水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 冬の風景(第五話) 食べもの

2009年11月15日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      冬の風景
      
(第五話)食べもの

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]
   N      ・・湧水正也
   その他    ・・猫のタマ


1.台所 夜
   タイトルバック
   夕食前。食卓テーブルのいつもの定位置に座る三人(恭之介の横に正也、恭之介の対面に恭一)。賑やかな音がテレビから流れる。
   炊事場とテーブルを往復して料理などを運ぶ道子。置かれた皿、鉢、茶碗を並べて手伝う正也。片隅で正月用の餌を食べるタマ。
  N   「僕は年に似合わず里芋の煮っころがしが好きだ。それに加え、じいちゃんには悪いが、茹(ゆだ)った蛸のスライスを酢醤油で戴
       く…、というこの二つに尽きる。勿論、食べものには好き嫌いがない僕だから何だって食べるが、まあ、この二点である。あっ!
       それに銀鯥(むつ)の味噌漬け焼きも捨て難いって云うか、僕にとっては法外で髄一のご馳走だ」
   ワイワイと賑やかな音がテレビから流れる。新聞を読む恭一。テレビを観る恭之介。手伝う正也。タマが、『お先…』とばかりにニャ~
   と鳴き、食べ終えて、どこかへ姿を消す。
   テーマ音楽
   タイトル「冬の風景(第五話) 食べもの」
   キャスト、スタッフなど
  N   「今年の正月も恒例のお節(せち)料理が食卓を賑わせた。毎年、母さんが重労働に汗して家族のために調理してくれるのだか
       ら、感謝して賞味せねばならないだろう。とか云いつつ、食べる段になると味わうことのみに気が走り、その感謝の念を忘れが
       ちな僕なのだが…」
   新聞を読み終え、テーブル上を見る恭一。
  恭一  「そろそろ、お節も飽きてきたなあ…(道子を見て)」
  恭之介「馬鹿者っ!! 世界には食いもんがない人々も多くいるんだっ! そういう罰(ばち)当たりを云うんじゃないっ!」
   シュンとして、固まる恭一。二人の様子を窺う正也。
  N   「じいちゃんの食卓での落雷は珍しい」
  恭一  「…すみません、そうでした」
   頭を下げ、殊勝な態度で謝る恭一。
  恭之介「ん? …いや、儂(わし)も少し興奮したかな。ハハハ…(誤魔化すように笑って)」
   食卓テーブルの恭一の横(正也の対面)へ座る未知子。
   フゥ~っと、ひとつ溜息を吐く未知子。いつの間に戻ったのか、タマが床に腰を下ろして尻尾を振り、ニャ~と鳴く。
  未知子「さあ、夕飯にしましょ…」
   おあずけのOKが出たかのように、形だけ手を合わせると、食べ始める三人。遅れて食べ始める未知子。
  恭之介「武士は食わねど高楊枝…とは云うが、昔の武士は食らう事より武道を尊んだそうだ…(思い出したように箸を止め)」
  恭一  「食べものが無かった時代に、その精神ですからね。昔の人は大したもんだ…」
  恭之介「そうそう。今は食いものがあり過ぎて捨てたりする御時世だからなあ…」
  恭一  「はい…。幸せな日本だけに余計、残念です」
  恭之介「その通りだ。今日の恭一は偉く物分かりがいいなあ。まるで別人だぞ」
  恭一  「いやあ、そうでもないんですが…」
   謙遜しつつ、褒められたのが、まんざらでもない様子の恭一。二人を見遣る正也。
  正也  「酢蛸は、もうなかった?」
  未知子「昨日、全部、食べたでしょ」
  N   「僕は、ついうっかりして、昨日、最後の残りの四切れを食べ尽くしたことを忘れていた。出来のいい僕にしては失態である」
  恭之介「里芋の残りが、あったぞ」
   賑やかに笑いつつ下段のお重を指さす恭之介。顔が緩む正也。しみじみと恭之介を見る正也。
  N   「じいちゃんは僕の好物だということを知っていて残してくれていたのだ。」蛍光灯に照らされた笑顔は、正に茹った蛸で、その姿
       からは、とても剣道の師範だとは想起出来ない。馬鹿げたことを話しているうちに、今年の冬休みも、とうとう残り少なくなってき
      
た」
   F.O
   タイトル「冬の風景(第五話) 食べもの 終」

 ※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「冬の風景(第五話) 食べもの」をお読み下さい。 


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第十二回

2009年11月15日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第十二回
暖かい…と迄は云えないが、苦になる寒さではなかった。この程度ならば、酒の勢いで丁度、頃合いの外気になりそうだ。左馬介は最後尾を鴨下と並んで歩きながら、そう思った。草鞋も、この朝は幾
らか軽かった。
 代官所の副収入にもなっている梅林は、堀川道場と葛西代官所の丁度、半ばに位置した。梅林までの距離は、どちらも約一里だから、道場と代官所とは大よそ二里ばかり離れている計算になる。梅林が代官所の副収入になるというのは、花が散った後になる梅の実によるもので、大粒の葛西梅は結構な値(あたい)で取り引きされたからである。無論、代官所の収は幕府の収入になるのだが、近郷百十余戸を含む直轄地の理費等にも回されていた。当然ながら、堀川道場へ下賜(かし)される金も、その
中に含まれた。
 一里といえば誰の耳にも、かなりの距離…と聞こえるが、日々、鍛錬を重ねる堀川の連中が早足で歩けば、そう大した距離ではなかった。皆、物見遊山の気分で、ゆったり歩いているつもりなのだが、何故か足の方が勝手に動いていた。先頭を切る井上と久々に見る蟹谷の姿が不意に止まったのは、梅林まで十町ばかり手前だった。


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