水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

シナリオ 冬の風景(第六話) 電気炬燵[ごたつ]

2009年11月16日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      冬の風景
      
(第六話)電気炬燵[ごたつ]

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也

1.湧水家の外景 朝
   タイトルバック
   灰色の空。小雪が混じる寒い朝。
   テーマ音楽
   タイトル「冬の風景(第六話) 電気炬燵」
   キャスト、スタッフなど


2.茶の間 朝
   朝食後。長椅子に座り、思案顔の恭一。傍に座る正也。俄かに立ち上がり、バタバタと何やら探し始める恭一。渡り廊下のガラス戸
   越しに見える小雪が舞う庭。恭之介がする寒稽古
の声。
  恭一  「ふぅ~、クーラーだけでは寒いな。おーいっ! 電気炬燵は物置だったなー?!
(台所の方を見て、やや大きめの声で)」
   台所の炊事場から声だけ返す未知子。
  [未知子]「はーい! 確かその筈です!(やや大きめの声で)」 
  恭一  「分かったぁ!」
   物置へ向かう恭一。付き従う正也。
  N   「そろそろ寒くなってきたということで、父さんは物置から電気炬燵を出して茶の間へ据
え付けようとした。ところが、ここで大事
       件が勃発した。…と、云えば、お宅の家で何か
起こるのは父親がいる時だけだな、と思われる方々も多いと思うので、父さんの
       
名誉のために云っておきたい。大事件とは、僕が多少、オーバーに云ってることで、そう大した事柄ではない」

3.物置 外 朝
   入口の戸を開け、中へ入る恭一。付き従って入る正也。恭之介が庭でする寒稽古の大きな
声。

4.物置 内 朝
   雑多な収納品が格納された内部。恭之介が庭でする寒稽古の小さな声。炬燵を探す恭
一。見守る正也。
  恭一  「よしっ! あった、あった。正也、そこのコードだけ持ってってくれ」
   云われるまま黙ってコードを手にし、物置を出る正也。

5.茶の間 朝
   電気炬燵の配置を一通り終える恭一。コンセントへ繋いでスイッチを入れる恭一。点灯しない赤外線ランプ。
  恭一  「…こりゃ、ヒューズが切れたかぁ?」
   恐る恐る裏返し、凝視する恭一。ヒューズが切れた電気炬燵の裏。溜め息をつき物入れから修理工具と予備の温度ヒューズを取り
   出す恭一。悪戦苦闘し、やっと取り替える恭一。た
だ見ている正也。
  恭一  「よーしっ! これでOKだっ!」
   ニコッと笑ってスイッチを入れる恭一。瞬間、また曇る恭一の顔。点灯しない赤外線ランプ。
  恭一  「…妙だなぁ~。これ以上は無理だしなぁ…」
   首を捻りつつ、ブツブツと云う恭一。暫く炬燵と睨み合う恭一。茶の間を出る恭一。そのまま
長椅子に座る正也。置かれた新聞を読み
   始める正也。

6.台所 朝
  恭一  「ちょっと、電気屋へ行ってくる…」
  未知子「こんなに早く、開いてる」
  恭一  「あそこは朝早いし、開けてくれるんだ」
  未知子「そう…。でも、もう、ご飯ですよ!」
  恭一  「…」
   無言で玄関へ向かう恭一。恭之介の寒稽古の声が止まる。台所に掛けられた ━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   O.L

7.台所 朝
   O.L   台所に掛けられた ━ 極 上 老 麺 ━
の額。電気パーツを手にして、喜び勇んで戻ってきた恭一。さっぱりした着物姿
   で食卓テーブルの椅子へ座る恭之介。台所に入
り、恭之介の横へ座る正也。鴨居の上に掛けられた ━ 極 上 老 麺 ━ の額。
  恭之介「おい、どうした? 恭一」
  恭一  「いや、どうも故障のようでして、替えを…(手に持った電気炬燵のパーツを指さし)」
  恭之介「フン! 儂(わし)みたいに寒稽古をしてりゃ、そんなもんは、全くいらんのだ! 情 けな
い…。なあ、正也」
  正也  「…」
  N   「日曜だというのに寒い中、仕方なく準備して、その結果、修理に至り、更には買い替
えの為に外出する破目となり、父さんはサ
       ッパリなのだ。そこへ輪をかけて、光沢を
放つ蛸頭の小言(こごと)である。我が家としては小事件だったが、父さんにとっては
       
散々な一日となってしまった。だが、世界各地では悲惨な戦闘による犠牲者が、未だ絶えない昨今だから、今日の炬燵の一
       件は、大事件とは云わず、茶飯事として喜ば
ねば罰(ばち)が当たるだろう」
   F.O
   タイトル「冬の風景(第六話) 電気炬燵 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「冬の風景(第六話)電気炬燵」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第十三回

2009年11月16日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第十三回
最後尾を進む初参加の左馬介には、梅林の位置そのものが分か
らない。隊列が止まったので、もう着いたのか? と、安直に思った。
「ん? …梅林は未だ十町先なんだけどな」
 前の一馬が怪訝な表情で、そう云った。左馬介もその言葉で事の
異変を察知した。
 堀川道場と梅林、その梅林と代官所を繋(つな)ぐ一本の道は、俗鬼灯(ほおずき)街道と呼ばれる細道である。この街道は物集(もずめ)街道と同様に溝切宿から葛西宿へ通じるもう一本の街道だった。ただ、この街道は、街道と呼ぶには余りにも物騒で、時折り追剥(おいは)ぎが跋扈(ばっこ)する危険極まりない道であった。追剥ぎに殺された霊を鎮める鬼灯を誰とは無しに手向けたことが切っ掛けで、いつの間にか俗に鬼灯街道と地の者は呼ぶようになっていた。それ故、街道などと呼べぬ一本の細い林道だというのが
実のところだった。
 さて、何がその鬼灯街道の前方で起こったのか…は、直ぐ分かた。街道に蹲(うずくま)る一人の若い旅女が、堀川一行の隊列を止
めたのである。
 二列縦隊が止まったことで十名は崩れ、団子状態で入り乱れた。十名というのは、例の如く、樋口静山がいない為である。


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