水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 冬の風景 特別編(下) 禍福は糾(あざな)える縄(1)

2009年11月23日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      冬の風景
      
特別編(下) 禍福は糾(あざな)える縄(1) 

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也

1.台所 夜
   タイトルバック
   鳴る除夜の鐘。食卓テーブルを囲み年越し蕎麦を啜る家族四人。テレビが映す年越しの中継。
  N   「年が暮れようとしている。除夜の鐘が静寂を破ってグォ~~ンと撞かれる。人間が持つ百八
つの煩悩とは、いったい何なの
       か…。小難しいことは僕には分からない。それでも煩悩を抱く
人間感情を洗い清める鐘の音だとは理解できる。ただし、明日
       以降に頂戴できるであろうお
年玉の総額を頭の中で勘定している僕などには、遠い悟りの世界のように思えてならない
のだ
       が…」
   タイトル「冬の風景 特別編(下) 禍福は糾(あざな)える縄」
  恭一  「今年の蕎麦は、なんかグルメだな…」
  未知子「そんな訳でもないんだけど…。料理番組の受け売りよ。どう? 美味しい?(恭一に美味い
と云わせよう…という気持ちで)」
  恭一  「ん? ああ…。まあな」
   無言で食べる恭之介と正也。恭之介を見る未知子。
  未知子「お父さまは、どうです?」
  恭之介「こりゃ、知らない味だ…。なかなか美味いですよ、未知子さん(少しヨイショぎみに)」
  未知子「そうですか?…(言葉で謙遜し、外づらはニタリと、まんざらでもなさそうに微笑んで)」
   未知子の様子を垣間見る正也。美味そうに啜り続ける四人。
  N   「後日、母さんに、そのレシピを聞くと、葱と鶏肉を胡麻油で軽く炒めるのがポイントだそうで、そ
こへ市販の麺つゆを濃いめに入
       れ、砂糖で少し甘味のある出汁(だし)に纏めるのが、いい
らしい。僕も確かに美味しいと思ったし、例年だと残る蕎麦が全く
       無くなったことを思えば、今
年の蕎麦が好評を博したことは語る迄もないだろう」
   美味そうに啜り続ける四人。

2.居間 朝
   新年の賀を祝う家族四人の食事風景。長椅子を囲む四人。おせち、のお重。屠蘇、燗酒の銚子、雑
煮の入った椀。ジュース入りのコ
   ップ。オードブルの馳走などが所狭しと並ぶ。紋付き袴姿の恭之
介。着物姿の三人。
  N   「凧揚げ、独楽(こま)回し、羽根つき、カルタ取りなどを楽しむ、といった世相ではなくなったけ
れど、それでも、お年玉を戴けると
       いう慣習は現代も残っているから、僕達にとっては誠に有
り難い」
   美味そうに雑煮を食べる四人。咀嚼中、急に食べるのを止め、入れ歯を外す恭之介。
  恭之介「し、しまった!・・儂(わし)と、したことが…。お前が、つまらんことで笑わすからだっ!(急に怒り出し)」
  恭一  「どうも、すみません…」
  未知子「お父さま。お正月ですから…」
  恭之介「あっ! そうでした。すまんかった、恭一」
  恭一  「いえ…」
   入れ歯を外したまま、ふたたび、フガフガと食べ続ける恭之介。あとに続く三人。   
  N   「正月ということもあり、歯医者は休業中であったから、じいちゃんは仕方なく、不調の入れ歯
を口から外し、フガフガモグモグ
       と、数日はやっていた。だから、いつもの精悍さは、どこか影
を潜めているように僕には思えた」

3.子供部屋 夕方
   机横の畳で胡坐の正也。十数枚のお年玉袋。したり顔で、お年玉袋から出したお年玉の額を数える正也。
  N   「悪いことがあれば、いいこともあるものだ。二日目、三日目と過ぎると、お年玉のトータル額は昨年の倍増という営業実績を示
       すに至り、僕としては、ラッキーな結果となった(◎に続けて読む)」

4.(フラッシュ) 居間 昼
   馳走が置かれた長机上。長机を囲み歓談する叔母、従兄弟と家族四人。
  N   「(◎)加えて、叔母さんが帰ってきて、(◇に続けて読む)」


                                    
(明日へつづく)


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十回

2009年11月23日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十回
 暈されれば人間、知りたくなる。だが、途切れた話で接(つ)ぎ穂が
なかったから、左馬介は如何とも、し難い。
「今の話、私、知ってますよ」
 
予想外の鴨下の言葉だった。一馬は何かの弾みで知ったのだろうが、道場暮らしが近々、二年になる長谷川も知らないその訳を、
新参者の鴨下が知っていること自体が訝(いぶか)しかった。
「えっ? どういうことですか? だって、鴨下さんは未だ入門され
て僅(わず)かですよ?」
「はい…。その訳をお話しますと道場へ着いてしまいますから止めますが、掻い摘んで要点だけ云いますと、実は葛西宿の千鳥屋さ
んと私は入魂(じっこん)の間柄なんです…」
 左馬介も、一馬も、そして長谷川さえも、これには驚かされた。そ
のような鴨下の人間関係などは、想像だに、していない。
「すると、千鳥屋の方からお聞きになったということですか?」
「ええ、そうです」
 隣りを歩く左馬介の顔を眺めながら、鴨下は肯定した。そういう
ことなら得心出来る…と、左馬介は思った。
 鴨下が千鳥屋と懇意だということは、鴨下が入門前に葛西宿へ来ていたことを意味する。


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