水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第五話) お月見

2009年11月01日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      
(第五話)お月見

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

1.居間(庭前の渡り廊下) 夜
   タイトルバック
   蒼白く煌々と照らす月。月を並んで愛でる恭之介と正也。
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第五話) お月見」
   キャスト、スタッフなど
  N   「名月を 取ってくれろと 泣く子かな。こんな句を、じいちゃんから聞いたことがある。僕の場合、別に泣きはしないが、名月に
       は付き物の月見団子を頬張りたいとは思う」
  恭之介「明日はいよいよ十五夜か…。朧月もいいが、何といっても中秋の名月だ。月々に 月見る月は 多けれど 月見る月は この
       月の月、というのもあるからな」
  正也  「ふ~ん」
  N   「よく分からない僕は、じいちゃんの隣りで適当に合いの手を入れておいた。まあ、早口言葉のようだから学校で流行らせてみ
       よう…とは思ったのだが」
   少しの間合い。名月を愛でる二人。
  正也  「じいちゃん、さっきの、どういう意味?」
  恭之介「ああ・・確か、道長という平安時代の偉い人が詠んだ和歌だ」
  正也  「そうなんだ」
  恭之介「そろそろ、寝なさい。また、母さんに怒られるぞ」
  正也  「うん」
   部屋へ戻る正也。月を愛でる恭之介。

2.正也の部屋 朝
   小鳥の声。布団で寝ている正也。戸口から聞こえる恭之介の声。
  恭之介「正也、ちょっといいか」
  正也  「じいちゃん? おはよう。うん、いいよ。入ってよ(眠そうに)」
  恭之介「いや、ここでいい。昨日のな。あれは作者不詳なんだ。道長のは、この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なし
       と思えば、だった…」
  正也  「そうなの? …どうでも、いいんだけど」
  恭之介「いや、いかん。それは・・いかん。いかんいかん。じゃあな・…」
  正也  「うん…」
   唐突に布団から半身を起こし、両手を広げる正也。朝日が窓から差し込む。

3.居間 夜
   蒼白く煌々と照らす中秋の名月。庭前の渡り廊下の小机。小机の上に飾られた三方の月見団子と花瓶に活けられたススキ。庭傍の
   畳に陣取り将棋を指す恭之介と恭一。どっかりと座布団に座わり、盤上に釘づけの二人。 
  N   「夜になるとじいちゃんが云っていた中秋の名月が、僕の家に挨拶にやってきた」
   ふと、盤上から視線を庭先の中秋の名月に走らす恭一。
  恭一  「なんか、ススキと月が似合いますねえ…」
   声に促され、中秋の名月に視線を走らせる恭之介。
  恭之介「…そうだなあ。秋の月には確かに合う。おい、正也、すまんが電灯を消してくれ」

4.台所 夜
   台所でテーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。
  正也  「ああ、…ハイッ!」
  N   「僕は師匠に即答して、ご機嫌を伺った」
   立つと、電灯のスイッチを切る正也。俄かに薄暗くなる家の中。蒼白い月明かりが照らす家の中。

5.居間 夜
   薄暗くなった居間で将棋を指す二人。蒼白い月明かりに照らされた恭之介と恭一。月明かりに照らされ、電灯のようにピカッと輝く恭
   之介の禿げ頭。
  N   「電灯を消した居間は妙な静寂が流れ、蒼白い月明かりが煌々と文明以前の時代を照らし出しているように思えた。特に、じい
       ちゃんの禿げ頭は、磨いたタイルのようにテカっていた」
  恭一  「さあ、団子をお相伴にあずかりますか?」
  恭之介「おっ、そうだな」
   居間へ入ってくる未知子。
  未知子「綺麗なお月様…。今、お茶にしますね」
  恭之介「未知子さんは、いつもタイミングがいい!」
  N   「ベンチャラの積もりでもないんだろうが、じいちゃんは、いつも母さんに一目、置いているように思える」
   静まり返った居間に月明かりが射す。黙して月を愛で、団子を頬張り、茶を啜る四人。突然、話しだす恭一。
  恭一  「父さんに叱られないんで、今夜は返って気味が悪いですよ」
  恭之介「ははは…(軽く笑って)。今日ぐらいは、な。まあ、そのうち纏めさせて貰う」
  恭一  「怖いですねえ」
   笑い合う、家族四人。
  N   「中秋の名月が照らす居間に、いつまでも四人の
       笑い声が響いていた」
   F.O
   タイトル「秋の風景(第五話) お月見 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、
「秋の風景(第五話) お月見」をお読み下さ
い。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第二十五回

2009年11月01日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第二十五回
 ただ、それが、いつになるにしろ、一馬との今の体制が崩れること
は避けられぬ事実であり、左馬介にとっては大きな問題であった。
 樋口静山は影番を仰せ付かっているから、勝手気儘が許されている。そこへ加えて、葛西者だということも加味され、さらには偏屈者だということで、堀川道場では異端児扱いされていた。昨年から今年を跨(また)いで行われた総当り試合では負けなしで、蟹谷や井上と肩を並べた三強の実績がある猛者(もさ)だ。左馬介は立ち合ったことがあり、指導を受けた経験もあったから、その実力を認めていた。その樋口の情報である。半分方は新しい入門者を喜んでいるのだが、また一方では今後の展開に微かな不安を覚える左
馬介であった。
 深々と雪が降り続く朝、その新しい入門者は道場へ、やってきた。案内役は左馬介の時もそうであったように、今回も同じく、大男の神代伊織のように思われた。というのも、いつもより一人少ない稽古の顔ぶれを見て、咄嗟(とっさ)に神代がいないと左馬介が気づいたからである。それは、左馬介と一馬が朝餉の支度を整えて厨房から駆けつけ、いつもの寒気が包む冷え冷えとした場内での朝稽古が始まろうとしていた時であった。その頃、鴨下葱八という三十過ぎの男が道場の門を潜ろうとしていた。


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