夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『スポットライト 世紀のスクープ』

2016年04月23日 | 映画(さ行)
『スポットライト 世紀のスクープ』(原題:Spotlight)
監督:トム・マッカーシー
出演:マイケル・キートン,マーク・ラファロ,レイチェル・マクアダムス,
   スタンリー・トゥッチ,リーヴ・シュレイバー他

休日に梅田で2本ハシゴの1本目。TOHOシネマズ梅田にて。

久しぶりに7階のシアター7で観たのですが、
ここは縦長の座席配置のわりにスクリーンが小さくて、
後方の席よりも前方の席のほうが観やすいです。
それを忘れてかなり後ろの席を取って後悔。
夫婦で来られていたとおぼしき隣席の初老の男性は、
上映前に「スクリーンがこんなに遠いとは思わんかった。
何のために観に来たんかわからん」とぼやきどおし。
上映開始から20分と経たないうちにおひとりで出て行ったまま戻って来ず。
そこまで耐えがたくはなかったですけれども。(^^;

第88回アカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した話題作。
監督は『扉をたたく人』(2007)や『靴職人と魔法のミシン』(2014)のトム・マッカーシー
『扉をたたく人』で主演したリチャード・ジェンキンスが、
そのご縁からか本作では電話の向こうの声だけの主を演じています。

マサチューセッツ州ボストンにおいて最大発行部数を誇るボストン・グローブ紙。
“スポットライト”は同紙の少数精鋭の報道調査班。
チームリーダーのロビーと、マイケル、サーシャ、マットは、
ひとつの問題について徹底した取材を重ね、記事にする。
スポットライトに取り上げられたものは、大きな反響を呼ぶことが確実。

2001年、ボストン・グローブの新編集長としてマーティンが就任する。
社員たちがお手並み拝見と、いくぶん意地悪な面持ちのなか、
マーティンは以前コラムで取り上げた事件の続報はないのかと皆に問いかける。
続報も何も、それはただのコラム。その後の取材などしていないとの答えに、
マーティンはこれこそがわが紙で取り上げるべき問題だと主張する。

その事件とは、ゲーガンという神父の子どもへの性的虐待事件
スポットライトは別件の建築問題を調査中で、記者主体のスポットライトでは、
編集長とて進行中の調査の中断を命じることなどできないが、
新編集長の厳かな物言いに、ロビーはゲーガン事件の取材を決意するのだが……。

トム・マッカーシー監督といえば、いつも自ら脚本を書く人。
コメディのときもシリアスなドラマのときも、しっかりとした脚本ゆえ、
冗漫さがなくて話にぐいぐい引き込まれます。

取材を始めてみれば、ゲーガン神父のみならず、
複数の神父が性的虐待を働いている模様。
しかも枢機卿はその事実を知っていながらひた隠し、
問題を起こした神父を転属させるだけで辞めさせはしない。
転属で性的嗜好が治るわけはなく、被害が広がるだけなのに。
カトリック教会が長年隠蔽してきたこのスキャンダルをスポットライトが暴き出し、
2003年にはピューリッツァー賞を受賞したそうです。

カトリック教会を敵に回すことは、神を相手にするのと同じ。
どこにも敬虔な信者がいて、神父のことも盲目的に信じているから、
ちょっとやそっとの覚悟では事件の取材はできません。
取材の過程も興味深ければ、そこで明らかになる驚愕の事実。

正しいことをするのはむずかしい。
むずかしいけれど、自分の信念に基づいた行動を。

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『ミラクル・ニール!』

2016年04月21日 | 映画(ま行)
『ミラクル・ニール!』(原題:Absolutely Anything)
監督:テリー・ジョーンズ
出演:サイモン・ペッグ,ケイト・ベッキンセイル,サンジーヴ・バスカー,ロブ・リグル他
声の出演:ジョン・クリーズ,テリー・ギリアム,エリック・アイドル,
     テリー・ジョーンズ,マイケル・パリン,ロビン・ウィリアムズ

先週の金曜日は午後休ではなく全休を取って友だちとお昼ごはん。
夙川へ向かう前に1本観ようと、8:20箕面発の普通電車に乗車。
ゆっくりと座って、いまさらの浅田次郎、『鉄道員(ぽっぽや)』を読みはじめたら、
しまった、こんな本、電車の中で読むんじゃなかった。涙で目がうるむうるむ。
なんとか涙が流れ出るのはこらえて、梅田へ到着。ブルク7へと向かいました。

きっとアホくさいだろうと思いつつ、これもどうしても観たかった1本。
予想どおりアホらしかったけど、好きだなぁ、このノリ。
監督は“モンティ・パイソン”のテリー・ジョーンズ。
エイリアンの声を担当するのはモンティ・パイソンの現存メンバー全員。

高校教師のニールは小説家を目指すも開花せず。
なかなか良い案が浮かばず、階下に暮らす美女キャサリンを想ううちにうたた寝。
出勤時間に遅刻してばかりで、校長から目の敵にされている。
「自分」を辞めることができるならそうしたいぐらいだと独りごちる。

ちょうどその頃、はるか銀河の彼方では、
優等種のエイリアンたちが地球の処遇を巡って討議中。
即時破壊が妥当とされるが、最後のチャンスを一応は与えるのがルール。
地球上の人物を無作為に選んで全知全能の力を授け、
その力をどう使うかを見てから地球を破壊するかどうかを決めるのだ。
善行に走れば地球は救われ、自己中心的な行動しか見受けられなければ即時破壊。

さて、こうして無作為に選ばれたのがニール。
ある日を境に、願い事を口にして右手を振ればそれがすべて叶うことに気づく。
校長が自分に親切になりますようにと願えば、校長は気味が悪いほど優しく、
生徒たちが良い子になりますようにと願えば、そろいもそろって真面目になる。
同僚のレイが片想い中の相手から蔑まれているのを不憫に思い、
彼女がレイを崇拝しますようにと祈ると、レイは神様並みに奉られるように。

しかし、そんなニールが知らない間に託されている地球の命運。
エイリアンたちの審査期間は7日間。地球はいったいどうなるのか。

おバカです。しかし憎めない。ついつい笑ってしまいます。
映画のう○こネタは苦手ですが、
愛犬デニスの粗相の始末が嫌で「う○こ、どっかに行け」と口走ったら、
う○こがすっくと立ち上がって歩き出す姿には笑いました。

デニスが騒ぐ理由がわからず、「人間の言葉を話せ」と念じたら、
犬が普通にしゃべるようになります。
そのデニスの声を担当するのがロビン・ウィリアムズ
急逝してからもうすぐ丸2年。寂しく、懐かしい。

こういう物語は、主人公が自分にとって都合のいいことばかり起こして、
最後にまわりの人のことを考えた結果救われるというのが定番でしょう。
本作も大筋ではそうなのですが、サイモン・ペッグが演じるとなんだか可笑しい。
最後まで素直に楽しめました。

理由があるから戦争が起きるとは限らない。
そんなことも思い知らされて、コメディながらしばし考え込みました。

この日は映画鑑賞後に友人たちと夙川駅前で待ち合わせ、昼酒をかっくらい。
ランチ前後にはパン屋を4軒ハシゴ。楽しかったよん。

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『ルーム』

2016年04月19日 | 映画(ら行)
『ルーム』(原題:Room)
監督:レニー・アブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン,ジェイコブ・トレンブレイ,ジョーン・アレン,
   ショーン・ブリジャース,ウィリアム・H・メイシー他

映画をハシゴするさいは、たいてい効率重視の私が、
「はたして本当に観たいのはどれか」を考え、2本目に選択したのは本作。

前述の『ボーダーライン』はなんばパークスシネマで、
同じなんばで本作を上映中なのはTOHOシネマズなんば。
そこで観られたらいちばんよかったのですが、ちょうどいい時間には上映なし。

ハシゴ可能なところに上映劇場はないかを調べたら、
未体験ゾーンのあべのアポロシネマで間に合いそうな時間に上映あり。
なんばで15:00に上映終了、天王寺で15:30に上映開始。
車はなんばパークスの駐車場に入れたまま、地下鉄で天王寺へ向かいました。

余裕で間に合ったものの、ちょっとしたカルチャーショック。
こんなことを言うと偏見だと怒られそうですが、
大阪の北と南はどことなくちがう。淀川のあっちとこっちではちがうんです。
これが大和川を越えるとさらに変わるそうなんですけど。

アポロシネマの入るビルは昭和な雰囲気たっぷり。
シネコンだけど、劇場が回廊を挟んだ両側に点在していて、
渡ったところにあるチケットカウンターの頭上には雲浮かぶ空の絵。
ひなびた趣の売店に、古い旅館のロビーを思わせる劇場入口付近。
入場するとなんだかキャバレーが思い出されて。
へたった座席は引き出そうとするとバコンとでかい音。
しまうときには全力で押さないと畳めません。

客席には茶髪じゃなくて金髪の人がやたら多く、
私はさすがに“おひとりさま”のときにしかしない、
「靴を脱いで座席上で体操座り」というのをしている人、多数。
カルチャーショックを受けはしましたが、なんかこういうのもいいかも。

劇場の話だけにこんなに割いてしまいました。(^^;
やっと作品自体の話。ネタバレを含んでいますのでご注意を。

見知らぬ男に拉致監禁され、犯人の子を出産したジョイ。
狭い納屋にベッドやクローゼット、洗面台などをしつらえた部屋に、
ジョイと5歳になる息子ジャックは監禁されつづけている。
最低限の生活に必要なものは、毎日曜日に犯人が届けに来る。

ここで生まれ育ったジャックは、外に世界があることを知らない。
幼いジャックを混乱させぬよう、ジョイもそう教えてきた。
しかし、ジョイはジャックに真実を明かすことを決意。
部屋から脱出するために行動を開始するのだが……。

犯人の目を盗んだり格闘したりして脱出するまでのサスペンス劇ではありません。
前半1時間でジャックは脱出に成功、保護されます。
婦人警官の機転でジョイの監禁場所を突き止めた後は、
犯人逮捕がニュースで知らされるだけで、怖いシーンなし。

こういう誘拐監禁事件は、無事保護されただけでは終わらないということ。

今までママとしか接してこなかったから、
ほかの人に声をかけられると怖くてひるむジャック。
雑菌に異常に弱く、眼が日光に耐えられない。
そんな身体的問題がまずあります。

それをクリアしても、マスコミが殺到して平穏には過ごせず。
監禁されている間に離婚してしまった両親は、
ふたり揃って会いに来てジョイを抱きしめてくれるけれども、
父親は孫であるジャックの顔を直視することができません。
娘が犯人に強姦されてできた孫なのですから。

対する母親は孫をとても可愛がってくれるけれど、
父親と別れて別の男性と暮らしている母親のことをジョイは責めてしまいます。
「私がいないときに別の男を連れ込んで幸せに暮らしていたんじゃないか」と。
長らく犯人が部屋に来る気配におびえていたから、悪夢も見ます。
生きていることがつらくなり、ジャックに当たってしまうことも。

外の世界のほうが幸せなはずなのに、あの部屋に戻りたいと時折こぼすジャック。
最後にジョイが取る行動こそが、前を向いて歩こうとする決意の表れ。

いい作品でした。

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『ボーダーライン』

2016年04月17日 | 映画(は行)
『ボーダーライン』(原題:Sicario)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:エミリー・ブラント,ベニチオ・デル・トロ,ジョシュ・ブローリン,
   ヴィクター・ガーバー,ジョン・バーンサル,ダニエル・カルーヤ他

西天満で晩ごはんを食べることになっていた月曜日、
もはやすっかりクセになっている午後休をまたしても取りました。
晩にたらふく飲んで食べる予定の日も、私は車で通勤。
お酒をほとんど飲めないダンナが帰りは運転してくれるからラッキーです。(^O^)

で、お昼のチャイムと同時に車で職場を出発。
晩ごはんまでに映画を2本ハシゴすることができそう。
観る作品と劇場の候補はいろいろあり、いつもなら効率を重視するところですが、
この日は「はたして私が本当に観たいのはどれなのか」を考えました。
その結果、まずはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督がどうしても気になる本作を選択。
昼間は空き空きの新御堂筋をすいすいと走り、なんばパークスシネマへ。

FBIの誘拐即応班のリーダーで女性捜査官のケイト・メイサーは、
ある日の現場で部下2名を失う。
上層部が顔を並べる会議の席に呼び出され、
てっきり処分を言い渡されるかと思いきや、
彼女の確かな腕と経験を買われて、特殊部隊にスカウトされる。

目的はメキシコの麻薬組織“ソノラ・カルテル”を潰し、
最高幹部のマヌエル・ディアスを拘束すること。
任命ではなく、あくまでケイトの意思で志願という形が必要らしい。
ケイトは躊躇したものの、麻薬組織の壊滅を望んで志願する。

ケイトの上司となったのはCIAに属するとおぼしきマット・グレイヴァー。
チームに同行することになったのはアレハンドロというコロンビア人で、
いったいどこに所属しどこから派遣されているのかがわからない謎の男。
ケイトが尋ねても、マットもアレハンドロも教えてくれない。

チームは国境を越えてメキシコのフアレスへと向かう。
ところがそこでケイトが目にしたものはチームの違法行為ばかり。
正義や法のいっさいを無視したやり方にケイトは異議を唱えるのだが……。

原題の“Sicario”はスペイン語で「殺し屋」の意。
冒頭でその説明があり、観終わって納得。
邦題の『ボーダーライン』はいささか凡庸な気がしますが、
物理的な国境だけでなく、善悪の境を意図するものとしては良いですね。

『プリズナーズ』(2013)では、犯人のみならず被害者の父親も囚人と化してしまう、
その境界はいったいどこにあるのかを描いた監督。
本作では悪を潰すために違法行為もいとわないチームの中で
正義とは何なのかを考えて苦しむケイトの様子が痛々しい。

『エスコバル/楽園の掟』で麻薬王を演じたベニチオ・デル・トロ
今回は麻薬組織を壊滅させる側のアレハンドロ役。
悲しい過去を背負う彼の冷徹な姿は観る価値があります。

楽しい話ではないけれど、とても惹きつけられる作品でした。

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『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』

2016年04月15日 | 映画(は行)
『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』(原題:Banksy Does New York)
監督:クリス・モーカーベル

甲子園でデーゲーム観戦の前に1本だけ、梅田ブルク7にて。

『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』(2010)を観て以来、
気になって仕方がない覆面アーティスト、バンクシー。
世界各地にゲリラ的に現れ、グラフィティアートやストリートアートを残す手法を取り、
有名な美術館や博物館の展示品の間に自作を勝手に展示したり、
動物園の囲いにペイントしてみたり、パレスチナの分離壁に絵を描いたり。

いつのまにそんなところに潜り込んで作品を仕上げたのか誰にもわかりません。
活動を始めてからすでに15年以上が経過するというのに、
正体を暴こうと躍起になる人たちを見事にかわしつづけ、いまだ正体不明。

金儲けにはまったく興味がないと見えて、
世界のトップ企業や有名人からのコラボ等のオファーはすべて断る潔さ。
しかし、彼の作品は人気沸騰、オークションでは高額で落札されています。
出品者はもちろん彼本人ではなく、彼の作品をたまたま手にした人や、
金に物を言わせて彼の作品をどうにかして入手した人とか。

そんなふうに話題に事欠かないバンクシーが、2013年10月の1カ月間、
毎日1点ずつ、ニューヨークの街のどこかで作品を発表すると宣言。
毎朝インスタグラムで発表されると、
街のどこかに「展示」されている彼の作品を一目見ようと、
バンクシーの追っかけや、転売を目論む者がニューヨーク中を走り回ります。
一応「違法な落書き」だから、見つかるやいなや消されてしまうことも。
わずか数時間しか展示されない作品を見ることができた人は大興奮。

彼の活動は人を食った行為にも見え、よく思わない人もいっぱい。
しかし、もともとの看板や標識に何かを加えて風刺画にしたり、
トラックの荷台に滝をつくったり、単純に非常に面白いです。

慈善団体のロビーに掲げられていた数千円の価値の絵画を拝借、
そこに絵を描き足してこっそり返却。
慈善団体がオークションに出品すると、ものすごい価格で落札されたそうですが、
それに絡んでハンナ・アーレントの話が出てきたことにも興味を惹かれました。

これからも注目せざるを得ないアーティストです。

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