終わり、のモノローグが「もうすぐ連載も終わり」と受け取れて切ない私です
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それにしても淳の全身茶色コーデが気になる‥。
次回は<前進と停滞>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
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