![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/c4/0249d2c9dd95f7df5620bbac2b7eb922.jpg)
その建物の前に、二人は佇んでいた。
やる気満々の蓮と、連れて来られて乗り気じゃない亮と。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/72/6c0a5624cbdc8e0601579452027e0081.jpg)
「とにかくガッポリ稼ぐんダーッ!」「ま‥悪かねーけど‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/5a/ee109788a8042329fb8f3454138da4e9.jpg)
「俺らなら出来ーる!」
「まー特に断る理由もねーけどよ。オレ何気にコミュ力高ぇし‥」
「お待ちしておりました」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/90/395f06b41319e38cb41bb308034e6f4d.jpg)
社内の人間に促され、二人は建物の中へと入って行く。
「ようこそ!」「ハイ!こんにちはーっ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/4c/912c8f95a7f30adbfbd3ca649861a104.jpg)
バタン!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/51/aa4f0f502701fa25c0d196e8035eb3b9.jpg)
その扉は二人の背後でガチャリと閉められた。
訝しげな視線を送る亮と目を丸くする蓮に、男はニッコリと笑顔を浮かべて相対する。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/3f/a3b94d6414c3254667322b10a61526ac.jpg)
<実のところ蓮は、この時点で薄々気が付いていたのだが>
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1b/d0/4525aef1e021a68cac2cfdf5fccf5fb2.jpg)
急に警戒モードの蓮は、キョロキョロと辺りを見回しながら慎重に足を進めた。
あっちは閉めなかった‥なら問題ないか?
「二階でプレゼンをしますので、よく聞いて面接に臨んで下さいね」「ハイ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/35/77c76e0a971a50d11c1ff682bf456917.jpg)
この扉の向こうには希望と金がたっぷりとあると信じて‥。
金稼ぐぞ!Many Money!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/95/d31a9e5cc2053c4e0d3f1897342d4bec.jpg)
<それを無理やり否定してしまった>
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/8d/d5e9fa945816695005edb69b3eda7f6e.jpg)
ドドン!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/a1/06d486c22fb00b6b505b31448b33c9ff.jpg)
応募者は一つの部屋に集められ、円形に配置されたテーブルに就いて挨拶を交わした。
「こんにちは〜」「はい、こんにちは」「こんにちは〜」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/6c/68b931538d584fab1dd7b4f8a349c2e8.jpg)
ニコニコと皆に笑顔を振り撒く蓮とは対照的に、亮は無言でただじっと座っている。
じきに担当者らしき中年の男性とガタイの良い男性が二人、室内に入って来た。
「こんにちは〜」「こんにちは」「こんにちは!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/0d/0d039d9bd617f7ac526694bcefb95db5.jpg)
中年男性は柔和な態度で皆に飲み物を聞いて回る。
「何か飲みますか?コーヒー?お茶?」「お茶で!」「オレはいい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/8f/878e60f3f7137c1d7953dac2c8be7186.jpg)
その中年男性の後ろから、ガタイの良い男性が段ボールを持って皆の間を回り始めた。
「鞄をここに。こちらで預からせて頂きます。終わったらお返ししますので」
「あ‥はぁ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/b4/8bfb439d192b67f5e1322a3287474be9.jpg)
箱は蓮と亮の前にも回って来た。しかし亮は首を横に振る。
「カバン持ってねぇ」「あ、それじゃあ携帯電話をお預かりします」
「俺、自分で持ってたいんですけど‥どうして預けなきゃいけないんですか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/00/2a6f57d01aacfc92c8df2d2bdda4658c.jpg)
「実はうちのプレゼンが口コミで広まってまして‥
録画してアップする人がいるみたいなんですよ。どうぞご協力お願いします」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/6c/02617742790d9365169655852724fd13.jpg)
男はそう言いながら、箱を二人の前に差し出し続けた。
後ろに立つガタイの良い男の威圧感が物凄い。
「お願いします」
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蓮はタジタジしながら「あ‥はい」と言って鞄を手に持った。
しかし亮は‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/21/ee934aed54536e92408587fcc1b806bf.jpg)
亮は二人を見上げたまま、動こうとしなかった。
そんな亮に笑顔を見せつつ、この二人もまた動こうとしない。
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だんだんと亮の目つきが鋭くなって来た。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/b9/d49c16497f0c1ac00137c0b5706b8c72.jpg)
そしてこの二人の表情も、貼り付けたような笑顔が徐々に引き攣って行く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/06/438d8d88e742762a9f788b51de44010a.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/1d/8a306575818b3d7b6a06d2b43fe07c6e.jpg)
そんな二人に、今やあからさまにガンを飛ばす亮。
思わず口元を引き攣らせる中年男と、同じ様にガンを飛ばすガタイの良い男‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/46/ea01776366164e2b7e08574b2037ae9c.jpg)
やがて亮は折れ、携帯をその箱の中に入れた。蓮も鞄を入れる。
「どうぞ‥」「ほれ」「ありがとうございます」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/db/36149e6d8150307297bb32ad193a4f74.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/d4/b851f27fa24b2fd87daec6e4a414ad59.jpg)
男達は同じ様に箱を持って皆の前を回る。それを見ながら蓮が悔し紛れにこう言った。
「気にしない気にしない!録画なんかしなくてもどーせ流出すんのに!何を大げさな!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/f3/45016ebaa1d0f35d00b801d232859e74.jpg)
そんな蓮のことを亮はジトッと見ていたが、敢えてその理由については口にしなかった。
「あり?なんでそんな目で見んの?」「別に」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/77/92f231ebf584d6d15a2ece8c8788d383.jpg)
数分後、プレゼンが始まった。
「私どもYM株式会社は、動物と共存可能な「エコ企業」というビジョンを持っており‥
特に弊社が販売致します「香菌剤RBD」は天然成分を配合しておりまして‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/4c/6acf33cc7c56a8d6f7b49f3e326ffc33.jpg)
熱心にノートを取る蓮と、仏頂面で腕を組んだままそれを聞く亮‥。
「書くほどのモンじゃねーだろ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/10/259f003321e7f10a8050057596ad314b.jpg)
刻々と時間は過ぎ、いつしか外は夕焼けに染まっていた。
しかし社内に閉じ込められた蓮と亮が、その夕焼けを見ることはない‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/b7/3de382e35a8cc598add9c0f02a685d6e.jpg)
「あー終わった終わった!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/62/b04354cecf18000f6968fc1d375ec0a5.jpg)
「思ってたよりプレゼンイケてたじゃん!ほらやっぱりちゃんとした会社だったっしょ?」
「知らねーっつの」「三階の面接会場に移動して下さい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/73/0eed9a1253c7b2734b3e3974b5b0818e.jpg)
皆部屋を出て一様に廊下をゾロゾロと歩く。案内するのは先程の中年男だ。
「十分程の休憩時間を挟んで、面接を始めます」「鞄はどこでもらえますか?」
「あ、それは面接が終わってからお返ししますので」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/a5/694f4b7f5db0c3e89b92e4d256d986d5.jpg)
チリ、と嫌な予感がした。
蓮は目を丸くしながらその男の説明を聞く。
「チームごとに部屋を用意しましたので、一旦そこへ移動しましょう」
「はい‥?」「さ、さ、皆さん移動お願いします」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/d3/1a60231ae0ed8ac705872e006e1ab6b3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/fa/f3faae9ebafbceb182ae0e1eab72178d.jpg)
男はそう言ってさっさと歩いて行き、その後ろに居るガタイの良い男がギョロリと蓮のことを睨んだ。
固まる蓮の背中はその大きな手で押され、皆半ば強制的に皆同じ方向へと歩かされている。
「移動お願いします」
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「さぁ入って。入って!」
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強制的な団体行動、外部との接触不可、そして少人数での部屋移動‥。
模範的な商法の手口である。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/ec/13ecf3b2c6b163e92e690cf9c7f708f5.jpg)
蓮が看過していた嫌な予感は、ジワジワと自身の首を締めつつあった。
立ち尽くす蓮に向かって、その胸中の声を代弁するかのように亮が言う。
「ハメられたな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/b1/46fd809b9fdb13a26385505ca74a4f57.jpg)
「これってよぉ、いわいるプライド商‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/7a/eb7148a2cdaced0e1f54bcda67b64f5d.jpg)
言い間違う亮に向かって、蓮はヤケクソで叫んだ。
「ピラミッド商法!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/a4/856922ff883cb8c31236da29a9e439c3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/96/66b4987709209a79a48ff0f3329301a9.jpg)
突然のその大声に、皆が蓮の方を向く。
「え?」「い、いえ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/46/0150d688fab327d8faee8273a2ab73a6.jpg)
蓮と中年男は、おかしくもないのに顔を見合わせて笑い合った。
「はは!」「ははは!」「はははは!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/67/8b3dda7eb45e3cd181ce293022a269f1.jpg)
そして蓮はまた目の前の真実に目を背ける。
「いや‥俺がそんなもんに登録するわけねーし‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/cf/162084cceed9d7b1f5a83d7ef8abef77.jpg)
亮は蓮が苦し紛れに紡ぐ言葉に、ただ相槌を打って頷いた。
「そういうのじゃねーって!まだ面接もしてねーし!」
「あぁ、んだな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/0f/6e968396329054d787b160bfa4b2a272.jpg)
亮はわざと歩く速度を緩め、
ゾロゾロと歩く群衆の数メートル後ろに就いた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/2e/35498100381a10327807aad128559422.jpg)
フン、と鼻で息を吐く。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/26/e0c5e5c82fd3d1d921731445df57209b.jpg)
亮は頭の中で、先程見た限りで把握出来る人数を反芻していた。
ここには四人‥さっき下には二人‥三階には‥何人だ?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/ac/9a8a132b4bc02c8521b1f6b5c4d2ffcf.jpg)
蓮が見ないふりをしているそれからは、危険な匂いがプンプンしていた。
とりあえず今日アイツはヒデー目に合うだろうな
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/e8/6d3282c5528933fa811cb57f7ab778fb.jpg)
数々の修羅場を潜り抜けてきた亮だからこそ、分かっていた。
これから蓮が、その看過の代償を受けるだろうということも。
つーかダメージ、さっきオレが送ったメール見てねーのか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/4a/8fbef03cee0930b09de2d938dec9cb1b.jpg)
携帯が取り上げられるだろうということも、亮は予測していた。
彼がこの建物の中に入る前に掛けた保険は、今雪の携帯の中に潜んでいる‥。
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<看過の代償>でした。
はい、予想通りのマルチ商法でした〜
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face_naki.gif)
蓮、読者全員がそうだと思っていたよ‥。亮さんついてきてくれてヨカッタネ‥。
ガン飛ばしまくりの亮さんが良かったですね。ふふふ‥
次回は<爪痕>です。
☆ご注意☆
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