不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Scalpellini del Duomo

2011-04-05 23:25:00 | アート・文化
花の聖母寺院と呼ばれる美しいフィレンツェのドゥオーモ。
今の姿になる前の1300年代から
ずっと手直しを続けて今日まで受け継がれてきた芸術建築。

大気汚染の影響で大理石の硫酸化が進み
定期的にくすみ洗浄をする以外に
部品ごとの取り替え作業も地道に続けられています。

この作業を一手に引き受けているのが
Opera del Duomo。
ヴァチカンのサン・ピエトロ寺院に専属工房があるように
イタリア国内のどの教会にも、
各教会の修理・保存管理を受け持つ専用工房があります。
フィレンツェのドゥオーモの専属工房は
ドゥオーモの南側の裏路地にひっそりとあり
1296年からドゥオーモの修理を担当しています。

最初はドゥオーモを建築するために、
後にはその修復・改築のために
715年間に亘り同じ場所で同じ仕事を受け継いできています。
昨今、最新技術を取り入れた道具を使うようになった以外は
ほとんど700年前と変わらず、
そこで働く職人には親から子へそして孫へ3世代、
技術と道具を受け継いでいるという人もいます。

工房の入り口の扉の上には
Nanni di Banco(ナンニ・ディ・バンコ)のレリーフの
コピーが掲げられています。
オリジナルは現在バルジェッロ美術館に収蔵されていますが、
レリーフの中央に
職人が大理石の装飾柱の作業をしているのが見て取れます。
この大理石の装飾柱は
ドゥオーモの身廊に並ぶ細長い窓の
真ん中に取り付けられているもので
ねじり棒のような装飾が施されています。
つい先日取り替えのために、
新しい大理石を使って装飾柱3本の制作が完了しました。
今でも同じようにひとつづつ手作りされています。

このフィレンツェのドゥオーモ専属工房で
製作されない唯一の部品は
特徴的なオレンジ色の屋根瓦。
長年受け継がれてきた特別な型を使って作るこの瓦は
テラコッタで有名な
近郊のインプルネータの街の工房に委託されています。
ブルネッレスキが丸天井を完成させた1436年から
常に必要数の替えの瓦が用意され、
現在も200枚ほどの瓦が中央身廊の屋根にねかされています。
風化具合をみて少しづつ取り替え作業が行われており
間もなく取り替えられるものあれば
30年後100年後に取り替えになるものもあるそうで、
何とも気の長いサイクルの話なのです。

専属工房での作業はすべて
洗礼堂やドゥオーモ付属博物館などの
関連施設の入場料で賄われています。
我々も観光客として
芸術保護に貢献しているということになります。

毎年9月8日にはドゥオーモの礎石が置かれたことを記念して
無料でテラス部分に上ることができますが、
テラスに上ると中央身廊に沿って
大きなテラコッタの壷が並んでいるのに気づきます。
身廊部分の屋根には雨樋がなく
屋根伝いに雨が流れ落ちる先に
大きな壷を置いて雨水を受けているのです。
北側に10個、南側に10個の大きな壷。
非常に原始的なシステムが
あの屋根の上では今も生かされているのです。