≪脚色≫
秋の風景
特別編(上)スーパーじいちゃん(1)
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
1.台所 昼
タイトルバック
食卓テーブルの椅子に座りテレビの競馬を観戦している恭一。恭一の隣で仕方なくテレビ観戦に付き合わされている格好の正也。
熱の入る恭一。つまらなく観る正也。風呂から上がり、蛸頭に湯気を立てて現れた恭之介。
恭之介「おっ! 秋の天皇賞だな…」
食卓テーブルの椅子に、どっかり座る恭之介。
N 「父さんは日曜なので、テレビで競馬中継を見ている。そこへ、じいちゃんが風呂場から蛸頭に湯気を立てて現れ、ひと言、そ
う云った」
やや緊張し、恭之介に備える恭一。少し襟を正して観続ける恭一。テレビの競馬を実況中継するアナウンサーの声。
テーマ音楽
タイトル「秋の風景」特別編(上) スーパーじいちゃん」
キャスト、スタッフなど
恭之介「恭一は買わん割りには、結構、当てるな」
恭一 「ははは…、そう云いますが、私は馬のことは少し五月蠅いですよ(笑顔で)」
少し見栄を張った顔で恭之介を眺める恭一。
恭之介「馬鹿を云え。お前のは、ただの馬通(つう)だ。儂(わし)の如く、馬の何たるかが全く分かっとらん!」
N 「いつもの落雷である。父さんは、笑顔を引っ込め、真顔になった」
恭之介「だいたい、馬のことを語るのは百年早いっ! 飼い葉やり、寝床作り、馬糞や身の世話、体調管理…そんなことをしている者
の云うことだっ!」
N 「じいちゃんは次第に、お冠(かんむり)である」
恭一 「はい…、すみません」
恭之介「まあ、二人とも儂の話を聞くんだ…」
神妙になる恭一と正也。
N「こうなっては、万事休す…である。最低、小一時間は覚悟せねばならない」
馬のことを諄々(くどくど)と語り始める恭之介。意気消沈して話を聞く二人。
O.L
2.台所 夕方前
O.L
意気消沈して話を聞く二人。未知子が台所へ現れ、夕飯の準備を始める。少し話し声を小さくする恭之介。
未知子「正也! 早く入ってしまいなさいっ!」
風呂の催促をする道子。一瞬、喜色満面になる正也。
恭之介「…まっ! 今日は、これ迄にしよう。続きは、またな…。正也、風呂だっ」
喜び勇んで椅子を立つ正也。
N 「この場合の僕は軽く腰を上げた。重い腰を上げることは、よくあるだろうが、軽く腰を上げたのは、この場合の僕ぐらいだろう」
3.風呂場 内
浴槽へ気持ちよさそうに浸かる正也。
4.台所 夕方
風呂場から台所へ入る正也。入れ違いに、食卓椅子を立つ恭之介。
N 「風呂から上がると、外はもう暮れ泥(なず)んでいた。秋の陽は釣瓶落とし…とは、よく云ったものだ」
5.庭 夕方
庭に下り、落ち葉を掻き始める恭之介。恭之介の頭に停まる一匹の赤蜻蛉。気づかず、見事な熊手の捌きで掃き続ける恭之介。夕
日に映え、輝く頭。その頭に停まる一匹の赤蜻蛉。
(明日へ続く)