水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景 特別編(上) スーパーじいちゃん(1)

2009年11月07日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      特別編
(上)スーパーじいちゃん(1)

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也
1.台所 昼
   タイトルバック
   食卓テーブルの椅子に座りテレビの競馬を観戦している恭一。恭一の隣で仕方なくテレビ観戦に
付き合わされている格好の正也。
   
熱の入る恭一。つまらなく観る正也。風呂から上がり、蛸頭に湯気を立てて現れた恭之介。
  恭之介「おっ! 秋の天皇賞だな…」
   食卓テーブルの椅子に、どっかり座る恭之介。   
  N   「父さんは日曜なので、テレビで競馬中継を見ている。そこへ、じいちゃんが風呂場から蛸頭
に湯気を立てて現れ、ひと言、そ
       う云った」
   やや緊張し、恭之介に備える恭一。少し襟を正して観続ける恭一。テレビの競馬を実況中継するア
ナウンサーの声。
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景」特別編(上) スーパーじいちゃん」
   キャスト、スタッフなど
  恭之介「恭一は買わん割りには、結構、当てるな」
  恭一  「ははは…、そう云いますが、私は馬のことは少し五月蠅いですよ(笑顔で)」
   少し見栄を張った顔で恭之介を眺める恭一。
  恭之介「馬鹿を云え。お前のは、ただの馬通(つう)だ。儂(わし)の如く、馬の何たるかが全く分かっとらん!」
  N   「いつもの落雷である。父さんは、笑顔を引っ込め、真顔になった」
  恭之介「だいたい、馬のことを語るのは百年早いっ! 飼い葉やり、寝床作り、馬糞や身の世話、体
調管理…そんなことをしている者
       の云うことだっ!」
  N   「じいちゃんは次第に、お冠(かんむり)である」
  恭一  「はい…、すみません」
  恭之介「まあ、二人とも儂の話を聞くんだ…」
   神妙になる恭一と正也。
  N「こうなっては、万事休す…である。最低、小一時間は覚悟せねばならない」
   馬のことを諄々(くどくど)と語り始める恭之介。意気消沈して話を聞く二人。
   O.L

2.台所 夕方前 
   O.L
   意気消沈して話を聞く二人。未知子が台所へ現れ、夕飯の準備を始める。少し話し声を小さくする
恭之介。
  未知子「正也! 早く入ってしまいなさいっ!」
   風呂の催促をする道子。一瞬、喜色満面になる正也。
  恭之介「…まっ! 今日は、これ迄にしよう。続きは、またな…。正也、風呂だっ」
   喜び勇んで椅子を立つ正也。
  N   「この場合の僕は軽く腰を上げた。重い腰を上げることは、よくあるだろうが、軽く腰を上げたの
は、この場合の僕ぐらいだろう」 

3.風呂場 内
   浴槽へ気持ちよさそうに浸かる正也。

4.台所 夕方
   風呂場から台所へ入る正也。入れ違いに、食卓椅子を立つ恭之介。
  N   「風呂から上がると、外はもう暮れ泥(なず)んでいた。秋の陽は釣瓶落とし…とは、よく云ったものだ」

5.庭 夕方
   庭に下り、落ち葉を掻き始める恭之介。恭之介の頭に停まる一匹の赤蜻蛉。気づかず、見事な熊手の捌きで掃き続ける恭之介。夕
   日に映え、輝く頭。その頭に停まる一匹の赤蜻蛉。

                                    (明日へ続く)


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第四回

2009年11月07日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第四回
 鴨下が大広間で挨拶した折り、自分のことを粗忽者だと云ったこ
とも、強(あなが)ち謙(へりくだ)ってのこととも思えぬ節があった。
 鴨下の稽古は、やはり左馬介の時と同じで、日々が板間での正座であった。左馬介は足が痺れた自らの経験を想い出し、誰もがそうなのだ…と得心した。板間で座布団なしの正座は確かに、きつい。左馬介は何とか耐え忍んだが、三十路の鴨下には流石に辛いのか、四半時も経つと、片足を崩したりして動きだした。それを
目敏(ざと)く見ていた井上が、
「ははは…。鴨下、それまでか?」
 と、笑って云い放った。鴨下は、ばつが悪いのか、思わず首筋
に手をやって掻いた。
「胡座(あぐら)でもいいぞ。よ~く観ておけよ」
 井上はそう云うと、また全員の稽古を見回し始めた。一馬は相も変わらず、長谷川と左馬介の両者と対峙して稽古をする日々が続いていた。だがそれも、鴨下が組稽古を許される日が来れば解消されるのだ。そう思えば、きつい、という感覚も失せた。一方、左馬介は? といえば、鴨下へ心を砕いた日々が返って剣筋の迷いを忘れさせ、本来、持ち合わせた剣筋へと戻しつつあった。一馬は左馬介の太刀を受け、そのことを肌で感じた。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする