水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユ-モア短編集 [第53話] 馬鹿捕り紙

2016年01月19日 00時00分00秒 | #小説

 世の中にはどうしようもない、うすら馬鹿と呼ばれる種族がいる。これは、一般の民族や国家などの範囲を超越して、広く世界に分布する人間の一族だ。国境を越え、世界各地に蔓延(はびこ)るこの手合いには、警察力がまったく役に立たない。犯罪にもならないから、取り締まりようがないのである。
「またかっ!」
 朝から気分よく家の前の敷地内を掃(は)き清めていた岡野(おかの)均(ひとし)は、そう愚痴ると深い溜息(ためいき)を一つ吐(は)いた。最近では、捨てられたポイ捨てゴミを目にした日は、どうも気分がよくなかった。うすら馬鹿め! そのうち、ギャフンと言わせてやる…と、岡野は、うすら馬鹿防犯用の馬鹿捕り紙を家の前へ敷くことにした。捨てた途端、ハエ捕り紙よろしく、ベタベタと足下(あしもと)が粘りつき、蠅のようには死なないものの、やがては歩行に支障を起こす・・というシロモノだった。岡野は意気込んで、その馬鹿捕り紙の制作に取りかかった。
 一週間が過ぎ去った。
「よしっ! よしよし…」
 出来上った粘性の馬鹿捕り紙を見ながら、岡野は意気込んで家表の敷地下に敷き終えた。
『フフフ…明日が楽しみだ…』
 岡野は嘯(うそぶ)くと、ニヒルな笑みを浮かべた。まるで自分が尋常ではない天才科学者にでもなった気分の岡野だった。というのも、粘性物質の研究と紙質、紙への塗りつけには、かなり手が込んだからだった。
 次の日の朝、うすら馬鹿がひっかかった痕跡(こんせき)が馬鹿捕り紙に残っていた。岡野は、ははは…やった! と喜ぶより、逆にその者が哀れで悲しく思えた。他に考えることはないのか…と思えたからだ。馬鹿捕り紙は、岡野を悲しく思わせる紙だった。

                    THE END


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