Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>ざわめき

2016-04-17 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)


しんとした廊下を、淳は駆け足で通り過ぎた。

自分が抜けた後の教室は、また普段通りの退屈な授業が続いていることだろう。



恒常的に流れる時の狭間から、淳は遂に踏み出したのだ。

目的地の扉がもう目の前に見える。







薬品や救急箱の並ぶ棚。クレゾールの匂い。

ここは保健室だ。

見回してみたが誰もいない。



窓に掛かったロールスクリーンが微かに揺れていた。

僅かに開いた窓の間から、隙間風が入ってくるようだ。



そしてその下に、彼女は横たわっていた。

小さなうわ言が彼女の口から微かに漏れている。



熱のせいか疲れのせいか、彼女は汗を掻きながら、小さく身体を捩っていた。



そんな彼女の傍に、佇んでいる自分。



腕を組みながら、まるで観察するかのような眼差しで、彼は彼女をじっと見つめる‥。








ざあっ、と外で強い風が吹いた。

風は窓の隙間から室内に吹き込み、薄いカーテンをひらりと揺らす。



風はまだ吹き続けている。

ざわざわと鳴るその音は、室内でも淳の心の中でも鳴り続けていた。



眠る彼女の頭上にも降る、そのざわめき。



淳はただじっと、彼女の寝顔を凝視する。



彼女の口から漏れるうわ言はやがて止まり、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえるようになった。

しかし顔色は悪く、目の下のくまが色濃く残っている。



その顔を見ている内に、なんとも滑稽な気持ちになった。

こんなに苦労して生きていたって、誰も認めちゃくれないのに。



淳の独白が、闇に溶ける。

「赤山雪。倒れて、傷ついて、」



「ボロボロだな‥」







そんな哀れみの言葉を口にして、淳は彼女を見下ろした。

人生の苦労が滲み出ているその寝顔を。






淳はふと口に出した。

彼女を俯瞰してみて、改めて感じるその気持ちを。

「変なの」



するとその声が届いたのか、雪がモゾモゾと寝返りを打った。

淳はその様子をじっと眺めている。

「うう‥ん」

 

仰向けから横向きに姿勢を変え、雪は再び眠りに就いた。

布団から出た彼女の半身が見える。







どこか既視感を覚えながら、淳はその姿を見つめ続けていた。

目に留まるのは、僅かに動く彼女の指先。






ざわ、と心が動いた。

固く組んでいた淳の右手が、ゆるゆると外れる。



指先が、彼女を求めて動いた。



小さなその手の方へ向かって、

ゆっくりと降りて行くが、



瞬間、触れるのを躊躇う。



けれど。



彼女に手を掴まれたあの時の感情を、彼女に繋がるその接点を、もう一度繋ぎたい。

そんな感情が、淳の心の中に広がった。

一度引っ込めたその指を、再び彼女へと伸ばす‥




その時。




雪は薄く目を開けた。

何かふとした気配を感じて。



焦点の合わない雪の瞳が、

自身を見下ろす淳の姿を映し出す‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>ざわめき でした。

腕組みして雪を見下ろす淳先輩‥。



な‥なんて偉そうな‥

授業単位にペナルティもらってまで駆けつけた人とは思えない態度‥。

心がざわめいて仕方がないんでしょうね。


次回は<雪と淳>覆われた瞼 です。

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<雪と淳>動く

2016-04-15 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)


授業が始まっても、彼はずっと上の空だった。

頭の中は、先程倒れて保健室へと運ばれて行った雪のことばかりが占める。



前方の席に、伊吹聡美と福井太一が座っている。

中でも伊吹聡美は、授業中だというのにずっと太一に話し掛け続けていた。



聡美の隣には雪の鞄が置かれており、

それはまだ彼女が保健室で寝ていることを示していた。



ざわざわと、胸の中がざわめく。



瞼の裏に浮かぶのは、先ほど目にした彼女の横顔。



伝う汗、赤い顔‥。

そういえば彼女を初めて見た時も、液体が彼女の顔を伝うのを見た。



それを見て淳は、正直”汚らわしい”と思ったのだ。

この子もまた、周りに居る大多数の顔の無い人間と同じだ、と。

ぷっ



その考えがどこか違うと気付いたのは、あの時だった。

開講後に柳に頼まれ顔を出した佐藤広隆主催の自主ゼミ。

自身の本性を見抜かれ、嘲笑されたあの時‥。



あの時、淳は彼女から目を離すことが出来なかった。

目を丸くしてこちらを向く彼女に、言い様のない苛立ちを感じながら。



それからだった。

彼女を無視するようになったのは。

後ろから嫌な視線を感じようとも、決して淳は振り返ろうとしなかった。



自分を出し抜こうとする彼女に、嫌がらせを仕掛けたこともあった。

あれは国際マーケティングのグループワークで、彼女と同じ班になった時のこと。

「君が持つB企業の資料の中で、グローバルマーケティング事例を種類別に選定出来ないかな?

そしたら時間も短縮出来て助かるんだけど」
「あ‥はは‥」



彼女が断れないことは想定の範囲内だった。

けれどその後皆で行った飲みの席での彼女は、想定の範囲外の言動を見せた。

淳が奢ることを当然と思っている皆の中で、唯一彼女だけがそれを疑問に思っていたのだ。 



次第に彼女のそんな姿を、ちょくちょく目にするようになっていった。

あれは中庭にて一人ベンチに座っていた時、偶然耳にした彼女と母親との電話での会話‥。

「私の方がずっと一生懸命やって来たの!

お父さんに認めてもらおうとどれだけ必死だったか分かってる?!」




彼女のどこかしらに触れる時、いつも淳は心を乱された。

いつもの自分らしからぬ自身を目の当たりにさせられた。

それが最も顕著に現れたのは、学園祭の意見を戦わせたあの時だった。

「学祭だからって派手なだけの企画なら、やらないほうがマシじゃないか?」



そしてそんな時は決まって、彼女は予想の範疇を飛び出して行く。

彼女の意見を否定したあの時、また怒ると思ったのに。

また敵意を向けられると思ったのに‥。



何もかも諦めたようなあの瞳を見た途端、衝撃を受けた。

彼女の瞳に映る自分が、彼女と同じ表情をしていることにも‥。



それからだった。

彼女へ向かう敵意や悪意が影を潜め始めたのは。

女癖の悪い先輩に騙されそうになった彼女を、頼まれてもないのに助けたりして。

「青田淳‥」



自分でも、彼女に対する自身の感情の説明がつかなかった。

気がついたら目に入る、彼女の後ろ姿。



学園祭の前日、彼女は淳のすぐ側で眠っていた。

高熱を出した彼女の頬に触れた時の、あの感触‥。



ごめんなさい、わざとじゃないと呟きながら自身へと手を伸ばす、あの姿‥。



全てが淳を囚えて離さなくなった。

風に揺れる彼女の髪が、サラサラと音を立てるのも、



その指先が、自身の一片を掴むのも、



淳の前では決して見せないその笑顔も、



恥辱のあまり赤面し、狼狽する彼女の表情さえも。








心が、動いていた。

その感情にどんな名前が付けられるのか、それがどんな種類のものであるのか、

知りたい。



目の前では教授が退屈な授業を繰り広げる。

「であるから、ゴミ箱モデルとは‥」



伊吹聡美は未だ太一に話し掛け続けている。

「今からでも病院連れて行った方がいいかな、どうしよう‥」



恒常的に流れる時の隙間から、淳は一歩踏み出した。

「教授」



彼の一言で、時が止まる。



淳は動き出した。

その心の動くままに。



「緊急の用が出来てしまったので、

申し訳ありませんがしばらく出て来てもよろしいでしょうか?」




突然申し入れた淳の要求を、教授は渋々と了承する。

「青田君、この授業で退席はペナルティです。

しかし本当に急用なら仕方がありませんね。どうぞ出て行きなさい」




「ありがとうございます」




そうして淳は教室を出て行った。

彼女へと向かって。


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<雪と淳>動く でした。

雪と淳の歴史ダイジェストのような回でしたね。

淳の気持ちが少しずつ変化していっているのが見て取れます。

さて、保健室へと向かう淳!盛り上がってまいりました!


次回は<雪と淳>ざわめき です。


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<雪と淳>倒れる

2016-04-13 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)
家庭教師募集 メンター募集



学内の掲示板に貼ってあるその張り紙を、雪はその場でじっと見ていた。

来学期から休学をしようがしまいが、アルバイトをしなければならないことに変わりはない。






雪は連絡先の紙を一枚ちぎると、そこに色々と書き込んで行った。

依然として体調は最悪だ。

 




紙をポケットに仕舞い、雪は胃が痛いのを我慢しながら一人廊下を歩いた。

すると向こうから、見覚えのあるシルエットが近付いてくる。

「!」



先程、彼と太一を間違えてしまったこともあり、雪は気まずさを感じて狼狽えた。

アタフタしながら、彼に背を向けて歩き出す。



「あっ!」



すると目の前に、良いタイミングで聡美と太一が現れた。

雪はすぐさま彼らに声を掛ける。

「おーい!」「雪ー」



「何してんの?」「ん?バイト探してたー」







青田淳は、雪の背中を見つめながらその場にじっと佇んでいた。

手の中には、薬局で買った栄養ドリンクが握られている。



会話一つ入り込む隙間も無い、彼女と自身との関係。

淳はポケットにドリンクを仕舞うと、彼女に背を向けて歩き出す。



頭の中に、およそ半年程前の雪の声が蘇った。

「おはようございます!」



あの頃は、毎日のように彼女から声が掛かった。

「こんにちはー」



どんなに人ごみに囲まれていても、

「こんにち‥うっ」



淳を見つけると彼女は挨拶を口にした。

「おはようございます先輩!」



半ば捨て鉢のようなその挨拶。

淳が無視することに腹を立て、そうしているであろうことはすぐに分かった。

「先輩、こんにちは!」



「こんにちは‥」



いつしかその声も、聞こえなくなって行った。

そして彼女に接触する要素が、一つも無くなった今に至るのだ‥。



僅かに開いた心の扉の隙間から、冷たい風が吹き込んでくるようだった。

淳がその場に立ち止まっていると、不意に後方から声が上がった。

「雪さん!」「えっ?!どうしたの?!」



振り返ると、福井太一が雪のことをおぶりながらこちらに向かって走ってくる。

「雪!しっかりして!」



伊吹聡美は雪が倒れたことに狼狽し、太一は冷静ながらもその足は急いていた。

彼らは横の通路に佇んでいる淳のことには気づかない。

「死んじゃいやぁ~~!」「死にませんヨ」



彼らが、雪が、目の前を通過する。

「それじゃ保健室に行きまショ」



去り際に見えた彼女の横顔に、

滝のような汗が流れているのが見えた。



淳はその場に立ち尽くしたまま、そんな彼女の背中を見送る。




「雪ぃーー!」






遠ざかって行く彼ら。

淳は目を丸くしながら、嵐のように去って行ったその背中を見つめていた‥。





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<雪と淳>倒れる でした。

冒頭の「メンター募集」ですが、



メンターとは、助言者、教育者、後見人‥いわば”師”のようなものらしいです。

バイトの体制としては家庭教師とはどう異なるのか‥。ちょっと謎でした‥。どうなんだろう。


次回は<雪と淳>動く です。


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<雪と淳>彼らの距離

2016-04-11 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)


空は広いのに、世界は明るいのに、雪の目には何も入って来ない。

目に映るのは、汚れた地面と無機質なコンクリートの壁だけだった。

時の隙間に落ち込んでしまったかのように、疲労の蓄積した身体も心も、埋もれて行く。

そんな中、雪はふと思いついた。

‥休学しようか



そうだ、どうせ家の経済状況も良くないし、

全額奨学金もあの人がいるせいで受けられるかどうか分からない。

それにどうせあと一年で青田淳は卒業だ。また一年間苦しめられたいの?




これ以上はもう‥無理だ



繰り返すさざ波に打ちのめされ、雪の心と身体は限界を迎えていた。

ふと思いついた”休学する”という考えは、今の雪には現状から脱却出来る、唯一の選択のように思える。

そうだよ、皆で集まる度にわざと姿を避けることも



無理に笑うことも、



挨拶しようかしまいか悩むことも、もうウンザリじゃないか



全ての元凶はあの男だった。

雪の想像の中で彼は、頭に”首席”のプレートを貼り付けて笑っている。

奨学金も問題といえば問題だけど、

どうせ来年は休学しようがしまいがバイト三昧なことに変わりはない




雪はやけくそな気分で、はっと息を吐き捨てた。

ていうかどうして私より勉強も出来るのか?

そんなにまで完璧な必要ある?あームカつく








どれだけ心の中で毒づいても、自身を取り巻く環境を呪ってみても、状況は何も変わらなかった。

ただ最初からそういった現実が、そこに横たわっているだけだから。

同じように努力しても、最初から比較にもならないほど、違う世界の人なのに



しゃがみこんだ雪が見上げた校舎は、いつもより高く聳え立っているように見えた。

ふと瞼の裏に、こちらを見て笑っている蓮の姿が浮かぶ。

昔からずっと彼に対して抱えて来た、劣等感が雪の心を蝕んで行く。

大学でまでこんな気持ちにならなきゃいけないのか



直面させられる劣等感、自身の弱さ、味合わされる屈辱感‥。

全てはあの時から始まった。



耳元で囁かれた彼の言葉は、今も雪を縛り付ける。

「これからは気をつけろよ」



警告と共に肩に置かれた彼の手は、今も冷たい跡を残す。

ううん、嫌だ



どこを向いても、どこかしらに彼が居た。もうそんな現実に、耐え切れる自信は無い。

このまままた一年間ぶつかり続けたら、

青田淳のせいでも私自身の弱さのせいでも、私の存在そのものが、取って食われてしまう




本気で取って食われてしまう



自身を奪われ行くという恐怖が、じわじわと雪の心を蝕んで行く。

沈み込んだ時の狭間に、深く深く埋ずもれて‥。

絶対に‥











彼は立ち尽くしていた。

車道を挟んだ対岸の歩道で、うずくまっている彼女のことを見つめながら。



気が付けば、彼女の後を追って来ていた。

淳はその場に立ち止まりながら、小さく埋もれている彼女のことを凝視し続ける。




世界の隙間に落っこちてしまったかのような、彼女の背中。





間にある広い道幅の車道は、今の彼らの距離そのものだった。





一歩踏み出そうとするも、





出来なかった。





まるで見えない壁があるかのように、淳は向こう側には渡れない。






彼女は、暗い世界に現れた、もう一人の自分。







同じ世界の狭間に落っこちた、自身の同類‥。







鼓膜の奥でカチャリと音がする。

いつしか、心の扉が開いていた‥。









どのくらいこうしていただろうか。

しゃがみ込んだ雪の背後から、聞き覚えのある声が掛かる。

「雪さーん!」



見上げてみると、太一の姿が見えた。こちらに向かって走ってくる。

「ここでなにしてるんスか?」「太一」

「どうかしたッスか?」



太一は心配そうな表情で、乱れた雪の髪の毛を直し始めた。

「大丈夫デスか?!」「え?大丈夫だよ」

「なんで髪ぐちゃぐちゃなんスか」



彼の登場で、止まっていた時間が流れ出す。

「行きましょ。ほら鞄貸して。って重っ!なにこれ殺人兵器ッスか?めちゃ重いんスけど」

「専攻書籍だもん。当然重いって!」「なんで全部持って歩いてんスかー」



気心の知れた太一の隣で、ようやく雪は笑うことが出来た。

二人はそのまま教室へと歩いて行く。



「あ、そうだ。俺今日青田先輩と服似てるでしょ?すげー挨拶してもらっちゃいましたヨww」「そ‥そう‥」









淳はその場に立ち尽くしたまま、彼女が去って行くのをじっと見ていた。

心の扉は僅かに開いている。

彼女が気になって、仕方が無かった。



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<雪と淳>彼らの距離 でした。

ここで遂に雪が休学を決意するのですね。

だんだんと時系列が揃って来ましたね~!わくわくします!


次回は<雪と淳>倒れる です。

そういえばLINE漫画、三部までで完結になっちゃいましたね
突然だったのでビックリです。

また時間空けて再開するんでしょうか‥。
そして完結分はもう読めないのか??
どうなるんだろう‥。

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<雪と淳>彼女の劣等感

2016-04-09 01:00:00 | 雪2年(学祭後~保健室にて)

「ゲホッ‥ゲホッ‥」



猛ダッシュで青田淳から逃げて来た雪は、急に猛烈な吐き気を感じて嘔吐した。

壁に手をつきながら、嗚咽と咳を繰り返す。

「ゲホッ‥」



「はあ‥」



その場で暫く休んだ後、ようやく落ち着いた。ふぅと深く息を吐く。

驚きすぎたからか?どうして吐き気が‥



でも食べてないから何も出てこないや‥掃除せずに済んだな‥






急に全ての力が抜けた気がした。

雪はその場にへたり込むと、額や頬を壁に付けた格好で目を閉じる。

「はぁ‥ひんやりする‥」



身体全体が熱っぽかった。

しかも先程のことを思い出せば出すほど、顔から火が出るようだ。

それでなくても熱あるのに、何たる失態‥。あの人の前で真っ赤になっちゃって‥



「‥‥‥‥」



恥ずかしかった。

繰り返し思い出すのは、目を丸くして紙幣を差し出すあの人の顔‥。






その手に握られた千円札四枚を見て、わけもなく苛立った。

雪の心が皮肉に歪む。

お金いっぱい持ってるわけね。羨ましいですこと‥



似たようなことが前にもあった。

あれはグループワークのメンバーで飲みに行った時、会計を全て彼が出すという雰囲気になった時‥。

「お、おごりですか?皆で飲んでるのになんで一人で‥」



あの時の彼の顔が忘れられない。

まるでお金の心配など無いであろう彼の、変なものでも見るかのようなあの目付き‥。



あの時のことを思い出すと、ふと冷めた気分になる。

私のこと、さぞバカみたいに思ったでしょうね‥



彼と相対する度に思い知らされる、この圧倒的な劣等感。


あの人は私に‥




地面をカサカサと這う落ち葉のように、心が乾いて虚しくなる。


恥辱を与え、



踏み付けられた書類。あの時雪のプライドさえも、粉々に踏み潰された。


屈辱を与え、



ペンを落としたあの時も、無視されたあの時も、

その後姿を見る度に、いつも心は屈辱に歪んだ。


当惑させ、



意図の分からない行動も、衆人環視の中での言動も、常に雪を当惑させた。

どうしてこの人は、いつも私をこんな気持ちにさせるのだろう?と。


そして先程差し出された、あの同情。

惨めにさせる



悔しかった。

その手に握られた紙幣を見た途端、カッと燃えるように心が燃えた。

あんな状況で、私の最後のプライドまでも、



躊躇いもなく粉々にしてしまうような人間



彼と相対するといつも、自身の弱さを自覚させられる。

目を背けたい脆弱な面を、嫌でも見せつけられるのだ‥。



雪はぎゅっと口元を結んだ。

様々な感情が胸の中を駆け巡っている。

「‥‥‥」



広いキャンパスの一角で、一人ぺしゃんこになっている自分自身。

耳を澄ませば、楽しそうに会話する学生達の声が聞こえてくるというのに‥。



皆と同じ立場のはずなのに、まるで余裕の無い自分自身に、雪は改めて向き合っていた。

いや、向き合わされていた。

空は広いのに、世界は明るいのに、今の雪の目には、何も入っては来なかった‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>彼女の劣等感 でした。

まるで走馬灯のような今回‥。雪と淳の黒歴史を遡るような展開になりました。

こうやって見ると、雪ちゃん本当に先輩が嫌い‥というか苦手なんだなと思いますね。

でもこれら過去の出来事は全部真実ではなく、全ては雪の視点なんですよね。劣等感に苛まれている雪の。

一年後の淳と雪を知っているからこそ、彼らの互いへの誤解が見て取れますね。。


次回は<雪と淳>彼らの距離 です。


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