水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユ-モア短編集 [第43話] せこい、ような、しらこい話

2016年01月09日 00時00分00秒 | #小説

 せこい発想は、ろくな結果を導(みちび)かない。要は、マイナス効果になりやすい、ということだ。
『偉(えら)く混んでるなぁ…』
 大型スーパーへ食料品を買に出た岩山堅二は車を運転しながら、店へ駐車しようとする車の多さに驚かされた。仕方なく、スーパー近くの店へ駐車させ、そこから徒歩で店へ入ろう…と、せこい発想を思い浮かべた。別に駐車禁止場所へ車を置く訳ではないから悪い発想とは言えなかったが、それにしても、せこかった。
 車を停(と)め、歩き出したときである。
「今日は休みですよ…」
 駐車しないで下さいよ・・とでも言いたげな男がチェーンを引いて牽制(けんせい)しながら言った。岩山は、なんだ、しらこいなぁ…と思った。休み云々(うんぬん)と言われれば、車を停めた意味がなくなる。それは即(すなわ)ち、車を停車させている正当性をなくす・・ということになるからだ。
「はあ…」
 ポツンと言うでなく呟(つぶや)くと、岩山は車に乗り込んだ。そのときには、すでに次の発想が纏(まと)まっているところが岩山の真骨頂(しんこっちょう)だ。長年の経験が素早い発想を生んだのだった。岩山は店の近くにコンビニがあることを知っていた。当然、岩山は始動した車をコンビニへ停車させた。このとき、岩山のせこい発想は消えていた。岩山はコンビニでほんの少しの食品を買うと店を出た。レシートがあるから、正々堂々とした店の客であるという、しらこい発想だ。胸を張って歩ける…これは少し大げさだが、正当性は完冪(かんぺき)だった。これ見よがしに男の前を通過してスーパーへ入った。無料の袋があったので、入らない分は、その袋に入れよう…と岩山は、せこい、ような、しらこさで思った。

                   THE END


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