≪脚色≫
冬の風景
(第三話)教養人
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
その他 ・・従兄、叔母
1.湧水家の玄関 外景 昼
タイトルバック
玄関戸の上部に飾られた注連飾り。どこからか聞こえる獅子舞が奏でる笛、太鼓の音。
2.子供部屋 昼
従兄と楽しそうに話をする正也。みかんを食べる二人。二人が愉快に話す光景。
N 「久しぶりに都会の叔母と従兄弟がやって来た。大人同士の会話もいいとは思うが、子供同士の会話というのも、いいもので教
養深く乙なものだ。話は弾んで、年末年始の諸収入の話となり、クリスマスで、せしめた贈りもの談義も大いに盛り上がって、
サミットは閉幕した」
3.湧水家の玄関 外景 夕方
従兄弟、叔母が帰る姿。見送る家族四人。
テーマ音楽
タイトル「冬の風景」(第三話) 教養人」
キャスト、スタッフなど
4.台所 夜
食卓テーブルの椅子に座る恭之介。後片付けを炊事場でする未知子。
恭之介「未知子さん、お疲れでした。毎年のことながら、ご苦労をかけます(炊事場を見ながら)」
未知子「あらっ、お父様。そんなお気遣いは無用に願います。ここが実家なんですから、お帰りになって当然ですわ」
恭之介「はあ、そらまあそうですが…」
5.居間 夜
長椅子に座り、本を読む正也。台所から聞こえる恭之介と未知子の声、そして見える遠景。
N 「最近、嗜(たしな)み始めた碁の本を居間で読んでいると、そんな二人の会話が聞こえてきた。すると…(◎へ続けて読む)」
恭一が居間へ入る。続けて、テーブル椅子を立った恭之介も台所から居間へ入る。暗黙の了解が出来ているように、窓際へ向かい
将棋を指し始める二人。
N 「(◎)二人はいつの間にか将棋を指し始めた」
ふと、将棋盤から視線を長椅子へ移す恭一。
恭一 「おい、正也。何、読んでんだ?」
正也 「ん? 五目並べの本だけど…」
恭一 「五目並べか…。父さんや俺の跡を継いで、将棋をやれ。…なら、三代目も夢じゃない」
恭之介「まあ、お前、そう云うな。正也には正也の生きる道ってもんがある。それに、五目並べと馬鹿にするが、なかなかどうして、奥深
いものなんだぞ。連珠と云って、プロの有段者もいる」
恭一 「ほお…、そうなんですか? …王手!」
恭之介「ウッ! いつもながらズルい奴だ。儂(わし)にしゃべらせておいて油断させるとは…。呆れてものも云えん!」
恭一 「父さんが勝手に話してんじゃないですか」
恭之介「うるさい! 黙りおろぉ~~!!」
N 「ピカッ! っと光る、じいちゃんの時代劇言葉が炸裂して父さんを直撃した。父さんは防御のバリアを張って、だんまりを決め込
み、己が身を守る。暗黙の了解が出来た関係はどこへやら、両者の間に暗雲が漂う」
チューハイのレモン割りのコップとツマミの小皿を載せて入る未知子。恭之介と恭一が座る畳横へ、しゃがみ込み、静かに盆を置く未
知子。
恭之介「あっ、これは…。いつもすみませんな、未知子さん(軽く会釈して)」
未知子「いいえ…」
恭一 「気が利くな(未知子を見て)」
恭之介「当たり前だ! (恭一を見て、笑顔で)」
笑いながら、無言で居間を出る未知子。その様子を垣間見る正也。
N 「二人の機嫌は一変し、すっかり仲良くなった。僕は二人の様子を見て、この教養人の方々には、とても勝てない…と確信した」
F.O
タイトル「冬の風景(第三話) 教養人 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「冬の風景(第三話) 教養人」をお読み下さい。