水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第七話) 秋霖[しゅうりん]

2009年11月03日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      
(第七話)秋霖[しゅうりん]

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

.小学校の教室 昼
   タイトルバック
   雨空。陰鬱にシトシト降る雨。給食中。窓際に座り、給食を食べながら降る雨を眺める正也。
  N   「雨が陰鬱にシトシト降っている。昨日は清々(すがすが)しい快晴で、学校の遠足がある日だったので助かったし、充分に満喫
       させて戴いて本当によかった。万一、今日だったらと思うと、
ぞっとする」
   運動場にシトシトと降る雨。
   テーマ音楽
   タイトル「秋の風景(第七話) 秋霖[しゅうりん]」
   キャスト、スタッフなど

2.細い道路 昼
   下校途中の正也、雨傘をさして、トボトボと歩く。シトシトと陰鬱に降る雨。

3.家の玄関・外 昼
   帰ってきた正也、傘を閉じる。戸を開け玄関内へ入る正也。

4.家の玄関・内 昼
   靴を脱ぎ、框(かまち)へ上がる正也。靴を揃える正也。

5.勉強部屋 夕方
   机前の椅子に座り、宿題をする正也。机上でノートに鉛筆を走らせる正也。ふと、頭を上げる正也。外の様子を見ようと、窓を開ける
   正也。止みそうにない、庭に降る
陰鬱な雨。

  N   「帰っても、雨はいっこう止む気配を見せず、ただ降り続いていた」
   
机を立ち、部屋を出る正也、居間へ向かう。

6.居間 夕方
   居間の渡り廊下から庭を眺める恭一。やってくる正也。
  正也  「父さん、今日は早いね」
  恭一  「ん? ああ・・。会社の接待が早く終わってな」
  正也  「ふ~ん、そうなんだ…」
  恭一  「よく降るなあ。まあ、今の雨は梅雨と違ってモノが黴(かび)ないからいいが…(誰に話すでな
く)」
  正也  「ほんと、よく降るね…」
  N   「大人なんだから、もう少し子供を唸らせることを云えよ…とは思うが、一家の長である以上、
そんなことは口が裂けても云えな
       
い」
   バタバタと通り過ぎる未知子。ただ雨を眺める恭一と正也。
  未知子「洗濯ものが乾かないから困るわ…」
  N   「母さんも、この秋霖にはお手上げのようだ。主婦泣かせの雨、それが秋霖か…と、思った」  

7.台所 夜
   夕食中。家族四人がテーブルを囲む。テレビの天気予報官が秋霖を説明している。
  恭之介「間引き菜のオヒタシは美味いですねえ…(未知子へ語りかけるように)」
  未知子「はいっ」
  恭一  「父さんの、お手間入りですから…」
  恭之介「当たり前だ。秋霖の時期は、すぐ苗が大きくなる。それに雨降りは何故か畑へ行き辛い…(予
定外の者の言葉に嫌々、答える
       ように)」
   沈黙して、箸を動かす恭一。
  未知子「でも地面が濡れて土埃(つちぼこり)が家の中へ入りませんし、掃除は助かりますわ、お父さ
ま」
  恭之介「はあ、それはまあ、そうでしょうな…」
   静かになる食卓。テレビの声。
  N   「僕は最初、どっちだっていいやと思っていた。ところが、よ~く考えれば外で遊べないから、や
はり青空が広がる爽快な晴れの
       日がいい、という想いに至った次第である。晴れの日だと、じい
ちゃんの頭が光沢を増すという特典も加味される楽しみもある
       から、そろそろ秋霖は御免蒙
りたい」
   F.O
   タイトル「秋の風景(第七話) 秋霖[しゅうりん] 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「秋の風景(第七話) 秋霖[しゅうりん]」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《修行③》第二十七回

2009年11月03日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《修行③》第二十七回
 鴨下は雪の中を藁沓(わらぐつ)履きで来ていた。先ず、雪を被った笠を頭から外し、そして体を纏った蓑を取る。次いで鴨下は敷居に座ると、沓を脱いで上がった。既に神代は廊下を歩き出している。
慌てた鴨下も、その後を追って歩き出した。
 左馬介が無精髭の鴨下を見たのは、神代が堂所へと抜けるため、稽古場の廊下を横切ったときであった。当然、その後方には鴨下が付き従っていたから、この時、うらぶれた姿の鴨下を左馬
介は初めて見たのである。
 井上によって鴨下が紹介されたのは翌日の大広間だが、事前に井上から左馬介と一馬へひと声かかったのは朝稽古が終わった直後であった。堂所へ入ろうとする二人に、「一馬は、晴れて昼餉から賄い番を放免だ、よかったな。…左馬介は、新入りを上手く仕込んでやって貰いたい。詳しくは明日、云う」と、井上は賑やかに笑いながら放った。一馬は、やれやれと胸を撫で下ろせば事は足りるが、左馬介は、そうはいかない。如何に新入りを仕込むか…、その辺りが難しい。今度は一馬がそうであったように、自分が賄頭(がしら)の身になるのだから、責任というものが自ずと生まれつあった。これからは剣筋の向上と新入りの指導という二束の
鞋(わらじ)を履くことになるのだ。左馬介は心を引き締めた。

                                                     修行③ 完


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