水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第六話) 静と動

2009年11月02日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      
(第六話)静と動

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

1.山の遠景 夕方
   タイトルバック
   山影に姿を没しつつある夕日と周囲のオレンジ色の空。山へ帰るカラス達の飛ぶ姿。カラスの鳴き声。畦道に立ち、山影に没っする
   夕
日を見つめる正也。
  N   「九月を過ぎた頃から、日増しに日没が早くなったように思う」
      テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第六話) 静と動」
   キャスト、スタッフなど

2.居間 夜
   ハイボールを片手にサラミを齧り、小説を読み耽っている恭一。
  N   「秋の夜長は凛と空気が澄んで読書には快適だ。僕はそう、本を読む方ではないが、父さんは結構、静の読書派である。いち
       ゃんは正反対の動で、もっぱら剣道と畑作りを人生の生業(なりわい)としているから、本などは一冊も読まない」

3.離れ 夜
   障子を開け恭之介の広間へ入る正也。正座姿で刀に打ち粉をする着物姿の恭之介。部屋に掛かった剣道師範免許、銃砲刀剣類登
   録証、警察暑長表彰状等の額。蛍光灯が明々と照らす稽古場仕立
ての部屋。
  N   「今夜は、じいちゃんの離れへ用もなく行ったのが運の尽きで、延々と長い講話に付き合わされる破目となってしまった」
  恭之介「おう、正也か…(打ち粉の手を止め)。父さん、まだ本、読んでたか?」
  正也  「うん…(畳に座って)」
  恭之介「そうか…。頭でっかちなどは、この世では無用の長物だ。人間は、実践あるのみ! 結果がものを云い、ものを生み、ものを救う
       んだぞ、正也。よ~く覚えておきなさい。まあ、頭脳労働は頭でっかちとは、また違うがな。兎も角、試行錯誤…ちょいと難し
       いか。要は、まず動いてやってみて、失敗するのはいいんだ」
  正也  「うん!(可愛く)」
  恭之介「まあ、恭一がそうだ、という訳じゃないが…」
   母屋から離れへと入り、部屋の障子を少し開ける未知子。
  未知子「お義父さま、テーブルに置いときましたから…(隙間より部屋中を垣間見て)」
  恭之介「あっ、未知子さん。今夜も、すまないですねえ…(障子を見ながら)」
  未知子「正也、早く寝なさいよ」
  正也  「うん…」
   障子を静かに閉める未知子。打ち粉を続ける恭之介。じっと見守る正也。
  N   「じいちゃんの晩酌は、いつも熱燗が二本の日本(二本)男児だ。父さんの洋酒党を小馬鹿にしている節もある。その実、ビール
       に限っては、いいらしい」
  恭之介「正也、もういい…。早く寝なさい」
  正也  「うん!(可愛く)」
   立って部屋を出る正也。障子を閉め母屋へ向かう正也。母屋へ入り、洗面所へ向かう正也。
  N   「母さんの助け舟があったお蔭で、僕はじいちゃんから解放されることになった」

4.洗面所 夜
   歯を磨く正也。遠目に見える台所で日本酒の晩酌をする恭之介の赤みを帯びた頭。テレビの落語に興じる恭之介の笑う顔。遠目に
   見える居間で洋酒を片手に本を読む、青みを帯びた恭一の真剣な顔。
  N   「動で笑うじいちゃんの頭は、熱燗二本で赤みを帯びるという特性を有している特別天然記念物なのである。片や静の、青みを
       帯びた父さんの真剣な顔には目立った特長らしいものはない。そして…(◎に繋げて読む)」
   家事を終え、ほっとしながら肩を片手で叩く未知子。
  未知子「…(無言の疲れ声)」
   正也がいる洗面所を通過して風呂場へ向かう未知子。
  N   「(◎)母さんは? というと、家事を終えたらしく、動で疲れ果てて漸く風呂に入り、僕達三人から解放されたところだ」
   遠目に見える、本を読み続ける恭一。部屋へ戻る正也。
  N   「僕は三人の付き合いに疲れきったので、もう寝ようと思っている」
   F.O
   タイトル「秋の風景(第六話) 静と動 終」


※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第六話) 静と動」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第二十六回

2009年11月02日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第二十六回
名前からして面白く、後日、門弟達の多くから、“鴨葱”と呼ばれる羽目になるこの男が来訪したことを、神代以外の門人は誰も知
らない。
 神代が玄関の衝立(ついたて)の後ろで眠っていると、「頼もう!!」と大声が響き、一人の無精髭を生やした見るからに、みすぼらしい男が入ってきた。外っ面(つら)からして豪快な
風貌のその男に、さすがの神代も一瞬、怯(ひる)んだが、
「おお
…、これはお待たせ申した…」
 と、すぐさま勢いを盛り返して応じ
た。
「お初にお目にかかりまする。某(それがし)、鴨下葱八と申す者
でござる。以後、お見知りおかれよ」
「これは御丁重に…。身共(みども)は神代伊織と申す門人の一人でござる。こ、此度(こたび)は案内(あない)役を仰せ付かって
ござる故、これより一通り、場内をご案内つかまつる…」
 神代は慣れぬ言葉遣いに呂律(ろれつ)が回らず、咬みなが
ら鴨下を見下ろして告げた。
「お世話になります…」
 言葉遣いを和らげた鴨下が軽く頭を下げると、神代は、「さあ、どうぞ上へ…」と、黒漆(くろうるし)で光る敷居を指さした。


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