≪脚色≫
冬の風景
(第六話)電気炬燵[ごたつ]
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
1.湧水家の外景 朝
タイトルバック
灰色の空。小雪が混じる寒い朝。
テーマ音楽
タイトル「冬の風景(第六話) 電気炬燵」
キャスト、スタッフなど
2.茶の間 朝
朝食後。長椅子に座り、思案顔の恭一。傍に座る正也。俄かに立ち上がり、バタバタと何やら探し始める恭一。渡り廊下のガラス戸
越しに見える小雪が舞う庭。恭之介がする寒稽古の声。
恭一 「ふぅ~、クーラーだけでは寒いな。おーいっ! 電気炬燵は物置だったなー?! (台所の方を見て、やや大きめの声で)」
台所の炊事場から声だけ返す未知子。
[未知子]「はーい! 確かその筈です!(やや大きめの声で)」
恭一 「分かったぁ!」
物置へ向かう恭一。付き従う正也。
N 「そろそろ寒くなってきたということで、父さんは物置から電気炬燵を出して茶の間へ据え付けようとした。ところが、ここで大事
件が勃発した。…と、云えば、お宅の家で何か起こるのは父親がいる時だけだな、と思われる方々も多いと思うので、父さんの
名誉のために云っておきたい。大事件とは、僕が多少、オーバーに云ってることで、そう大した事柄ではない」
3.物置 外 朝
入口の戸を開け、中へ入る恭一。付き従って入る正也。恭之介が庭でする寒稽古の大きな声。
4.物置 内 朝
雑多な収納品が格納された内部。恭之介が庭でする寒稽古の小さな声。炬燵を探す恭一。見守る正也。
恭一 「よしっ! あった、あった。正也、そこのコードだけ持ってってくれ」
云われるまま黙ってコードを手にし、物置を出る正也。
5.茶の間 朝
電気炬燵の配置を一通り終える恭一。コンセントへ繋いでスイッチを入れる恭一。点灯しない赤外線ランプ。
恭一 「…こりゃ、ヒューズが切れたかぁ?」
恐る恐る裏返し、凝視する恭一。ヒューズが切れた電気炬燵の裏。溜め息をつき物入れから修理工具と予備の温度ヒューズを取り
出す恭一。悪戦苦闘し、やっと取り替える恭一。ただ見ている正也。
恭一 「よーしっ! これでOKだっ!」
ニコッと笑ってスイッチを入れる恭一。瞬間、また曇る恭一の顔。点灯しない赤外線ランプ。
恭一 「…妙だなぁ~。これ以上は無理だしなぁ…」
首を捻りつつ、ブツブツと云う恭一。暫く炬燵と睨み合う恭一。茶の間を出る恭一。そのまま長椅子に座る正也。置かれた新聞を読み
始める正也。
6.台所 朝
恭一 「ちょっと、電気屋へ行ってくる…」
未知子「こんなに早く、開いてる」
恭一 「あそこは朝早いし、開けてくれるんだ」
未知子「そう…。でも、もう、ご飯ですよ!」
恭一 「…」
無言で玄関へ向かう恭一。恭之介の寒稽古の声が止まる。台所に掛けられた ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
O.L
7.台所 朝
O.L 台所に掛けられた ━ 極 上 老 麺 ━ の額。電気パーツを手にして、喜び勇んで戻ってきた恭一。さっぱりした着物姿
で食卓テーブルの椅子へ座る恭之介。台所に入り、恭之介の横へ座る正也。鴨居の上に掛けられた ━ 極 上 老 麺 ━ の額。
恭之介「おい、どうした? 恭一」
恭一 「いや、どうも故障のようでして、替えを…(手に持った電気炬燵のパーツを指さし)」
恭之介「フン! 儂(わし)みたいに寒稽古をしてりゃ、そんなもんは、全くいらんのだ! 情 けない…。なあ、正也」
正也 「…」
N 「日曜だというのに寒い中、仕方なく準備して、その結果、修理に至り、更には買い替えの為に外出する破目となり、父さんはサ
ッパリなのだ。そこへ輪をかけて、光沢を放つ蛸頭の小言(こごと)である。我が家としては小事件だったが、父さんにとっては
散々な一日となってしまった。だが、世界各地では悲惨な戦闘による犠牲者が、未だ絶えない昨今だから、今日の炬燵の一
件は、大事件とは云わず、茶飯事として喜ばねば罰(ばち)が当たるだろう」
F.O
タイトル「冬の風景(第六話) 電気炬燵 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「冬の風景(第六話)電気炬燵」 をお読み下さい。