≪脚色≫
冬の風景
(第十話)みんなの癖
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
その他 ・・猫のタマ、犬のポチ
1.居間 昼
タイトルバック
片隅に置かれた注連飾り、ウラジロ、半紙などの神棚等から下げられた正月もの。それを新聞紙で包み、括る正也。居間へ入って正
也に気づく恭一。チラッと見て、長椅子に座る恭一。
恭一 「今度こそ、終りか…」
N 「じいちゃんが外した注連飾りが部屋の片隅に置かれている。僕はそれを神社へ持っていこうと新聞紙に包み、紐で括りつけて
いたところだった。そこへ、父さんが通り掛かったという塩梅だ。じいちゃんは幸いにも離れへ行って不在だったから、思わず口
から漏れたひと言のように思えた」
テーマ音楽
タイトル「冬の風景(第十話) みんなの癖」
キャスト、スタッフなど
居間へ入る正也。長椅子に座っている恭一。
正也 「それじゃ、これから持ってってくる…」
恭一 「ああ…(新聞を読みながら)」
正月ものを持って部屋を出る正也。
N 「僕は父さんとは違い、主体性と責任感を今後も維持したいから、すぐ家を出た」
2.渡り廊下 昼
廊下へ出た正也。離れからやってきた恭之介。二人が鉢合わせ。
恭之介「おっ、正也。持っていくのか?」
正也 「うん!」
3.玄関 内 昼
玄関の框(かまち)を下り、靴を履く恭之介と正也。ポチが、犬小屋の中から顔だけ出し、クゥ~ン・・と鳴く。
4.玄関 外 昼
玄関を出て歩きだす二人。
恭之介「よしっ、一緒に行くか。…いやな、儂(わし)も左義長の飾り付けを神主さんに頼まれたんだ…」
正也 「ふ~ん、そうなんだ…。父さんは左義長で見たことがないね」
恭之介「ああ…恭一なあ。あいつは行事には無頓着だ。そのくせ、宴会などはその逆だがな…。お蔭で、儂が正也に、いつも云ってる
安定したヒラだ、ははは…(大笑いしながら)」
細道を歩き、鎮守の森へと近づく二人。鳥居が見える。
N 「確かに、じいちゃんが云うように、父さんの安定感は抜群で、他者の追随を許さない」
鳥居前に来る二人。正面に見える神社の拝殿。
F.O
5.玄関 内 朝
F.I
戸を開けて入る正也。T 「次の日の朝」。ポチが、犬小屋の中から顔だけ出し、クゥ~ンと鳴く。
正也 「ただいまっ!」
靴を脱ぎ、小まめに整え、框(かまち)を上がる正也。
6.居間 朝
恭之介と未知子が談笑している。恭一は黙って新聞を読んでいる。居間へ入る正也。
N 「左義長も終って家へ帰ると、じいちゃんが頭を撫で回しながら母さんと談笑していた。毛のない頭を撫で回すのは、じいちゃん
の癖だ」
恭之介「未知子さんは相変わらず綺麗で、結構結構。恭一は幸せ者です…」
未知子「あらっ、お父さま、嫌ですわ・・(笑って)」
二人の会話を聞かなかった態で、台所へ反転して歩く正也。
N 「母さんの癖は? と考えれば、そう目立った癖はない。強いて挙げれば、父さんや、じいちゃんと話す時、『…ですわ』みたい
に、少しお上品に語るところだろうか」
7.台所 朝
冷蔵庫からジュースを出し、コップへと注ぐ正也。グビッと、ひと口、飲む。タマも、ペロペロと水を飲む。
N 「『さて、どんじりにぃ控(ひけ)えしはぁ~~』と、じいちゃんに聞いた白浪五人男の口上のように僕の癖を云うなら、こうして家族
のことを観察眼をもって記録し、更にはそれを、皆様方に延々と語るという、何とも嘆かわしいところだろう。だが、語る大方は
事実であり、温かな我が家の一コマなのでお許し戴きたいと思う」
F.O
タイトル「冬の風景(第十話) みんなの癖 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「冬の風景(第十話) みんなの癖」 をお読み下さい。