不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Il Mare di Palinuro

2007-08-01 10:17:17 | 旅行記

暑いカゼルタの街を後にして
地方の鈍行列車に揺られてサレルノ経由パリヌーロまで。
冷房設備のない列車はどこも窓が開け放たれて
日除けのカーテンは翻ってしまい強い日差しが容赦なく照りつける。
走っていてもなんだか車内はもわんと暑苦しい。

そんな列車に揺られること約2時間30分。
たどり着いた小さな駅は想像していたとおりの寂れっぷり。

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駅のバールの看板。

そして思ったとおり、市バスは1時間に1-2本の運行で、
駅構内に張り出されたバスの時刻表は色褪せていてあてにならない。

駅前には小さな駐車場に
近郊の街に出かけているのであろう地元の人の車がびっしり並んで
この先は車でないと移動が大変ということを暗に物語っている。

駅の前にはやっぱり白タクばかり。
一生懸命に少ない観光客を呼び込んでいる。
私が予約をしたホテルの送迎車はまだ来ていないようだったので
高台になっている駅の前の道から海の景色をぼんやりと眺める。
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夾竹桃と海のコントラストもきれい。
しばらく海を見ていて駅に戻っても
相変わらず迎えの車は来ていないようなので
ホテルに電話を入れてみる。

「駅に到着したんだけど、迎えはいつごろ来るのかな?」
「あら、まだ行ってませんか?すぐに連絡します。そのまま駅前で待って。」
しばらくすると、よれよれのおじいさんが遠くから大きな声で
間違った私の名前を叫んでやってくる。

名前は間違ってはいるけれど、
きっと私のことなのだろうと思って返事をすると
「ここでずっと待っていたのに、君だって思わなかったよ。」
確かに私の目の前に「Servizio Taxi」って書いた紙を
ダッシュボードに乗せた車は到着したときから停まっていたけれど
まさかそれがホテルの送迎者だとは思えない、
普通の自家用車だったのだ。
そしてよれよれのおじいさんが乗っていたので、
きっと家族を迎えに来たのだろうと思って声もかけなかった。

おじいさんは車をあけるとダッシュボードの中から
オレンジ色の紙を取り出して私に見せて確認。
「Sig.Tamata」と書かれたその紙に私は苦笑い。
おじいさんはホテルから渡されたというその紙を指しながら
「シニョーレって書いてあるから男性がいると思っていたし
大体ホテルはカップルだって言ってたから。
君だって気づかなくてごめんね。」
「いえいえこちらこそ。きれいな海を見ていたから気にせずに。」

おじいさんのゆっくり安全運転で30分。
行く道すがら、なぜ一人できたのか、どこから来たのか、
こっちに彼がいるのか、どれくらい滞在予定なのかと
矢継ぎ早に質問され、それに答えるたびに驚かれ。
そして一泊しかしないのだということを告げると
もったいないとすごく残念そうな顔をされた。
確かにその通りだと思う。
もうちょっとゆっくりしたいけど、そういうわけにもいかないしね。
翌日の出発時間を告げると
その送迎サービスも自分が担当しているのだと
嬉しそうに笑ってくれた。

ホテルに着くとおじいさんは
「じゃぁ、明日14時にここでまたね」と言って
ポンコツ車に乗り込んでぷかぷか去っていった。

ホテルはこじんまりとした家族経営の3つ星。
フロントでも送迎手配がうまくいかずに
待たせてしまってごめんなさいと丁重に謝られて恐縮。
フロントの彼女も「スーペリアツインを予約されていたので、
てっきり二人でいらっしゃると思ってました。」と。
まぁそれも仕方ないかな。でも一人です。

部屋は310号室。
希望通り、パリヌーロ岬を望むオーシャンビューのバルコニー付。
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バルコニーの下はホテル・レストランと朝食用テラス。

車の中でパリヌーロ岬の青の洞窟の話をしたときに
おじいさんは「海が荒れているからなぁ」と言っていた。
確かにバルコニーから見下ろすと
かすかに風があり海は少し白波が立っている。
荷物を置いて外出するついでにフロントでも確認したら
午前中は穏やかだったので、洞窟行きのツアーも出たけれど、
午後は全部中止になったとか。
明日の朝の様子を見ましょうということに。

寂れた海辺の街の目抜き通りは500メートルほど。
夜は遅くまでレストランやおみやげ物やさんが営業していて賑やか。

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手早く簡単に食事を済ませてホテルに戻り
バールでミネラルウォーターを一本もらって
後はずっとバルコニーから夕暮れの海と夜の港を眺めて
ちょっと荒れている海の音を聞いて過ごした。
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暑い夕日。
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暮れかかりの海。

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夜の港。

こんなのんびりした時間は久しぶりだなと思って
近くにビリーもチッチーノもいないことが不意に寂しくなった。
私はほんとうに「おうちっこ」なのだ。

>> continua

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