水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第十話) マフラーの夢

2009年11月06日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      
(第十話)マフラーの夢

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也
   その他   ・・マフラーの精

1.奥の間 夜
   タイトルバック
   箪笥を開けてマフラーを探す道子。台所のテーブルから声だけ出す正也。
  [正也]「もういいよ! 古いのがあるから…(大声で)」
   言葉を聞かなかった態で、必死に箪笥の中を探す未知子。
  未知子「確か…このタンスへ入れたんだけど…」
  N   「僕がゴネているのには、明確な理由がある。実は明日、巻いて出ようと思っていたお気に入
りのマフラーが見つからないの
       だ」
  未知子「ほんと、どこへ入れたのかしら…。嫌になっちゃうわ、もう!(少し、ヤケっぽい口調で)」
  N   「宝探しでもあるまいし、ところ構わずイジれば出てくるというものではないだろうとは思うのだ
が、稼ぎのない居候の身では返
       す言葉もなく、好きにして戴くしか、手立てはない」
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第十話) マフラーの夢」
   キャスト、スタッフなど
   奥の間へ部屋へ入ってくる恭一。
  恭一  「…なんだ、探しものか?(未知子を見下ろして)」
  未知子「ええ…、ちょっと(座って、手だけを小まめに動かしながら)」

2.台所 夜
   正也がテーブル椅子に座ってテレビを観ている。離れから現れる恭之介。
  恭之介「なんだ? 飯はまだか…。正也、未知子さんはどうした?」
  正也  「ん? 探しもの…」
  恭之介「探しもの、とな? …よく分からんが、飯より大事なものらしいな」
  N   「僕は敢えて答えなかった。武士に対して、『僕のマフラーを…』などとは、とても尋常に語れた
ものではない。まず、そんなこと
       はないとは思うが、茹で蛸に変身した武士に包丁でスッパリ
斬られては、元も子もなくなる」
   暫くして、諦めたのか、うなだれて台所へ入る道子。夕飯準備の続きにかかる未知子。

3.家の外景 夜
   湧水家の全景(外景)。射す月光に照らされる田舎っぽい家周りの景観。

4.台所 夜
   ワイワイと語りながら食卓を囲む四人。
  N   「その日の夕飯はいつもより雑然とはしたが、それでも平穏に終わった」

5.(夢の中) 正也の部屋
   マフラーの精が正也に話しかけている。布団に寝たまま、目を開けて話を聞く正也。
  N   「その晩、僕はマフラーの夢を見た。夢の中へ探していたマフラーが現れたのだ」
  [マフラー] 『私は、ドコソコに、おりますから…』
   頷く正也。布団で目を閉じる正也。
   O.L

6.正也の部屋 朝
   O.L
   布団で目を開ける正也。目を擦り目覚ましを見る正也。小鳥の囀り。窓から射し込む朝日。起きる
と、着替えずに、そのまま台所へ向
   かう正也。

7.台所 朝
   炊事場で朝食準備をする未知子。台所へ入る正也。夢の話を道子に告げる正也。ドコソコへ小走り
する道子。
  N   「朝、目覚めた僕は、朝食の準備をしている母さんに、そのことを云った。母さんは、ドコソコへ
小走りした」
   暫くして、出てきたマフラーを手にし、得心して台所へ戻る未知子。マフラーを笑顔で正也に手渡す未知子
。受け取る正也。

8.台所 朝
   朝の食事風景。テーブルを囲む四人。食べながら賑やかに語り合う四人。
  N   「この一件は我が家で物議を醸し出し、一週間に渡り、この話題で持ち切りとなった。今思え
ば、僕の記憶のどこかにマフラーを
       収納する母さんの映像が残っており、単に夢となって現
れたのだ…と思える(◎に続けて読む)」

9.玄関 朝
   出勤する恭一。見送る未知子。慌ただしく走って玄関へ出てくる通学する正也。窘める未知子。靴を履
き、玄関を飛び出す正也。
  N   「(◎)また、そう思わないと、秋が更けていくというのに夏場の怪談めいて寒くなる(△に続けて
読む)」

10.離れ 朝
   畑着に着替える恭之介。部屋に飾られた刀掛けの二振りの刀。剣道師範免許の額。警察表彰の
額。
  N   「(△)まあ、じいちゃんの神々しい頭だけは、夢ではなく、紛れもない事実なのだが…」
   F.O
   タイトル「秋の風景(第十話) マフラーの夢 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第十話) マフラーの夢をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第三回

2009年11月06日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第三回
 毛嫌いするという性質のものではなく、近づけないのだから不都合この上ない。日々の賄いは否応なしにめぐってくるのだ。一馬が
厨房から姿を消したのだから、全てが左馬介の肩に掛かっていた。
「私に付いて手伝って戴ければいいのです。最初は私の動きを見
ていて下さい」
 初めて厨房に立った鴨下へ、左馬介は恐る恐る声を掛けた。
「分かり申した…」
 昨日、訪(おとな)ったうらぶれた風貌は一変し、風呂で小ざっぱりとした鴨下が、低く響く声で答えた。その声には、どこか二の句を継げない威圧感がある。吐息の白さも薄まり、あれほど冷たかっ
た水が少し温み始めた感のする早朝であった。
 鴨下は案に相違して飲み込みが早かった。左馬介の所作や云い伝えたことは全て記憶していて、同じことを二度行う必要もなければ、云う必要もなかった。半月もしないうちに、大よその賄いの要領は覚えてしまい、左馬介をすっかり安心させた。それにも増して鴨下という男が割合と話し易い男だったことが、左馬介の心を開放させた。鴨下の話を聞くにつけ、どうも剣術の方は余り凄腕とも思えない。少なからず、早とちりの感は否めないのであった。


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