旦那の聡(さとし)は妻の忍(しのぶ)に愚痴られ続け、萎(な)えていた。少し気分を和(やわ)らげようとテレビをつけると、天気予報をやっていた。
「気象庁は◎◎地方が梅雨に入ったと見られる、と発表しました」
聡は、そうなのか…と、思った。ふと、窓を見ると、空は薄墨色の雲で被(おお)われている。聡は改めて、そうなんだ…と実感した。
「梅雨なんだな…」
忍に言うでなく呟(つぶや)くと、忍も虚(うつ)ろな顔で空を見た。
「そうみたいね…」
珍しく愚痴られず、聡はこれはいいぞ…と思った。空は曇っていたが降り出す様子もなく、小康状態を保っていた。聡は今の俺達みたいだな…と二人の夫婦関係を思った。
一週間が過ぎ去り、聡はまた忍に愚痴られていた。少し以前より愚痴られ方が強くなったようで、聡も少し怒れたから、ふた言(こと)み言、言い返していた。聡は少し気分を和らげようと、テレビをつけた。
「寒冷前線は以前より、やや北へ押し上げられています…」
聡は、そうなのか…と、思った。ふと、窓を見ると、薄墨色の空で、幾らか蒸(む)しっぽかった。聡は改めて、そうなんだ…と実感した。
「梅雨は蒸すな…」
忍に言うでなく呟(つぶや)くと、忍はチラッと空を見た。
「そらそうよ!」
言い方が険(けわ)しくなっていて、聡はこれはいけないぞ…と思った。外はジトジトと降り出していた。
そしてまた一週間が過ぎ去った。聡は相変わらず愚痴られ、同じだけ愚痴り返していた。完全な軽い喧嘩(けんか)だった。外は梅雨末期の土砂降りになってった。聡は少し気分を和らげようと、テレビをつけた。
「各地で梅雨末期の豪雨となっております。今後の気象情報には充分、ご注意下さい」
聡は、注意しないとな…と、思った。そして無言で忍を見た。二人は数日、口をきいていなかった。
そしてまた一週間が過ぎ去り、ついに梅雨が明けた。外はすっかり晴れ渡り、夏の熱気が部屋へと入ってきた。聡はテレビをつけた。
「◎◎地方の梅雨は明けたようだと気象庁は発表しました」
聡は、そうなのか…と、思った。
「おい、梅雨が明けたそうだ…」
忍に言うでなく呟くと、忍は明るい顔で空を見た。
「そうね…」
言い方は柔和(にゅうわ)で、顔には笑みが零(こぼ)れていた。
THE END