夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『タナカヒロシのすべて』

2005年06月13日 | 映画(た行)
『タナカヒロシのすべて』
監督:田中誠
出演:鳥肌実,ユンソナ,加賀まりこ,高橋克実,宮迫博之他

数年前、初めて鳥肌実のパフォーマンスを耳にしたとき、
「なんじゃ、こりゃあ?」とぶっ飛びました。
及川光博に似たキレイ系の顔立ちで、
「鳥肌実、42歳、厄年。山崎パン勤務」で始まる演説パフォーマンス。
右翼風のいでたちで「打倒自民党、打倒共産党、くたばれ公明党」と
マジメな顔でぶつ彼は、知る人ぞ知るカリスマ芸人。

その彼が初主演と聞き、これは観にいかなきゃ後悔すると映画館へ。
客席はほぼ9割方埋まっていて、あらためて鳥肌実の人気に驚き。

遠山かつら工場に勤めるタナカヒロシ。
32歳、独身、社交性ゼロの彼は、職場でもほとんど口をきかない。

お昼は近所に売りにくる弁当屋で、
必ずシャケ弁当かクリームコロッケ弁当。
ある日、弁当のオマケのクッキーをかじってみると、
出てきたのは大凶のおみくじ。

それ以来、彼には次々と不幸が襲いかかる。
給料はカット、たこ焼きやの親父には睨まれ、
翌朝には血尿まで出るありさま。

癌を患っていた父がまもなく死亡。
葬儀の場で父の不倫が発覚。
父は退職金を前借りして、不倫相手に貢いでいたことを知る。

傷心の母は父が建てた家を手放したいと言い、
タナカヒロシはあらたにローンを組んで建売住宅を購入。
しかし、母も癌であることが判明。
悪徳リフォームやシロアリ駆除会社にも騙されて、
彼の生活は破綻する日が近くなる。

めちゃくちゃオカシイ。
こんなに「間(マ)」で笑わせてくれる作品はなかなかない。
鳥肌実演じるタナカヒロシは絶品。
着ているものは垢抜けなくて、服を脱げばいまどきあり得ない長シャツとパッチ。
かつら工場の社長を演じる南州太郎や、工員の昭和のいる・こいるは
見ているだけでワラけます。
料亭の仲居さん、島田珠代も絶妙のしゃべり口調と表情でおかしいのなんのって。
弁当売りのユンソナもかわいくてボケてていい感じ。

不幸の連続にキックボードを衝動買いする(なんでや!)タナカヒロシが
川べりで出会う伊武雅刀は「テルミンと俳句の会」の主催者。
俳句を一句詠むごとにテルミンが奏でられるんですよ。
いま思い出してもおかしくて倒れそう。

衝撃の結末(の一歩手前のシーン)では、客みんなが口あんぐり。
笑う態勢のできている客に囲まれて観るのって
映画館全体が幸せに包まれているようで、好きだなぁ。

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カスレとアルザスのワイン(『ピエロの赤い鼻』追記)

2005年06月08日 | 映画(番外編:映画と食べ物・飲み物)
前述の『ピエロの赤い鼻』では
作品中に登場するワインやお料理によって
戦時中の食べ物に対する思いを知ることもできます。

ジャックとアンドレは酔った勢いで
ドイツ軍の乗る列車に向かってワインの瓶を投げつけます。

「ワインを投げつけてやったよ」とふたりが得意げに報告すると、
ルイーズは「たかがワインでしょ」と笑います。
するとジャックはこう言います。
「たかがワインじゃない。アルザスのワインだぞ」。

作品の舞台はドイツ占領下のフランスですから、
その領土争いの因縁の地であるアルザスのワインは
「たかがワイン」ではないというわけです。

アルザスのワインって確かに超おいしいですが、
こういう歴史的背景を持つと聞くと、
もっと感じて飲まなきゃと思わずにいられません。

爆破成功を祝ってルイーズが用意してくれたのは
ラングドック地方の有名な郷土料理「カスレ」でした。
これはソーセージや肉類を白インゲン豆とともに煮込んだお料理です。
ルイーズがこっそり取り置いていたソーセージのおかげで、
戦時中はまずありつけないカスレにめぐりあえて、ふたりとも大喜び。
兎肉やジロル茸なんて、聞き慣れない食材も登場します。
3人はカベルネ・ダンジューというワインで乾杯。

人質となったあと、放り込まれた穴の中で
ジャックとアンドレはカスレがいかに旨かったかを
あとの2人の人質、ティエリーとエミールに語ります。
しかし、こんな時期にカスレを食べられるなんて
羨ましすぎて信じたくないと思うティエリーは
ただのホラ話だと決めつけます。

爆破の犯人は自分たちなのに、このままだと
罪のないティエリーとエミールも見せしめに射殺されてしまう。
ジャックとアンドレはようやく腹を括って
自分たちが爆破の犯人だと告白しますが、
カスレを食べたとホラを吹くような奴らだからと、
それも信じてもらえません。

ピエロの鼻をつけたドイツ兵ベルントに向かって、
ジャックが「酔いを表す語がフランス語にはいっぱいある。
その分野では、フランスはドイツに圧勝だ」と言い放ち、
ベルントと人質たちが穴の外と中で対決を始めるのも楽しいです。
「ほろ酔い」「泥酔」などなど、日本語訳もついていっているところを見ると、
酔いを表す語は日本語にも結構ありますね。

公開時のキャッチコピーは
「いまはただ、君を笑わせることしかできないけれど」。
笑わされて泣かされます。

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『ピエロの赤い鼻』

2005年06月06日 | 映画(は行)
『ピエロの赤い鼻』(原題:Effroyables Jardins)
監督:ジャン・ベッケル
出演:ジャック・ヴィユレ,アンドレ・デュソリエ,ティエリー・レルミット,
   ブノワ・マジメル,シュザンヌ・フロン他

新作落ちしたところのレンタルDVDで。

フランスの片田舎。
小学校教師ジャックは町の人気者。
授業中も生徒たちを笑わせる。
休日はピエロに扮装し、集会所で大勢の観客を楽しませている。

そんなジャックを悲しげに見つめるのが息子のリュシアン。
笑わない彼に気づいたジャックの友人アンドレは、
「父さんが嫌いか」と尋ねる。
「父さんが嫌いなんじゃない。ピエロが嫌いなんだ」。
そう答えるリュシアンをアンドレは外へ連れ出し、こんな話を始める。

リュシアンの生まれる前、第二次世界大戦のさなか。
大親友のジャックとアンドレは、
ふたりともが想いを寄せるルイーズにいいところを見せようと、
ささやかなレジスタンス活動を決意する。
それは、ドイツ軍の列車が通るポイント切替所に
自作の爆弾を仕掛けるというもの。

見張りのドイツ兵をジャックがおびき出し、
そのすきにアンドレが爆破。作戦は大成功。
ふたりは得意満面でルイーズのもとを訪れる。

ルイーズの手料理とワインで祝杯をあげていると、警官が乗り込んでくる。
なんと、無人だと思われていた切替所には
町の老人フェリックスが詰めており、瀕死の重傷。
犯人が名乗り出るまで、ドイツ軍は町の男4名を人質にすると言う。
犯人だとバレてはいないが、人質として指名されてしまったジャックとアンドレ。

ふたりを含む人質たちは、深く掘られた穴に投げ込まれる。
食事も与えられず、脱出する方法も見いだせず、雨に打たれて震える4人。

やがてやってきたのはドイツ兵ベルント。
恐怖に怯える人質たちを前に、ベルントはピエロの赤い鼻をつけて芸を始める。
最初は「これは侮辱だ」と憤る4人だが、次第に心が和み……。

ただただ、いい話。
ひとしきりおどけたあとのベルントの、
「生き続ける限り、希望がある」という言葉は甘いかもしれない。
けれど心が揺さぶられます。

「笑いは最強の武器である」。
本作の公開直前に亡くなった作家、セバスチャン・ジャプリゾへのオマージュともなりました。
戦時中を描いた作品には、食べ物と音楽があれば
なんとかなるんだと思わされることが多いですが、ここに笑うことも追加。

作品中のお料理の話についてはこちらで。

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『ザ・インタープリター』

2005年06月02日 | 映画(さ行)
『ザ・インタープリター』(原題:The Interpreter)
監督:シドニー・ポラック
出演:ニコール・キッドマン,ショーン・ペン,キャサリン・キーナー他

そしてこれが3本ハシゴの1本目に観た作品。
本物の国連本部内で撮影が許可されたのは
映画史上初ということで話題を呼んでいます。

アフリカのマトボ共和国では、
独裁者のズワーニ大統領が、民主化を求める人びとの命を奪い続けていた。
彼はその正当性を訴えるため、
数日後にニューヨークの国連本部に赴き、演説をおこなうことになっている。

国連本部で通訳として働くシルヴィアはマトボ出身。
ある日、会議後のひとけのなくなった本部内へ
荷物を取りに戻ると、ひそひそと声が漏れてくる。
それはマトボのクー語で密談される、ズワーニ大統領の暗殺計画だった。
慌ててその場を立ち去るが、密談の主に姿を見られてしまったらしい。
その日以来、シルヴィアは誰かにつけ狙われるようになる。

さっそくシルヴィアは上司に相談。
彼女の護衛として、シークレット・サービスの捜査官ケラーらが派遣される。
しかし、シルヴィアの話に嘘の匂いを感じ取ったケラーは、彼女の身辺調査を始める。
次第に彼女の過去が明らかになり……。

先週観たロードショー3本のなかで、私はこれがいちばん好きでした。
サスペンスとしてはドキドキ度イマイチですが、
大事な人を失った者の心の置き場所を細やかに、強く描いた作品だと思います。

途中、明らかになるのは、シルヴィアの両親が地雷によって亡くなったこと。
彼女が復讐を企てているのかもしれないと疑うケラーに向かって、
シルヴィアは故郷のクー族の儀式のことを語ります。
――クー族では、殺人犯を縛って川に放り込む。
溺死させるか助けるかは、遺族の手に委ねられる。
もし溺死させれば遺族は一生喪に服すが、
犯人を助ければ遺族は悲しみから解放される――。
黙って聞いていたケラーは、妻が男と駆け落ち中に事故で亡くなったことを明かし、
自分は赦すことはできないと話します。

ケラーを演じたショーン・ペンは、どんな悲しい場面でも涙を流しません。
巧いけど、泣く演技はできないんじゃないかと、この作品に限らず言われています。
しかし、私は逆に凄いと思うのです。
一滴の涙も流さずにあんなに悲しみを表現できるなんて。

ニコール・キッドマン、美しすぎ。
トム・クルーズと離婚してから、彼女のキャリアはまさに天井知らずの勢い。
負けるな、トム!

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