≪脚色≫
冬の風景
(第二話)氷結
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
1.湧水家の外景 早朝
タイトルバック
屋根の残雪。朝日が家を照らす。
N 「冬の風物詩といえぱ、僕達の田舎では軒から垂れ下がる氷柱(つらら)だ。叩いて遊んだり、キャンデーよろしく齧ったりする楽
しみがある」
2.洗い場 早朝
玄関軒(のき)に垂れ下がった氷柱。恭之介と正也が上半身裸で身体を拭く。身体を吹きながら軒を眺める正也。恭之介も気づいて
軒を眺める。
恭之介「昨日の晩は冷えたからなあ…」
N 「じいちゃんは夜冷えが厳しかったことを強調する。水が凍って氷柱になる訳だ。自然の壮大さには、唯々、脱帽するのみであ
る。勿論、光り輝くじいちゃんの頭は、その比ではないのだが…」
テーマ音楽
タイトル「冬の風景」(第二話) 氷結」
キャスト、スタッフなど
軒の氷柱。朝日に融けてポタポタと落ちる雫。
N 「科学を紐解けば、水は流れ動くが氷は動かない。恰(あたか)も時間が閉ざされたかのようである」
3.台所 朝
朝食後。食べ終わった後、食卓テーブルの椅子に座り、口へ楊枝を運ぶ恭之介。隣に座る正也。対面に座る恭一と未知子。
恭之介「一昨年(おととし)の正月は入れ歯で難儀したから、今のうちに歯医者で調整しておくか…」
正也 「じいちゃん、それがいいよ(可愛く)」
N 「じいちゃんが、早くも正月の食い気に想いを馳せている。これも、よ~く考えれば、過去の失敗が氷結した記憶として残っている
のである」
4.奥の間 夕方
背広を脱ぎながら未知子に話す恭一。
恭一 「今朝は危なかったよ。うっかりして、道で滑るとこだった…」
背広を受け取り、ハンガーに掛ける未知子。
未知子「そう…、注意してね。冬は凍るから…」
5.台所 夜
食卓テーブルの椅子に座る正也。テレビを観ながら二人の会話を聞く正也。
N 「母さんは、云うほど心配していないように僕には思えた」
突然、現れる恭之介。椅子には座らず、立ち止まったままの恭之介。
恭之介「お前の滑り癖は小さい頃から治らん。大学も三浪だったしなあ…(奥の間を見遣って)」
禿げ頭を撫で回しながら、ふたたび歩きだす恭之介。恭之介を見遣る椅子に座った正也。
N 「こりゃ、まずいな…と、僕は思ったが、じいちゃんは追撃を敢行せず、光る頭に手をやると、撫でながら消えた。母さんがいて、ばつが悪かった、ということもある」
台所の入口に掛かった額(がく)を、一瞬、立ち止まって見上げる恭之介。恭之介を見遣る椅子に座った正也。
6.C.I 台所の額 夜
額に書かれた ━ 極 上 老 麺 ━ の墨字。
7.台所 夜
ふたたび歩き出し、立ち去る恭之介。恭之介を見遣る椅子に座った正也。
N 「通りすがり僕の前で、ふと見上げたのは、じいちゃんが大事にしている額縁である。その額縁は、氷結していつも僕達家族を
見下ろしているのだ。何故、額装せねばならない程の重要物なのか僕には分からない。これは、アインシュタインでも分から
ない謎だと思う」
F.O
タイトル「冬の風景(第二話) 氷結 終」
※ 短編小説の脚色です。小説は、「冬の風景(第二話) 氷結」をお読み下さい。