水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 冬の風景(第四話) 生体リズム

2009年11月14日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      冬の風景
      
(第四話)生体リズム

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也
   その他    ・・猫のタマ、犬のポチ

1.湧水家の庭 朝
   タイトルバック
   居間から庭の足継ぎ石へと下りる、ジャージ姿の恭一。ガラス戸の隙間から外へ飛び出すポチ。恭之介と正也の前で、
ワン! と元
   気に、ひと声吠え、
尻尾を振るポチ。
寒そ
うに震える恭一。寒稽古を終え
た上半身裸の恭之介と正也。汗を流し、
湯気が立つ二人の
   身体。
   テーマ音楽
   タイトル「冬の風景(第四話) 生体リズム」
   キャスト、スタッフなど
  恭一  「ふぅーっ! 寒い寒いっ!」
  N   「たまの長休みで父さんが五月蠅く吠える。冬は誰だって寒いんだから、せめて一家
の長はデン! と構えていて欲しいぐらい
       のものだ」
  恭之介「お、お前は…(恭一を見遣り、呆れて、それ以上、ものを云えず、口を閉ざし)」
   恭一を無視し、洗い場の湧き水で身体を拭く恭之介。居間へ引っ込む恭一。続いて、足継ぎ
石から居間へと上がり、家の中へ入る正
   也。
  N   「生体リズムの個人差を一人一人、分析すると、父さんは崩れやすく、じいちゃんは年
からすればかなり頑丈だ。母さんと僕は
       ほぼ安定、云わば普通である。父さんは剣
道でもして、安定させる努力をした方がいいかも知れない」

2.台所 朝
   食卓テーブルを囲む家族四人。勢いよく食べる恭之介と正也。細々と食べる恭一。普通に
食べる未知子。恭之介と正也が並び、対面
   には恭一と未知子が並んで椅子に座る(恭之介の対
面に恭一、正也の対面に未知子)
。御飯を食べる恭之介達。ただ一人、トーストを
   齧る恭一。片隅で餌を食べるタマ。食べ終え、ニャ~と、ひと声、鳴くタマ。
  N  「運動の後だから当然、ご飯も美味しく二膳は優に食す。じいちゃんは最低、三膳だ。父
さんはと云うと、からっきしで、半膳かトー
      スト一枚が関の山だ。今朝も食欲が今一だと
かで、パンを齧っている情けない駄目親父なのである(◎に続けて読む)」

3.(フラッシュ) 庭 朝
   寒稽古をする上半身裸の恭一。横に正也。二人に対峙する態で指導する恭之介。竹刀を振
る三人。
  N   「(◎)その父さんも、いつだったか一度、じいちゃんの寒稽古に加わったことがある。
まあ、結果は云う迄もなく玉砕で、三日坊
       主の三日も持たず、二日で音をあげた(△
に続けて読む)」

4.(フラッシュ)
 寝室 朝
   ベッドで氷枕を頭に置き、臥せる恭一。赤ら顔。心配そうに体温計を見る未知子。
  N   「(△)しかも翌日には高熱を発し、会社を休むという体たらくで、これには流石の母さ
んも呆れ果てたという過去がある」

5.もとの台所 朝
   食事を済ませた三人。席を立つ未知子。棚から使い捨てカイロを取り出し、恭一へ手渡す。
  未知子「あなた、これ…」
  恭一  「ああ…、すまないな(受け取りながら)」
   茶を啜りながら新聞に目を通して寛ぐ恭一。恭之介は、離れへと席を立つ。安堵感が漂う恭
一。正也も席を立つ。
  恭之介「フン! 嘆かわしい奴だ。武士など、とても勤まるまい…」 
   呟きながら台所を出る恭之介。その後ろを弟子のように従う正也。恭之介の頭を見上げる正
也。
  N   「じいちゃんの頭は光沢を増し、窓ガラスから射し込む陽光を一身ではなく一頭に受け
て輝かせている。エコが叫ばれる昨今、
       僕はじいちゃんの余熱を父さんに回す有効利
用の方法はないものかと、真剣に考えている。じいちゃんの熱気と父さんの冷え
       症が
相殺されれば幸いだ」
   F.O
   タイトル「冬の風景(第四話) 生体リズム 終」

 ※ 短編小説の脚色です。小説は、「冬の風景(第四話) 生体リズム」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第十一回

2009年11月14日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第十一回
というのも、左馬介は酒宴というものを未だに知らなかったからある。千鳥屋の一件では、幸いにも道場の留守居を命じられ、慎処分とはならなかったが、酒宴には出ず終いであった。振りれば、人生で初めての経験だ…と、左馬介は思えるのであ
った。
 三日が経ち、道場閉めの日がやってきた。この日は梅見で代所へ招かれる日でもあった。この三日の間、実のところ左馬介は心を乱していた。しかし、三日経った今は、なるがままよ…と、気分も、ふっ切れている。そうなれば人は強くなるもので、この三日間、心を乱していたのが嘘のようで、左馬介は、何も恐れるもの
がない心境だった。
「おいっ、行くぞっ!」
 この日は朝稽古がないから、汗を流すこともなく、全員、すんなりと朝餉を食べ終え、自室で寛(くつろ)いでいた。 井上が、まるで稽古を始めるような真剣な眼差しで皆の小部屋を巡り、出発
を告げた。
 二列縦隊で一同が代官所の招いた梅林へ向かったのは下刻であった。天候は幸い、雨の降る気配などはなく、寒くて辛い…と思えるほどの外気ではなかった。第一、底冷えを起こす冬名残りの風がない。


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