水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 冬の風景(第二話) 氷結

2009年11月12日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      冬の風景
      
(第二話)氷結

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]  
   N      ・・湧水正也

1.湧水家の外景 早朝
   タイトルバック
   屋根の残雪。朝日が家を照らす。
  N   「冬の風物詩といえぱ、僕達の田舎では軒から垂れ下がる氷柱(つらら)だ。叩いて遊んだり、キャンデーよろしく齧ったりする楽
       しみがある」

2.洗い場 早朝
   玄関軒(のき)に垂れ下がった氷柱。恭之介と正也が上半身裸で身体を拭く。身体を吹きながら軒を眺める正也。恭之介も気づいて
   軒を眺める。
  恭之介「昨日の晩は冷えたからなあ…」
  N   「じいちゃんは夜冷えが厳しかったことを強調する。水が凍って氷柱になる訳だ。自然の壮大さには、唯々、脱帽するのみであ
       る。勿論、光り輝くじいちゃんの頭は、その比ではないのだが…」
   テーマ音楽
   タイトル「冬の風景」(第二話) 氷結」
   キャスト、スタッフなど
   軒の氷柱。朝日に融けてポタポタと落ちる雫。
  N   「科学を紐解けば、水は流れ動くが氷は動かない。恰(あたか)も時間が閉ざされたかのようである」  

3.台所 朝
   朝食後。食べ終わった後、食卓テーブルの椅子に座り、口へ楊枝を運ぶ恭之介。隣に座る正也。対面に座る恭一と未知子。
  恭之介「一昨年(おととし)の正月は入れ歯で難儀したから、今のうちに歯医者で調整しておくか…」
  正也  「じいちゃん、それがいいよ(可愛く)」
  N   「じいちゃんが、早くも正月の食い気に想いを馳せている。これも、よ~く考えれば、過去の失敗が氷結した記憶として残っている
       のである」

4.奥の間 夕方
   背広を脱ぎながら未知子に話す恭一。
  恭一  「今朝は危なかったよ。うっかりして、道で滑るとこだった…」
   背広を受け取り、ハンガーに掛ける未知子。
  未知子「そう…、注意してね。冬は凍るから…」

5.台所 夜
   食卓テーブルの椅子に座る正也。テレビを観ながら二人の会話を聞く正也。
  N   「母さんは、云うほど心配していないように僕には思えた」
   突然、現れる恭之介。椅子には座らず、立ち止まったままの恭之介。
  恭之介「お前の滑り癖は小さい頃から治らん。大学も三浪だったしなあ…(奥の間を見遣って)」
   禿げ頭を撫で回しながら、ふたたび歩きだす恭之介。恭之介を見遣る椅子に座った正也。
  N   「こりゃ、まずいな…と、僕は思ったが、じいちゃんは追撃を敢行せず、光る頭に手をやると、撫でながら消えた。母さんがいて、ばつが悪かった、ということもある」
   台所の入口に掛かった額(がく)を、一瞬、立ち止まって見上げる恭之介。恭之介を見遣る椅子に座った正也。

6.C.I 台所の額 夜
   額に書かれた ━ 極 上 老 麺 ━ の墨字。

7.台所 夜
   ふたたび歩き出し、立ち去る恭之介。恭之介を見遣る椅子に座った正也。
  N   「通りすがり僕の前で、ふと見上げたのは、じいちゃんが大事にしている額縁である。その額縁は、氷結していつも僕達家族を
       見下ろしているのだ。何故、額装せねばならない程の重要物なのか僕には分からない。これは、アインシュタインでも分から
       ない謎だと思う」
   F.O
   タイトル「冬の風景(第二話) 氷結 終」

 ※ 短編小説の脚色です。小説は、「冬の風景(第二話) 氷結」をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第九回

2009年11月12日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第九回
 剣の腕は微妙で、優れているとも、その逆とも云い難い鴨下だが、こうした先見の明はあった。それは誰もが認めるようになるのだが、
今は傍(かたわ)らにいる左馬介にすら分からなかった。
 梅が綻(ほころ)びる早春が巡った。鴨下も漸く道場暮らしに慣れ、左馬介は幾らか肩の荷が軽くなっていた。当然、その分の気苦労は自分の剣筋の極めへと回せた。暫くは鴨下に気を削がれていたが、それも無用となっていた。忘れていた他を抜き出る新技も編
み出せそうだ…と、前途の夢も膨らんでいた。
 去年は未だ入門していなかった左馬介だが、道場の梅見や桜見の宴席の末端に連なることになった。そんな行事があることも知らなかった左馬介であったが、初めての宴ということでは鴨下と全く同じ立場なのである。本来、宴席などは、道場主の幻妙斎が一言の下に却下するほど忌み嫌う催し事なのだが、一馬の言によれば、どうも道場への出資者である代官所の樋口半太夫の招きで、恒例となっているらしい。出資は道場の運営に係わることだから、幻妙斎も無碍(むげ)には出来ず、渋々ながら認めて続いてきた節があった。無論、幻妙斎は顔を出さず、代行として師範代が招かれた門弟の先頭を切って皆を連れて行く…と、いつか一馬は左馬介に話したことがあった。


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