
話題のSGビル前に、一台の高級車が停まっていた。
小西恵はその中で、心配そうに携帯電話を握り締めている。蓮からの連絡は、まだ無い。


雪と淳は今その建物の中に居た。
雪は鋭い目を光らせ、淳は目を丸くしながら、二人並んで座っている。

二人は今、ヤングマン産業受付の笑顔が胡散臭い男と向かい合っているのだった。
「あぁ、弟さんですね〜?一度申請書を調べてみますので〜」

「現在面接しておりますので三階にいらっしゃいますねぇ。
岸本さん、申請書を持って来てくれます?」「はい」

雪は「三階」と聞いて鋭い目をますます光らせた。
胡散臭い男は依然ニコニコと笑顔を浮かべながら、二人に向かって口を開く。
「お茶はいかがですかぁ?鞄お預かりしましょうかぁ?」
「いえ、結構です」

男からの申し出に、淳は柔和な笑顔でやんわりと拒否した。
その笑顔を見て、男はずずいと身を乗り出す。
「お兄さん本当に男前でいらっしゃいますね!当社に来て頂けたら絶対ピッタリ‥あはは!」

雪は男に向かって、気になったことを単刀直入に切り出した。
「あの、あちら側のドアには鍵がかかっていましたが、
中に人が居る場合でもそうするんですか?」「あ〜はい〜。使わないドアですから〜」

男は笑顔を崩さぬまま、若干の皮肉も混ぜて雪の敵意をはぐらかそうとしていた。
一方淳は険しい表情の雪を見て、建物の構造やその内情を密かにチェックする。
「お姉さんは本当に心配性ですね〜面接が終わり次第すぐに降りて来られますのでご心配なく〜
こんな風にご家族様がいらっしゃるのは珍しいですよぉ。弟さん、とっても愛されてらっしゃいますね〜」

「では少々お待ち下さい〜ドアは開けてますので〜」

男はそう言って手を振りながら出て行った。
廊下に響く笑い声がだんだんと遠くなる。

淳は言葉を選びながら、自身の気持ちを口にした。
「立地もそうだけど、こんな時間まで面接とか‥ここってやっぱり‥」

隣では雪がブチ切れ三秒前だ。
「蓮の奴‥ぶっ飛ばす‥」

すると再び受付の男が二人の前に顔を出した。
「あ、それとですね〜」

「お待ち頂いてる間、一度これに目を通されてはいかがですかぁ?
お二人共まだお若いですし、こういう経験も大事ですよぉ」

中央にピラミッドの形をしたグラフが書かれたそのパンフレットを、
同じ頃蓮もまた嫌というほど見せつけられていた。
「どうです?これを全て売ればすぐに課長になれて、
出来高報酬ももらえます。悪い話じゃないでしょう?」

「嫌ですってば!だってこれ全部自分のお金で買わなきゃいけないんでしょ?!」
「いえいえ、必ずしもそうとは限りませんよ」

二人はもう何回もこのやり取りを繰り返していた。
何度首を横に振っても、中年男はまた最初から説明してくるのだ。
「テレビの見すぎでは?頭が固い固い!ヒョロヒョロのくせに‥」
「はぁ?!今なんつった?!」

「では一回りして来る間にもう一度よく考えてみて下さいね。
時間はたっぷりありますので、沢山悩んでもらって結構ですよ」
「嫌だって言ってるでしょ?!」

「もう夜じゃんかぁぁ!」

すでに日はとっぷりと暮れていたが、蓮がここから出してもらえる見込みはまるでなかった。
それは彼の姉が迎えに来たという事実も、その結論に何ら変化を与えない‥。

パンフレットに目を通し終わった雪は、おどろおどろしいオーラを纏っていた。
どう考えてもピラミッド商法だ。こんなものに手を出すなんてとんでもない。
雪は目の前の胡散臭い男に向かって結論を急ぐ。
「結構です。もう弟を連れて帰ります」「そうなんですね〜」

「えっと〜」

「それでは面接が終わるまでお待ち下さいね〜」

男はそう言って再び部屋を出て行った。
雪と淳は黙って男が出て行ったその方向をじっと見つめる。

「お待ち頂いてる間に、ぜひパンフレットをご覧ください〜」

結構ですと拒否したのに、男は再びそのパンフレットを勧めてきた。
その糠に釘の対応を目の当たりにして、二人は顔を見合わせる。

ひょいっ

雪と淳は身体を乗り出し、先程出て行った男が立っている場所を覗いてみた。
メガネの受付嬢と共にそこにじっと立っている。

何から何まで胡散臭い。
雪はその場からじっと男を睨んでみた。

コソコソと先輩に向かって口を開く。
「ずーっとあそこに立ってますよね。こっち見てるの隠そうともせず‥」
「あそこの受付の人も、さっきあの男の人が何か持って来るよう指示したはずなのに、
探しに行ってもないんだよ」

じっと男を見つめる二人を見て、男はまたしてもパンフレットを掲げて見せた。
「ナイから


雪のイライラはもう限界に達しようとしていた。
何度蓮の居場所を聞いてもはぐらかされ、もうかれこれ長い時間待たされている。
「ああもう、本当にどうすればいいんだろ?!
警察に通報しようにも証拠がないし‥」

あ

”証拠”という単語を口に出した途端、一つの案が思いついた。
雪は先輩の耳に手を当てると、コソコソとそのアイデアを彼に伝えてみる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<突撃>でした。
いやー変な会社ですね‥。もう健太ここに就職すればええんちゃうか(投げやり)
蓮を迎えに来た雪も淳もコートも脱がず待っているところに二人の警戒心が見て取れますね。
恵を車の中で待たせているのも雪の親心を感じる‥。
次回は<スパイ大作戦>です。
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