赤山家とYG企業の社員達は門を出たところで大揉めに揉めた。
「訴えてやる!」「もういいじゃない」
「さようなら、もう二度と来ないで下さいよ!」

怒り心頭の社員達がそう言って会社に入った後、パアンという殴打の音がその場に響く。
「お前って奴は!!」

「大馬鹿野郎め!そんなに簡単に金が稼げると思ったのか?!」

父はブルブルと震えながらゲンコツを固めて蓮に向けて怒鳴った。
叩かれた蓮は頭を押さえて項垂れている。
「誰がお前に金儲けしろと言った?!どうしていきなりこんなバカな真似をしたんだ?!」

思わず母が父に「ほどほどにして下さいよ」と言葉を掛けるも、父の怒りはおさまらなかった。
蓮は目に涙を溜めながら、震える声で言い返す。
「じゃあどうしろって言うんだよ?!」

「こんな風になるって分かってて来たと思う?!
どうしていつもダメなヤツ呼ばわりするんだよ?!俺は自分なりに頑張ったつもりなんだよ!」

蓮は自身の気持ちを叫んだ。しかし母はその態度を諌めて蓮の耳を引っ張る。
「アンタって子は謝りもしないで!」

それでも蓮は吐露を止めなかった。長年溜めてきたものが、息せき切って溢れ出す。
「母さんも父さんも姉ちゃんには嫁に行けばそれでいいって言うくせに、
どうして俺には将来面倒見ろとか言うんだよ?!」

「小さい頃から「蓮、出世して家を頼むぞ」って耳にタコが出来るほど聞かされて!」

父は反省もせず言い返す蓮に、「なんて奴だ‥」と呆れていた。
けれど蓮の主張は止まらない。幼い頃から感じて来た長男のプレッシャーに、押し潰されそうで限界だったのだ。
「家族皆俺に勝手に期待して勝手に失望して!
俺だって自分がバカで迷惑掛けてるって分かってるよ!
でも何者にもなれなくておかしくなりそうだった!」


「毎日毎日罪悪感で押し潰されそうだったんだよ!」


傷ついた魂の叫びが、欠けた月が浮かぶ空に溶けて行く。
自身の気持ちを吐露し終わった蓮のことを、全員が静かに見守っていた。

俯く蓮を、その恋人のことを心配そうな顔で見つめる恵。

長男が抱えて来た重荷に初めて触れ、顔を見合わせている両親。

少し離れた場所で、その様子を静観する亮。

そして淳の隣で、雪は静かにその蓮の叫びを受け取っていた。

はっ‥

いくらか冷静になった蓮は、不意に何かに気付いたように顔を上げた。
今自身が発した言葉が、姉を傷つけたのではないかと思い至って。
「あ‥姉ちゃんのせいじゃないから‥ただ状況が‥」

「ただ俺が置かれてる状況が‥情けなくて‥ゴメ‥」

消え入りそうな蓮の謝罪を聞く雪の横顔を、淳はずっと凝視していた。
彼女がどれだけ傷ついたかを慮り、淳は彼女の手に指を伸ばす。

しかし、淳がその手を握ることは叶わなかった。
雪は蓮に向かって歩いて行くと、肩に手を置いてぐいと引き寄せる。
「!」

「分かってるよ。今までしんどかったね」

雪は蓮の目を見ながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「今まで蓮がストレス溜めながら悩んでた気持ちも分かるよ。
今日もアンタなりに頑張ろうと思ってやったことなんでしょう?
皆アンタのことが心配なんだよ。怒ってるわけじゃない」

「辛かったね」

それは皆が蓮を責める中で、初めて掛けられた温かな言葉だった。
気張っていた心の表面が、柔らかく溶けて行く。
「う‥」

「う‥うわああん!怖かったよぉ!あそこで死ぬんだと思ったよぉ!マジで怖かったよぉぉぉ」
「うんうん」「ったくコイツは‥」

家族に慰められてむせび泣く弟の姿を、穏やかな気持ちで雪は受け止めていた。
責任は誰にあるのかを突き詰めたり、互いの不公平さを論じ合うよりも、
ただ慰めが必要な時もある。

私もそうだった。

ほんの少し前までは、こんな感情を抱くことは出来なかっただろう。
雪が経験して来た様々な出来事が、彼女に周りを気遣う余裕を与えていた。
その雪の態度が、蓮に対する両親の怒りを優しく解いて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<蓮の吐露>でした。
雪ちゃん優しいなぁぁ
いいですねこんなお姉ちゃん‥
でも少し前の雪なら、自分と比べて卑屈になっちゃってたような気がしますよね。
そうならずに蓮を慰められたのはやはり淳化の影響が大きいんじゃないでしょうか。
今回「握れなかった雪の手」がすごく意味のあるシーンになっていますよね。
その後のコマの淳の無言の後ろ姿が、暗雲漂います‥。
次回は<変化の余韻>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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「訴えてやる!」「もういいじゃない」
「さようなら、もう二度と来ないで下さいよ!」

怒り心頭の社員達がそう言って会社に入った後、パアンという殴打の音がその場に響く。
「お前って奴は!!」

「大馬鹿野郎め!そんなに簡単に金が稼げると思ったのか?!」

父はブルブルと震えながらゲンコツを固めて蓮に向けて怒鳴った。
叩かれた蓮は頭を押さえて項垂れている。
「誰がお前に金儲けしろと言った?!どうしていきなりこんなバカな真似をしたんだ?!」

思わず母が父に「ほどほどにして下さいよ」と言葉を掛けるも、父の怒りはおさまらなかった。
蓮は目に涙を溜めながら、震える声で言い返す。
「じゃあどうしろって言うんだよ?!」

「こんな風になるって分かってて来たと思う?!
どうしていつもダメなヤツ呼ばわりするんだよ?!俺は自分なりに頑張ったつもりなんだよ!」

蓮は自身の気持ちを叫んだ。しかし母はその態度を諌めて蓮の耳を引っ張る。
「アンタって子は謝りもしないで!」

それでも蓮は吐露を止めなかった。長年溜めてきたものが、息せき切って溢れ出す。
「母さんも父さんも姉ちゃんには嫁に行けばそれでいいって言うくせに、
どうして俺には将来面倒見ろとか言うんだよ?!」

「小さい頃から「蓮、出世して家を頼むぞ」って耳にタコが出来るほど聞かされて!」

父は反省もせず言い返す蓮に、「なんて奴だ‥」と呆れていた。
けれど蓮の主張は止まらない。幼い頃から感じて来た長男のプレッシャーに、押し潰されそうで限界だったのだ。
「家族皆俺に勝手に期待して勝手に失望して!
俺だって自分がバカで迷惑掛けてるって分かってるよ!
でも何者にもなれなくておかしくなりそうだった!」


「毎日毎日罪悪感で押し潰されそうだったんだよ!」


傷ついた魂の叫びが、欠けた月が浮かぶ空に溶けて行く。
自身の気持ちを吐露し終わった蓮のことを、全員が静かに見守っていた。

俯く蓮を、その恋人のことを心配そうな顔で見つめる恵。

長男が抱えて来た重荷に初めて触れ、顔を見合わせている両親。

少し離れた場所で、その様子を静観する亮。

そして淳の隣で、雪は静かにその蓮の叫びを受け取っていた。

はっ‥

いくらか冷静になった蓮は、不意に何かに気付いたように顔を上げた。
今自身が発した言葉が、姉を傷つけたのではないかと思い至って。
「あ‥姉ちゃんのせいじゃないから‥ただ状況が‥」

「ただ俺が置かれてる状況が‥情けなくて‥ゴメ‥」

消え入りそうな蓮の謝罪を聞く雪の横顔を、淳はずっと凝視していた。
彼女がどれだけ傷ついたかを慮り、淳は彼女の手に指を伸ばす。

しかし、淳がその手を握ることは叶わなかった。
雪は蓮に向かって歩いて行くと、肩に手を置いてぐいと引き寄せる。
「!」

「分かってるよ。今までしんどかったね」

雪は蓮の目を見ながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「今まで蓮がストレス溜めながら悩んでた気持ちも分かるよ。
今日もアンタなりに頑張ろうと思ってやったことなんでしょう?
皆アンタのことが心配なんだよ。怒ってるわけじゃない」

「辛かったね」

それは皆が蓮を責める中で、初めて掛けられた温かな言葉だった。
気張っていた心の表面が、柔らかく溶けて行く。
「う‥」

「う‥うわああん!怖かったよぉ!あそこで死ぬんだと思ったよぉ!マジで怖かったよぉぉぉ」
「うんうん」「ったくコイツは‥」

家族に慰められてむせび泣く弟の姿を、穏やかな気持ちで雪は受け止めていた。
責任は誰にあるのかを突き詰めたり、互いの不公平さを論じ合うよりも、
ただ慰めが必要な時もある。

私もそうだった。

ほんの少し前までは、こんな感情を抱くことは出来なかっただろう。
雪が経験して来た様々な出来事が、彼女に周りを気遣う余裕を与えていた。
その雪の態度が、蓮に対する両親の怒りを優しく解いて行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<蓮の吐露>でした。
雪ちゃん優しいなぁぁ


でも少し前の雪なら、自分と比べて卑屈になっちゃってたような気がしますよね。
そうならずに蓮を慰められたのはやはり淳化の影響が大きいんじゃないでしょうか。
今回「握れなかった雪の手」がすごく意味のあるシーンになっていますよね。
その後のコマの淳の無言の後ろ姿が、暗雲漂います‥。
次回は<変化の余韻>です。
☆ご注意☆
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半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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