水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 秋の風景(第九話) 独演会

2009年11月05日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      秋の風景
      
(第九話)独演会

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

1.台所 夜
   タイトルバック
   食卓テーブルの椅子に座っている恭之介。徐(おもむろ)に、卓上のリモコンを手にする。
   タイトル「秋の風景(第九話) 独演会」
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど  
  N   「秋と云えば、何といっても芸術だろう。じいちゃんが芸術を堪能するのはテレビだ。今夜も台
所のテレビのリモコンボタンを押し
       た」
   晩酌の準備をする未知子。風呂を上がって台所の冷蔵庫へ近づく正也。
   未知子「明日はPTAの役員会なの。…正也、後は頼んだわね」
   正也 「うん…」
   部屋へと消える未知子。冷蔵庫へ近づく正也。
  恭之介「最近は、なんか風情のある番組が減ったなあ…。クイズと云やぁ~賞金、サスペンスと云やぁ
殺人。それに報道と云やぁ~知
       る必要もない暗い、悪い、陰気なニュースだ。いったい、汗水
流す人間のためになってんのかっ?! うぅぅ…、まだあるぞ!」
  N   「誰も話す相手がいないのに、じいちゃんは独りごちて怒っている。風呂上がりだったので、い
つもの楽しみにしているジュース
       を取りに、僕は冷蔵庫へと近づいた。今思えば、これがい
けなかった」
   正也が冷蔵庫を開ける音。気づく恭之介。  
  恭之介「おっ、正也。まあ、ここへ座りなさい」
   声にビクッ! とし、ジュ-スをコップに注いだ後、渋々、テ-ブルに近づく正也。椅子に座る正也。
  N   「僕は光る頭の蛸蜘蛛の糸に引っ掛かり、哀れにも長話を聞かされる破目に陥ってしまった
のである」
   正也を相手に語り出し、独演会を始める恭之介。
  恭之介「どう思う?」
  正也  「…ん? どおって?」
  恭之介「儂(わし)の小言(こごと)、聞こえてなかったか?」
  正也  「まあ、一応は…」
   正也をマイクに見立て、突然、凄い剣幕で語り出す恭之介。聞き上手になる正也。
  恭之介「正也はどうか知らんが、どうも最近のテレビは面白くない!!」
  正也  「そんなこと、僕に云ったって…(迷惑顔で)」
   滾々(こんこん)と話す恭之介。相槌を打つ正也。二人の姿。
   O.L
   二人の姿。滾々と話す恭之介。聞き疲れた正也。
  N   「滾々と湧き出る洗い場の水のように二十分は優に聞かされ、その夜の僕はジュースで寛ぐ
どころか、じいちゃんで疲れ果て
       た。しかし、捨てる神ありゃ拾う神あり…とは、よく云ったもの
だ。そこへ、神では毛頭ないが…」
   終い湯に入り、風呂掃除を終えた恭一が、やれやれという顔で台所へ入ってくる。その恭一に気づ
く恭之介。
  恭之介「おっ、恭一。いいところへ来た。まあ、座って聞け」
  恭一  「えっ? 何をです? 風呂番で疲れまして…、ビールで一杯やろうと思ってたんですが。・・父
さんも、どうです?」
  恭之介「…、それは、まあな…」
   沈黙する恭之介。テレビを見ながら隣りの席で二人の様子を窺う正也。
  N   「流石は父さんだ…と、僕は思った。逃げの壺を心得ている」
   三分の一ほどジュースが残ったコップを持ち、スゥ~っと静かに立つ正也。消えるように忍び足で台
所から去る正也。

2.湧水家 外 夜
   煌々と家を照らす蒼白い月。流れる薄雲。

3.台所 夜
   ビールを飲み、すっかり出来上がっている恭之介。少し、ほろ酔い加減で迷惑顔の恭一。ふたたび、
空コップを持ち洗い場へ入る正
   也。コップを洗いながら二人の様子に耳を欹てる正也。呂律が回ら
ない態で恭一に話す恭之介。迷惑顔で相槌を入れる恭一。いつ
   の間にか増えているビール瓶
の本数。

  N   「僕が台所へ戻ると、じいちゃんは相変わらずテレビ番組をネタに愚痴りながら、独演会を続
けていた」
  恭之介「△◎$&・・△√%…だ。…●▽なっ!(呂律が回らず)」
  恭一  「「ええ…」
  恭之介「分か…●▽◆□、…なっ!(呂律が回らず)」
  恭一  「はい…」
   憂さを晴らすようにコップを干し、ビールを注ぐ恭一。
  N   「安定したヒラの父さん、役員の母さん、孤高を持するじいちゃん、出来のいい僕…。各人各様
に、平和な家庭の秋の夜長が更
       けていく」
   F.O
   タイトル「秋の風景(第九話) 独演会 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、秋の風景(第九話) 独演会をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二回

2009年11月05日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二回
 皆は、名を呼ばれるごとに鴨下へ目線を送り、軽く頭を下げて礼を示した。当然、鴨下も、その各々に頭を下げる。鴨下と同じ仕草をしていた嘗(かつ)ての自分を、左馬介は、ふと想い出した。それ
が今は上座へ座っているのだ。
「拙者、鴨下葱八と申す粗忽者でござる。以後、宜しくお願い致し
する」
 鴨下は井上が一通りの紹介を云い終えると、そう口にして挨拶
し、ふたたび平伏した。
「今日のところは敬語遣いでござるが、明日からは御免蒙る故、前もって了承のほどを…。新入りの者には、いろいろと雑事が多く、
そこに控えます秋月に何かと訊かれるよう…」
 井上は左馬介を指さすと、そう告げた。左馬介は一瞬、ギクリと
したが、鴨下に軽く腰を折って黙礼した。
 こうして新弟子、鴨下を従えての日々が始まったのだが、左馬介には一つ不都合なことがあった。それは鴨下が一馬とは違い、三十の齢(よわい)を重ねているということだった。漸く十五を過ぎたばかりの左馬介にすれば、優に倍ほども年上なのである。四、五齢違いの一馬とは異なり、どうも話し辛い上に近づき難い面もあった。


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