水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景 特別編(下) 芸事(2)

2009年11月10日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景

      特別編
(下)芸事(2)

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也
   その他   ・・丘本先生、生徒達、父兄達

8.小学校 教室 昼
   黒板前。台本を持ち、学芸会の練習をする生徒達。その中に正也もいる。指導する丘本先生。
  N「学芸会が間近に迫っていた。僕はこの中で、演目である浦島太郎に出演が決まっていたのだ。主役の太郎なら文句なくいいのだ
    が、生憎(あいにく)、僕は亀の役だった」

9.台所 夕方
   食卓テーブルの椅子に座ってテレビを観る恭之介と正也。なにやら話している。
  恭之介「先生に抜擢されたとは、大したものだ…」
  正也  「だって、じいちゃん、僕は亀だよ。嫌だなあ…」
  恭之介「おいおい、そうガックリするな、正也。準主役なんだからな、亀は…」
  正也  「そうか…」
  恭之介「ああ…」
   N   「じいちゃんは慰めのような、そうでもないような云い回しで僕を和らげた」

10.学校 講堂 昼
   学芸会。多くの父兄と生徒達が観客で劇を観る。演じる正也達。演目は浦島太郎。時折り客席から湧き起こる拍手と笑い声。ハリ
   ボテの甲羅を背負い、帽子風に作られた役絵キャップを被り懸命に演じる正也。観客の中にいて、声援を送る恭一と未知子。
  N   「僕の学校は明治時代に建てられた建造物で、県の指定文化財にもなっている立派な建物なのだが、その講堂で学芸会は行
       われた」

11.湧水家 遠景 夜
   秋の田舎っぽい夜景。薄闇に見える電気の灯り。虫の鳴く声。

12.台所 夜
   食卓を囲む家族四人。夕食中。和気あいあいと会話が弾む。笑い声。
  N   「兎に角、僕の亀役は無事終わったのだが、まあ、概してこんな程度で、そう大した話ではない。総じて、家族を芸事で語るな
       ら、抜きん出て、といった技量のプロ芸を熟(こな)す者はいない…と結論づけられる」

13.(フラッシュ) 馬場 昼
   手綱を握り、馬を走らせる凛々しい姿の恭之介。その雄姿を柵外から見守る正也。晴れ渡った青空。
  N   「あっ、忘れるところだった。じいちゃんには隠された、もう一つの芸事があった。馬術である。じいちゃんは、僕がもう少し大きく
       なったら教えてやると云った」

14.居間 夜
   蒼白く煌々と照らす中秋の名月。庭前の渡り廊下の小机。小机の上に飾られた三方の月見団子と花瓶に活けられたススキ。虫達
   の集き鳴く声。月の光に照らされ輝き光る恭之介の頭。月と恭之介の頭を比較して見遣る正也。
  N   「秋の虫達が賑やかに秋を唄っている。実に上手い。じいちゃんは蛸頭を照からせている。実に素晴らしい」

15.居間 夜
   渡り廊下で月を見ながら下手なハーモニカを奏でる恭一。
  N   「父さんはハーモニカを奏でている。実に拙(つたな)い」

16.(フラッシュ) 
居間 夕方
   ススキを花瓶に生ける未知子。見守る正也。
  N   「母さんはススキを花瓶に生けて飾る。実に見事だ。孰(いず)れにしろ、我が家の連中は少し素養がある程度のもので、まず
       マスコミに騒がれるような事態はないだろう。・・傍に置かれた三方(さんぼう)のお団子。この秋、もう一度ぐらいは食べられ
       るだろうか…。こんな下劣な計算をしている僕は実に、さもしい。もう少し高尚な存在になりたい…とは思っている」
   F.O
   タイトル「秋の風景 特別編(下) 芸事 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景 特別編(下) 芸事」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第七回

2009年11月10日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第七回
 終い湯の浴槽に浸かりながら、左馬介はあれやこれやと方策を練っていた。そこへ、鴨下が入ってきた。風呂は檜(ひのき)の箱風呂で、一馬の話によれば、何でも樋口静山の父である樋半太夫の寄付によるものだという。半太夫は葛西及び近隣のを含む百十余戸の代官で、大層な権勢を誇っていた。静山も次なければ、恐らくは家督を継いで悠々自適の生活を送ってい
に違いなかった。
「すみません…。少し遅れました」
 鴨下は頭を軽く下げながらそう云うと、左馬介が浸かる浴槽の横へと身を沈めた。浴槽は、一度に四、五人が浸かれる広さがあ
った。
「少しは、慣れましたか?」
 左馬介は、横で浴槽に浸かって目を閉じる鴨下へ、それとなく
声を掛けた。
「はあ、まあ…」
 瞼を開けると、鴨下は手拭いを両手で絞り、頭上へと乗せた。
「そうですか。そりゃ、よかった…。ところで、鴨下さんの在は、ど
ちらなんですか?」
「私ですか? …この葛西の隣村の今池(いまのいけ)です」


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