吉井勇の若冲「五百羅漢」(2)
吉井が京都に住みついて、静かな晩年を送ることが出来るようになったのは、この太腹羅漢をみてから、人生というものに対する考えが変わったためではないだろうかといいます。ゆきずりの住居と思っていた京都に、ずっと長く住みつき、ここを終のすみかとするようになったのも、あるいは羅漢たちが、離してくれないからではないか。石峰寺の羅漢と何か因縁があるのではないかと、彼は記しています。
京都北白川に越して来、その翌月に羅漢たちにはじめて出会ってから二十二年の後、昭和三十五年十一月十九日寂。かつて羅漢の夢をみた、同じ京都大学病院の病床で息をひきとりました。最後の言葉は「歌を……。歌を……」。来迎の羅漢たちに、彼は話しかけたのではないかと思ったりします。享年七十三歳。
<2008年11月14日 南浦邦仁>