≪脚色≫
冬の風景
特別編(下) 禍福は糾(あざな)える縄(1)
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
その他 ・・叔母、従兄弟
5.(フラッシュ) 勉強部屋 夕方
従兄弟とフィギュアを手に遊ぶ正也と従兄弟。和気あいあいの語らい。上がる二人の笑声。
N 「(◇)同伴の従兄弟と楽しく遊べる時間も出来たりして、今年の冬休みは、例年より好調に推移していくように思われた」
6.(回想) 台所 昼
食卓テーブルで入れ歯を外し、いじくる恭之介。不機嫌な顔。隣から様子を窺う正也。
正也 「じいちゃん、どうしたの?」
恭之介「ん? いや、どうもありゃせん…(不機嫌に)」
正也 「…」
N 「ところが、である。叔母や従兄弟が一泊して慌しく帰った後、また悪いことが派生しようとしていた。入れ歯の不具合により、じ
いちゃんのテンションが低いのに加えて(△に続けて読む)」
7.(回想) 夫婦部屋 昼
ベッド上。氷枕を頭に乗せて寝込んでいる恭一。傍らに未知子が体温計を手に立つ。
N 「(△)今度は父さんが流行りのインフルエンザでダウンしたのである。幸い、休日診療所なるものがあって事無きを得たのだ
が、ふたたび散々な、お正月へと逆戻りしてしまった」
体温計の温度を見る未知子。
未知子「もう、大丈夫! 微熱に下がったわ」
恭一 「…そうかぁ?(薄眼を開け、疑い口調で)」
8.居間 昼
賀状と一通の封書を手に立つ未知子。
N 「今年の冬休みは結局、ローテンションで終わるのか…と、僕が諦(あきら)めた矢先である」
未知子「あらっ? お義父さま宛だわ。…何かしら?」
怪訝な表情で封を切る未知子。某会社からの旅行招待券、案内状、パンフレット。読み終えた後、喜色満面になる未知子。未知子の
嬌声。驚いて駆け寄る恭之介。充分に話せない口で、フガフガと未知子へ何やら語りながら喜びを露にする恭之介。
N 「じいちゃんが応募したクイズが当選し、五泊六日の海外旅行に二名様を、という豪華な通知のパンフレットが同封されていた。
父さんも、風邪でベッドに横たわりながら、その報に接し、元気を取り戻したようだった」
9.離れ 夜
稽古用広間で居合いの形(かた)を示す恭之介。その様子を見守る正也。
N 「しかし、また、ひとつの問題が生じた 二名…、さて誰が行くんだ? ということである。僕は一計を案じることにした」
正也 「父さんと母さん、旅行したことって余りないし…。じいちゃん、どう思う?」
恭之介「フガ? フガフガ…。フガガ、フガフガフガ」
N 「解説すれば、じいちゃんは抜け歯語で、『ん? そうだな…。わしは、どうでもいい』と云ったのだ」
10.台所 朝
朝食風景。和気あいあいの家族四人。
N 「その努力の結果は、すぐに現れた。冬休みも残り僅かになった頃、僕の家の食事風景は、ふたたび活況を呈しだしたのであ
る。じいちゃんだけは、相変わらずフガフガとテンショが低いけれど、それでも、入れ歯を歯医者へ持ってった結果、すぐ修理
できるそうで、以前よりは明朗さを取り戻しつつあった。よく考えれば、“禍福は糾(あざな)える縄のごとし”…で終始した冬
休みだった。まあ、“終り良ければ、全て良し”とも云うから、父さんと母さんが海外旅行できるようになった、という素晴らしい
結果などを踏まえて、良し!! ということにしたい」
11.エンド・ロール
冬の湧水家の畑。湧水家の全景。
テーマ音楽
キャスト、スタッフなど
F.O
タイトル「冬の風景 特別編(下) 禍福は糾(あざな)える縄 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「冬の風景 特別編(下) 禍福は糾(あざな)える縄」 をお読み下さい。