水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 「見つめていたい」

2009年11月26日 00時00分01秒 | #小説

≪創作シナリオ≫

    「見つめていたい」より

1.車の中(運転席)・夕方[現在]
   車を走らせる男。
  N「知り合いの結婚式に出席した妻を迎えに、近くの駅まで車を走らせた」
   前方に駅のロータリー。改札口が視界に入る。車を停車させる男。降り出した雨。ワイパーを始動
し、ぼんやり改札口を見つめる男。窓ガラス
   
から見た駅の風景。
   O.L

2.車の中(運転席)・夕方[11年前]・回想
   O.L
   窓ガラスから見た駅の風景。T 「11年前」。降る雨。空虚に動くワイパ-。ぼんやり改札口を見つめる男。
  N「そういえばボクが二十二歳のときだ今日と同じように、ひとりの女性を待ちわびた時間がある。あの日も雨で、こうして車の中から
    
札口を眺めていた(※へ続けて読む)」
   列車が駅に入る。ホームに降り立つ乗客。車窓から女を注視して探す男。
  N
「(※)あの時は、大好きな彼女に、ボクの誕生日を一緒に祝って欲しいと誘ったのだ。彼女は、ちょっと迷った素振りだったが結局OK
   
をもらい、その日は朝からウキウキ三昧で、雨も街灯に照らされて銀色に輝いていた
   改札口から散らばって降り立つ多くの客。次第に疎らとなる客。
  男「……いない…(寂しく)」
   意識を集中させ、女を探す男。
   フラッシュ(到着する列車、改札口を出る客。到着する列車。改札口を出る客。……)
  N「結局、降り立った乗降客の中に、彼女の姿はなかった」

   車の中で、じっと、改札口を見つめる男。
  N「それから十五分おきに列車は到着したが、どの列車からも彼女が降りることはなかった」
   車の中で、じっと、改札口を見つめる男。車のシートを倒し、暗い車中でポカンと口を開けている
男。空虚なワイパーの音。フロントガラスを濡ら
   す雨。
   O.L

3.車の中(運転席)・夕方[現在]
   O.L
   空虚なワイパーの音。フロントガラスを濡らす雨。
  N「雨足は強くなり、なんの望みもなく時間が流れていた」
   傘をさし、突然、早足で車へ近づく女(バタバタと)。ドアを開ける11年後の老けた女(妻)。
  妻「ゴメン、遅くなっちゃった…(息を切らして)」
  男「いいんだ、メグちゃん! 予約したレストランも、まだ間に合うから…(昔に想いを馳せ)」
   唐突に、シートから身を起こす男。
  N「ボクは、弾んだ声で身を起こした」
   
助手席を見る男。結婚式の引き出物を持ち、訝しげな表情で助手席に座っている妻。
  男(M)「十一年か。フフフ…、メグちゃんも玉手箱、開けたなっ(ニヤッと笑い)」
    小さく咳払いする妻。カーラジオを入れ、とぼけ顔で車を発進する男。流れる曲 S.E(男にとって懐かし
い曲)。音楽を聴きながら運転
   
し、過去へ想いを馳せる男。男を横目に見て、訝しげな表情の妻。微笑を浮かべ、家路を急ぐ男。流れる外景。
                                       完
                                     
             ※ 坂本博氏 「徒然雑記」内記事より脚色


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十三回

2009年11月26日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十三回
 これには、井上を筆頭に門弟達も度肝を抜かれた。剣筋の方は今一だが、人は何か、取り柄(え)があるもんだ…と、左馬介は思った。しかし、今日の酒宴のことを、あれこれ考え巡っていてはいけない…とも思えた。左馬介には、堀川道場で一際(ひときわ)、秀でた剣筋を工夫するという大命題があったのである。たった一日のことながら、酒宴に己が身を置いたことの不埒(ふらち)さが許せない無垢(むく)な左馬介なのである。だが、その不埒さは、左馬介の一存では如何ようにもならない道場の決め事なのだから、憤懣(ふんまん)遣る
瀬ない、その捌(は)け口は、どこにもなかった。
 翌朝、やはり心の蟠(わだかま)りからか、早く目覚めた左馬介は、そのまま隠れ稽古をすることにした。辺りは早暁というには如何にも早過ぎる暗黒の闇で、寅の下刻ぐらいである。無論、左馬介にはその時分であろう…という程度の感性での認識しかない。時を知る術(すべ)は寺で撞(つ)かれる鐘だが、生憎(あいにく)、葛西の円広寺の住職が体調を崩し、臥せっていた。その為、鐘の撞き手がなく、鳴らない日々が続いていたのである。因みに、堂所でこの話が出ると、皆は、『寺へ医者が通うとは皮肉な話よ…』と、食べながら笑い合った。━ 新しい剣筋 ━ と云えばひと言だが、そう容易(たやす)くみ出せないのが剣の道の厳しさである。


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