「志」の英語教育

英語教育実践について日々の雑感を語ります。

九州大学入試問題研究会 その2

2010-06-02 17:52:00 | 研修
引き続き第2問。

It had been after dinner when Oskar suggested to the boy that they go out on the lake. He and Margret had eaten salad and lamb, drinking white wine with the salad and red with the meat. They were content.

Jonas was their only child, just turned six. He was named after Margret's father and was thought to have his features. His grandparents had given him a fishing rod for Christmas, and a couple of times Oskar had taken him out on the water to fish from their boat. Jonas had caught his first fish the prior weekend, a small *trout that Margret fried for lunch. He had been very proud of (1)「it.」

"Wouldn't it be better to go tomorrow morning?" she asked, "It's already eight thirty. "

"We won't be long,” answered Oskar. “I promised him.”

She did the dishes, and Oskar finished his wine as he cleared the table. (2) 「It had been a rule when Margret was growing up that people shouldn't go out on the lake when they had been drinking, but she decided not to bring that up now.」 She had mentioned it before, and Oskar hadn't hidden his opinion that her father's rules had no place in their home. He was far from drunk, anyway, and Margret made sure that Jonas's life jacket was securely fastened before father and son went down to the shore.

There was a breeze, and the boat rocked a little as they fished. They had no luck in the first spot and motored farther out. They got nothing there either. When the wind picked up, Oskar told Jonas they should be getting home. Jonas begged to stay just a little longer. Oskar agreed, but the trout still weren't biting. "The fish have gone to bed," he said. "and so should we. "

Jonas hung his head, disappointed.

"I never catch any fish with you," he said, "and you never do anything fun like the man in the white boat. You never spin around or anything. "

The man in the white boat was Vilhelm. He sometimes amused himself by making tight turns on the lake, and Jonas would watch him, excited. "Bloody fool," said Margret's father, but this had no effect on Jonas, who saw the white boat sending big waves up the beach.

"Shall we do a few turns?" Oskar asked.

"You never do," said Jonas. "You never do turns like the man in the white boat. "

They weren't far from land when Oskar turned round, headed out into the lake, and increased his speed. (3)「Keeping within what he thought a safe limit, he turned sharply to the left and right before slowing down again.」

"Wasn't that fun?" he asked.

"No," said Jonas, "not like the man in the white boat. It was boring. "

Oskar sped up again, heading for land this time. He was feeling irritable and wanted to go home. He opened the throttle as far as he could, then thrust the tiller hard right. The boat turned over.

They went (4). Oskar surfaced and then gasped. He couldn't see Jonas anywhere. Oskar splashed round the boat and found Jonas, coughing up water. Oskar gripped the side of the boat with one hand and pulled Jonas to him with the other. The water was too cold for them to swim to land. The boy was crying and kept choking on water every time a wave washed over them.


以下は再び以前に私が個人で作っていたもの。

概要 
 酔って息子とボートで湖に出た父親が転覆事故を起こしてしまう話。父はワインを飲み夕食を摂ったあとで息子を湖へ誘った。6才の息子は最近釣りを初め、先週末はじめてマスを釣っていた。
 妻は夫を思いとどまらせようとしたが強くは言わなかった。夫は酔っぱらってはいなかった。息子にはしっかりと救命着を着せて送り出した。
 釣りに出てしばらくしても魚はかからなかった。父がもう帰ろうと言ったとき、息子は拗ね、ボートの急旋回などでの楽しいことを父親はしてくれないと詰った。息子はビルヘルムという男が急旋回で遊んでいるのを見たことがあったのだ。
 父は再び沖へと向かい、安全だと思う範囲で急旋回をやって見せたが、息子は納得しなかった。父はイライラして、今度は岸に向かって全速力でボートを走らせターンを試みた。ボートは転覆した。
 岸まで泳ぎ切れないほど冷たい湖の中で、父親は片手で転覆したボートに掴まり、もう片手で息子を掴まえた。息子は水の中で息をすることもままならない。

読解の方向性
 話自体が大きな出来事であり登場人物の気持ちの揺れやそれが表出した行動など読みどころが多い。時間の流れ人間関係を整理して起こった事実をしっかり掴むのが大前提である。試験問題らしからぬ暗さと試験問題特有の収束感のなさから読後の後味が悪い。この地に与えた飲酒運転事故のインパクトが入試にまで反映されたということだろう。(酒の怖さを知らない新しい大学生へのメッセージとも受け取れる)


問題文のポイント
・一段落の強調構文はIt had beenで始まっている。ここは文法的には過去形でも良いのだが、過去完了になっている。それにより湖での出来事以前のことのリアルタイム感を消し「やり直すことのできない過去のあやまち」的側面を際立たせている。また、先に起こる出来事の不吉さを予感させる効果もある。
・二段落に出てくる母(マーグレット)の父親(息子のジョナスからみて祖父にあたる)に関わるエピソードが皮肉な伏線を作っている。孫に楽しみをもたらすはずの釣り竿を与えたこと、思慮深い祖父にちなんで孫が命名されたということの2点。また、息子がその前の週にはじめてマスを釣ったという話から、息子の釣りに対する期待感の高さが理解できる。
・四段落の母親のエピソードは、生真面目な祖父とその干渉を受けたくない夫の間で家族関係が悪くならないようにしたいという思いが表れている。また、彼女が真剣に夫を止めようとしていないことから、夫に対して無茶をする人ではないという信頼感を持っていることが分かる。
・五段落で、魚を釣ることができぬまま帰宅しなければならないことに子供は失望する。父親の目標は「子供を魚釣りに連れて行く」という行為自体であったが、息子の目標は「魚を釣り上げる」ことであったと考えられる。6才の息子は代償として急旋回を持ち出すが、マスを釣り上げるという行為の埋め合わせになるものではなかったはずである。
・父親は11段落でそれまで保っていた理性をついに失いボートを暴走させてしまう。ひとつの原因がひとつの結果を生んだのではなく、ひとつの結果にたどり着くまでにそこへ向かわせる様々な要素があったことを感じ取る必要がある。

各問の分析
1 代名詞itが指す内容を日本語で述べる
Jonas had caught his first fish the prior weekend, a small trout that Margaret fried for lunch. He had been very proud of it.
・「魚」、「釣った魚」、「ジョナスが釣った魚」、「ジョナスがはじめて釣った魚」などいろいろな解答が出そうである。前述のように解答欄の大きさに合わせてなるべく多くの情報を盛り込むのが得策。
解答例:「その前の週末にジョナスがはじめてつり上げ、母親のマーガレットが昼食のフライにしてくれた小さなマス」

2 下線部の日本語訳
It had been a rule when Margaret was growing up that people shouldn't go out on the lake when they had been drinking, but she decided not to bring that up now.
・bring that upが「話題に出す、言及する」の意味であることが分かるかがカギ。
解答例:「マーグレットが子供の頃、お酒を飲んでいる人は湖に出てはいけないのが決まりだったが、今回はそれについて触れないことにした」

3 下線部の日本語訳
Keeping within what he thought a safe limit, he turned sharply to the left and right before slowing down again.
・前半の分詞構文と関係詞whatの処理がポイント。before slowing down again も日本語に置き換えにくいと感じるかもしれない。
解答例:「自分がここまでなら安全だと感じる範囲内で、彼は激しく左右に梶を切ってから再びスピードを落とした。」

4 Jonas はVilhelmとOskarを比較してどのような不満を述べているかを日本語で説明しなさい。
・JonasがVilhelmに関して最初に言及しているのは以下の部分。
"I never catch any fish with you, and you never do anything fun like the man in the white boat. You never spin around or anything." The man in the white boat was Vilhelm...
・これに続く行で、ビルヘルムが急旋回して楽しむのをジョナスは喜んでみていたエピソードが書かれている。(このとき、祖父も一緒にそれを見ており「大馬鹿者め」と言っている)
・さらに、オスカーが急旋回をしたあとでジョナスは以下のように述べている。
"Wasn't that fun?" "No, not like the man in the white boat."
解答例:「息子のジョナスは、父であるオスカーがビルヘルムのようにボートの急旋回などの楽しいことは一切しないと言っている。さらに、オスカーが急旋回をしてみせてもビルヘルムのような急旋回ではないと言っている」

5 空所補充。along away under up より適するものを選ぶ問題。
ボートが転覆した直後、段落が変わって They went ( ). Oscar surfaced and gaspedとつながっている。「転覆し、・・・し、オスカーは海面に顔を出した」という流れなので、・・・には、「二人は一旦沈んだ」という内容が入ると思われる。答えはunder


例によって次は今回得た知見をまとめたもの。受験生の再現答案分析による。(   )内は私個人の感想などの補足。


問1
・ほぼ適切なものが6割。ただし、「ジョナスが先週末に初めて魚を釣り上げたこと」の内容があれば料理云々はなくてもよいという判断」
・「料理してもらい昼食に食べた」が重い表現になっているものが1割強。(例えば、「先週末ジョナスが初めて釣ったマスをマーグレットにフライにしてもらい昼食に食べたこと」は不可で、「先週末ジョナスは初めてマスをつり上げ、それをマーグレットにフライにしてもらい昼食に食べたこと」は可になるという判断。個人的には基準に無理があるように感じる)
・表現不足、誤解合わせて1/4強。

問2
・ほぼ適当なもの1/4強。
・「ルールの下で育った」は意訳と解し可? 1割の答案で見られる。
・bring that up の誤解が1/3強。
・「子供の頃からのルールだった」が1/6強。

問3
・what he thought a safe limitを「スピードの限界」としたものが2/3強。(厳密に言えば誤りかもしれないが、安全性とスピードのつながりの強さを考えれば不可にするのは厳しいかもしれない。)
・what he thought a safe limitの構造が把握できていないものが1/6強。
・before slowing down againを「速度が落ちる前に」と解したものが1/3。

問4
・「ビルヘルムはボートの急旋回など楽しいことをするがオスカーはしない」の記述がないもの2/3強。
・「オスカーが急旋回させてもビルヘルムのようなものではない」の記述がないか不十分なものが約7割。

問5
・正解が1/3強。underの副詞用法になじみがなく、よく見かけるgo awayを反射的に選んでしまっている。awayの間違いが半分弱。


最後は解答例を比較したときに目立つポイント。標準答案をH、今回示された解答例をSとし、参考に他の予備校によって示された答案をYとKとする。


問1 「~した魚(マス)」とした解答例は、私とY。H、S、Kは「初めて魚を釣り上げ昼食に料理してもらって食べたこと」としている。次の記事も参考になる。

http://www9.plala.or.jp/h-ike/NYUSHI/2010-frame.htm より引用

「He had been proud of it.のitを指すものを説明しなさい,という問題は。私は最初疑わず「彼はそのことを大変誇りに思っていた」→初めてマスを釣ったこと,と解釈しました。いわゆる旧帝国大学の問題は代ゼミ,河合塾でその答を公表していますので,一応解答してから,答を照合しました。すると代ゼミは「1週間前に釣って,昼食に母が料理してくれたマス」とありました。当初考えてもなかったので,ちょっとびっくり。たまたまいたALTに英文を見せて,itは何だと思う?と聞きました。そしてら,最初の直感はtroutでした。それで,the fact that he ahd caught a troutということはないのか?と聞きました。答は"It could be."ただ,何度か読んでみて,やはり,itはtroutを指し,本当は"I am proud of myself"と言いたいところだけど,それでは,威張っているようなので,I am pround of the trout.と言っている,という返事でした。ところが河合塾では,「1週間前に初めてマスを釣って,そのマスを母が料理してくれたこと」答え全般には河合塾版に近かったので,こちらを採用したいところですが,直前に名詞があってitとなれば,それはtrout優先かなと思い返しました。いずれにしろ曖昧な設問で想定した答を知りたいところです。」

問2 bring that up はH、Y、Kが(話に)持ち出す。Sは「話題にする」。私は「触れる」

問3 Keeping within what he thought a safe limit はH、S、私が「スピード、速度」を表出していない。K、Yはそれぞれ「速度」「スピード」という言葉を使っている。

問4 Kはビルヘルムの運転の様子を前半で描き、後半にオスカーの運転が退屈であることをコンパクトに表現している。

問5 省略


大きなストーリーの動きとその下にある伏線を読み取るのが醍醐味の物語文であるのに、問いは表面的な読み取りのみを要求したものであるのが残念。大学入試というコンテキストの中で、妥当性の担保が優先するのは致し方ないところなのだろうか。


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