≪創作シナリオ≫
「見つめていたい」より
1.車の中(運転席)・夕方[現在]
車を走らせる男。
N「知り合いの結婚式に出席した妻を迎えに、近くの駅まで車を走らせた」
前方に駅のロータリー。改札口が視界に入る。車を停車させる男。降り出した雨。ワイパーを始動し、ぼんやり改札口を見つめる男。窓ガラス
から見た駅の風景。
O.L
2.車の中(運転席)・夕方[11年前]・回想
O.L
窓ガラスから見た駅の風景。T 「11年前」。降る雨。空虚に動くワイパ-。ぼんやり改札口を見つめる男。
N「そういえばボクが二十二歳のときだ。今日と同じように、ひとりの女性を待ちわびた時間がある。あの日も雨で、こうして車の中から
改札口を眺めていた(※へ続けて読む)」
列車が駅に入る。ホームに降り立つ乗客。車窓から女を注視して探す男。
N「(※)あの時は、大好きな彼女に、ボクの誕生日を一緒に祝って欲しいと誘ったのだ。彼女は、ちょっと迷った素振りだったが結局OK
をもらい、その日は朝からウキウキ三昧で、雨も街灯に照らされて銀色に輝いていた」
改札口から散らばって降り立つ多くの客。次第に疎らとなる客。
男「……いない…(寂しく)」
意識を集中させ、女を探す男。
フラッシュ(到着する列車、改札口を出る客。到着する列車。改札口を出る客。……)
N「結局、降り立った乗降客の中に、彼女の姿はなかった」
車の中で、じっと、改札口を見つめる男。
N「それから十五分おきに列車は到着したが、どの列車からも彼女が降りることはなかった」
車の中で、じっと、改札口を見つめる男。車のシートを倒し、暗い車中でポカンと口を開けている男。空虚なワイパーの音。フロントガラスを濡ら
す雨。
O.L
3.車の中(運転席)・夕方[現在]
O.L
空虚なワイパーの音。フロントガラスを濡らす雨。
N「雨足は強くなり、なんの望みもなく時間が流れていた」
傘をさし、突然、早足で車へ近づく女(バタバタと)。ドアを開ける11年後の老けた女(妻)。
妻「ゴメン、遅くなっちゃった…(息を切らして)」
男「いいんだ、メグちゃん! 予約したレストランも、まだ間に合うから…(昔に想いを馳せ)」
唐突に、シートから身を起こす男。
N「ボクは、弾んだ声で身を起こした」
助手席を見る男。結婚式の引き出物を持ち、訝しげな表情で助手席に座っている妻。
男(M)「十一年か。フフフ…、メグちゃんも玉手箱、開けたなっ(ニヤッと笑い)」
小さく咳払いする妻。カーラジオを入れ、とぼけ顔で車を発進する男。流れる曲 S.E(男にとって懐かしい曲)。音楽を聴きながら運転
し、過去へ想いを馳せる男。男を横目に見て、訝しげな表情の妻。微笑を浮かべ、家路を急ぐ男。流れる外景。
完
※ 坂本博氏 「徒然雑記」内記事より脚色