夜な夜なシネマ

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『ルーム』の原作、『部屋』上下巻を読みました。

2016年04月28日 | 映画(番外編:映画と読み物)
エマ・ドナヒューによる『ルーム』の原作、『部屋』上下巻を読みました。

映画版は原作にほぼ忠実でした。
監禁された母子が知恵を巡らし体を張って脱出するサスペンス劇かと思ったら、
最初の1時間で「部屋」から見事脱出、
後半1時間は無事保護されてからの話だった映画同様、
原作の上巻はその名も『部屋 インサイド』、下巻は『部屋 アウトサイド』となっています。
誘拐監禁事件は、保護されただけでは終わりません。

上下巻とも終始、5歳の息子ジャックの言葉で語る形式が取られています。
ほとんど平仮名、子どものしゃべり言葉の一人称で、
ジャックの目を通してすべての物事が語られるから、
それ以外の登場人物の思いや周囲で巻き起こる出来事については
読者は映画版よりもずっと強い想像力を強いられます。
それゆえ映画版よりも生々しく感じられるシーンもいくつか。

映画版ではジャックの何気ない言葉に傷ついたりいらついたりする母親が
目の前にわかりやすい姿で出てきてくれたわけですが、
原作ではジャックが私に向かって話しかけてきているようで、
母親と同じようにいらつく自分がいます。
決死の覚悟で「部屋」から脱出したのに、
「部屋」にいたときを懐かしむジャックには声を荒げたくなったり。

5歳になっているにもかかわらず、まだおっぱいをほしがるジャック。
映画版ではそれはサラッと描かれていましたが、
原作にはおっぱいをねだるシーンがしつこいほど登場して、
このシーンにも若干嫌悪感を抱いてしまいました。

訳者のあとがきにあるように、訳の工夫はいたるところに感じます。
それゆえ上記のようなイライラも起こってしまうのでしょう(笑)。

10代で誘拐監禁された母親。もしかすると一生ここから出られないかもしれない。
そんなふうに絶望的な思いがあるにもかかわらず、
息子の健康に気を配り、語彙を増やそうといろんな遊び方や学び方を工夫する。
その様子に母親の偉大さを知り、頭が下がる思いではありますが、
この若さでこんなに幅広い知識を持っていたことに違和感も多少は持ってしまいます。
原作のほうがその点も強く感じました。

ジャックの視点でしか描かれない分、
ラストシーンは映画版と同じであるにもかかわらず、
原作ではその素晴らしさが伝わってきにくい。
原作を読んでイマイチだと感じた方は、映画版をご覧になることをお勧めします。

それにしてもこの文庫本の値段はなんだ。
上巻320頁、下巻336頁、上下巻併せても京極夏彦の1冊分より薄いくせして、
各巻900円超えなのですから。高っ!

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