≪脚色≫
冬の風景
(第一話)本音
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
その他 ・・猫のタマ、犬のポチ
1.湧水家の庭 朝
タイトルバック
白絨毯を敷き詰めたように霜が降りた庭。朝日が、下りた霜を照らす。
N 「朝起きると、初霜が降りていた(◎に続けて読む)」
2.湧水家の畑 朝
白絨毯を敷き詰めたように霜が降りた家前の畑。
N 「(◎)庭や家の前の畑は白々と輝き、白砂を敷きつめたようだった。・・と、云うのは少しオーバーな云い回しなのだが…」
テーマ音楽
タイトル「冬の風景(第一話) 本音」
キャスト、スタッフなど
3.玄関 内 朝
ポチが玄関脇の犬小屋で餌を食べている。
4.洗い場 外 朝
玄関前の湧き水の洗い場で手を洗う正也。湧き水から湯気が昇る。庭から回って、やってきた上半身裸の着物姿の恭之介。流れる
汗を拭く恭之介。朝日に映え、恭之介の身体から上がる湯気。洗い場で濡れた手拭いを絞る恭之介。
恭之介「フゥ~。ひと汗、掻くと気分がいい…(誰に云うでなく、笑顔で汗を拭きながら)」
N 「上半身裸で汗を拭きながら、じいちゃんが笑顔で呟くように云った。じいちゃんの身体からは湯気が出ていて、それが朝陽に
照らされて昇っている。僕は丁度、洗顔を済ませた後、タマとポチに餌をやり終えたところだった」
手拭いを湧き水に浸けて絞ると、また身体を拭き、上半身の着物を纏う恭之介。
恭之介「おい正也! 明日から恒例の寒稽古だったな。…いつもより三十分、早く起きろよ(気持ちよさそうに)」
正也 「うん! 分かってる(可愛く)」
N 「嫌だ! と本音を漏らせばいいのだが、毎年この時期に付き合わされる半慣習的な行事なので、敢えて逆らうことなく今年
も、じいちゃんに奉仕することにした」
5.台所 遠景 夜
食卓のテーブルで新聞を時折り見ながら夕食を食べる恭一。鍋の味噌汁を椀に掬い、恭一の前へ置く未知子。落ちついた物腰で食
事をとる恭之介。普通に食べる正也。台所の片隅で餌を食べるタマ。家族の食事の遠景。なにやら恭一に問い掛けている未知子。
6.台所 近景 夜
恭一 「別にペコペコされたくもないさ、ハハハ…(笑って暈し)」
恭之介「そうは云うがな、恭一…(最後までは云わず、口を噤んで)」
未知子「別に気にしてませんから、お義父さま…(云い繕った後、正也の顔を見て微笑んで)」
N 「母さんは云い繕い、微笑んで僕の顔を見た。彼女の内心には、あなたの不出来な分は僕が補って余りある…という本音が
見え隠れする」
7.居間 夜
夕食後。長椅子に座り、ゴルフのクラブを磨く恭一。台所から居間へと移動してきた恭之介。
恭之介「おう、よく光っとるな(感心した口調で)」
恭一 「はい…(小声で)」
N 「素直に父さんは小声で返した。その小声の奥には、次に浴びるであろう嫌味を未然に回避する、緊急避難的な彼の本音が
隠されているのだろう。人は建て前で生き続ける。僕は本音で生きたい…と、頑張っている」
F.O
タイトル「冬の風景(第一話) 本音 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「冬の風景(第一話) 本音」をお読み下さい。