
笑顔が胡散臭い男とメガネの受付嬢は、相変わらずそこから動かなかった。
まるで門番の様に、雪と淳を監視する。
「あの」

そして遂に淳は、男に近付いて声を掛けた。
「お手洗いはどこですか?」

男は笑顔で対応する。
「あ、こちらです〜。一階にありますが、
廊下突き当りは工事中で通れませんのでね〜」
「はい。ありがとうございます」


淳が礼を言って軽く会釈をすると、男と受付嬢は笑顔で彼を見送った。
淳は案内された方向へと踏み出しながら、チラと周りに視線を走らせる。

あのドアには鍵が掛かってる。
あそこは外部から人が入ってくる可能性があるから、疑われない為にも最後まで閉められないはず

さっき外から見た時、建物の奥側にも廊下や階段に付けるような窓が見えた

どのドアが開いているか閉まっているか、そしてどこに通路が隠れているかー‥。
淳はこの建物の造りを頭に叩き込みながら、ゆっくりと廊下を歩いた。
後ろを振り返ると、案の定受付の男は付いて来ている。
やっぱりな

淳は今スパイさながらに、隠された通路を見つけ出して蓮の居場所を突き止めようとしていた。
しかし男に監視され付けられている今のままでは身動きが取れない。
そこで雪の出番である。
「あの!」

「このパンフレットなんですけど、
読んでみたらそんな変な内容でもなかったので‥」

「一度詳しい説明を聞いてみたいんですが‥」「おっ!」

その雪の言葉に男が食い付いた。
男は淳を付けるのを止め、雪に向かって詳しい説明をし始める。
「どうせ弟を待ってなきゃいけないのでその間‥」
「はい、それは良いご決断ですね〜!やっぱり高給なのが魅力ですよねぇ?
ピラミッド商法と言っても悪いものばかりじゃありませんから〜もしそうならとっくに消えてますよぉ」

途中受付嬢が淳の方をチラリと見たが、淳がニッコリと笑顔を浮かべると顔を赤らめて微笑んだだけだった。
雪が二人の気を逸している間に、目当ての通路を見つけ出す。
あれだ

椅子でブロックされた僅かな隙間から、上へと続く階段が見えた。
淳はすばやい動作でそちらに近付くと、その中へと入って行く。

ここは二階。雪を一人にしてるから早く‥

そう思いながら階段を上り始めた時だった。
「うっ‥」

視線の先に、見覚えのある男の姿が見えた。
男は片手で相手を締め上げ、階段には低い呻き声が響いている。
「うううっ‥!」


不意に現れた河村亮の姿を目にして、淳は思わず目を丸くした。
亮は階下から視線を感じ、険しい目つきでそちらを見る。

「‥‥‥‥」「おいっ‥!ううっ‥!」

男の呻き声が響くその空間で、数秒間淳と亮は視線を合わせていた。
自分が行く道の先に現れた亮のことを、淳は疎ましさを含んだ目つきで見る。

数秒の後、二人は会話を交わし始めた。
「ま、そーだよな。お前も来るだろうとは思ってたぜ」「何をやってる?」
「何もしてねーって。正当防衛だ正当防衛」

「三階に居たんじゃなかったのか?蓮君は?」
「いやアイツとは別々の部屋にされたんだよ。便所行くっつってアイツが居るはずの部屋見たけど
居なくてよ」

「んで下の階降りようとしたらコイツがずっとついてくっから‥でも今三階には誰もいな‥」
「何してるんですか?!」

「あ、下りて来ちまった」

そこでスパイ大作戦は頓挫した。
二人+雪はまとめて連れられて、一つのソファに座らされる。
ドドン!

三人を目の前にして遂に、笑顔の胡散臭い男の仮面が剥がれた。
亮に締め上げられたガタイの良い男も青筋を立てて三人を睨んでいる。
「困りますねぇこんなことされちゃあ〜〜〜。一歩間違えば暴行罪ですよ?暴行罪!」

「暴行罪ィ?」

やにわになすりつけられた”暴行罪”に、その道に長けた(?)亮が食って掛かった。
「暴行罪ってのがどういうモンかそちらさん分かって言ってんの?!
そこのでっかいのが先にオレの腕引っ張って痛かったんスけどぉ?!」「うっ


雪はその間淳に蓮の所在を聞いたが、淳の答えはNOだった。
雪がいよいよ男達に向かって声を上げる。
「あのねぇ」

「それじゃ一体私の弟は‥」
「あー!腕折れたかもしんねぇ!あー!」「冗談も大概にして下さいよ?!」
「いやだから弟は‥」「冗談だと思うなら警察呼んで白黒つけましょうか?」

雪が男達を問い質そうとすると、彼女を庇う為に二人は口を開く。
「そーだそーだ!そーなったら困るのはどっちかねぇ?!」「弟はどこに‥」
「どうもおかしな会社のようですね。
受かっても行かせるつもりはありませんので、すぐに弟を呼んできていただけませんか」

「おとうと‥」

雪の前には二人のスパイが、いや二人のボディガードが睨みを利かせて鎮座していた。
ガッチリと彼女を守る体勢で。

「‥‥‥」

男は表情を引き攣らせながら、それでもなんとか笑顔を作って口を開く。
「ははは!そんなに興奮しないで下さいよぉ〜。
それじゃそちらの方は面接辞退されるんですね?さっきからずっとタメ口‥」「おう」

「もうすぐ本当に面接終わりますから、おとなしく待ってて下さいねぇ?」
「ホントだな?」「本当ですってば!」

男達はそう言って部屋を出て行った。
去り際にギロリと雪を睨んで‥。

「扉は開いてますから!」
今傷ついた目で私の事見てた‥

そして雪達は暫しその場に残された。
しんとした静寂が、三人のスパイを包み込む‥。

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<スパイ大作戦>でした。
さて今回‥なんだかこのコマが胸熱!

昔のこの雪ちゃんを思い出して胸熱!

自分を守ってくれる人なんて誰も居ない、とかつて思ってた雪ちゃんが、
努力して向き合って作ってきたからこその関係ですよね。
腕力の亮と頭脳の淳と‥心強すぎる味方だわ‥。
でもやっぱり肩幅が気になる‥!

ま、いっか‥
次回は<心地良い狭間>です。
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