緑畑(みどりはた)耕治は久しぶりに歩くことにした。子供の頃、小学校の遠足でそのルートを歩いた記憶はあったが、断片的に思い出すだけで、ほとんど忘れていた。
上手(うま)い具合に晴れ渡った日の朝、緑畑はリュックに必需品を入れて出発した。登山が趣味の緑畑は、当然のことながら万が一の場合の対処法は心得ていた。
最初はよく知った景色だったからスムースに進めた。ところが、ほぼ3分の1ほどの道のリにさしかかったとき、道は歩いてきた太い道とやや細い道のふた手に分岐していた。緑畑はおやっ? と首を傾(かし)げ停止した。一本道だった記憶にある風景と違ったのである。細い道は最近、出来たんだろう…と思え、緑畑は歩いてきた太い道をふたたび歩き出した。よく考えれば、この前とはいえ子供の頃のことなのだ。当然、辺(あた)りの様子も変わっている…とも思え、緑畑は思わず苦笑した。磁石[コンパス]を見れば進んでいる方向に間違いはなく、地図上の道も正しいと思えた。
それからまた、しばらく歩き、昼食予定の祠(ほこら)を探したが、いっこうにその姿が見えない。道はふた手に分岐していた。このとき緑畑は、停止しておかしい…と初めて思った。腕を見ればすでに昼前である。取り敢(あ)えず分岐した片方を進んだのだが、なにも現れない。もう祠が現れてもよいはずだった。腹も空(す)いてきていた。まあ、いいか…と、緑畑は適当な草原に腰を下ろし、作ってきた昼食を食べることにした。
腹も満たされた緑畑は、どういう訳か眠たくなった。初めはなんとか我慢していたが、我慢しきれなくなった緑畑は、いつの間にかウトウトと眠りに落ちていた。
ふと気づけば、1時過ぎだった。慌(あわ)てて緑畑は立つと歩き出した。そのとき、緑畑はふたたび、おや? と思い、停止した。遠くではあるが眼前に自分の家が見えるではないか。そんな馬鹿なはずがない…と緑畑は目を指で擦(こす)った。だが、それは紛(まぎ)れもなく我が家だった。緑畑は停止結果、ルートを一周していたのである。停止せず、そのまま突き進めばよかったのだ。緑畑は停止するんじゃなかった…と後悔(こうかい)した。
THE END