水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユ-モア短編集 [第62話] ややこしい

2016年01月28日 00時00分00秒 | #小説

 白川(しらかわ)渡は、おやっ? と振り返って立ち止まった。すれ違ったとき、今、別れたばかりの課長、小峰(こみね)に出会ったのである。いや、いやいやいや、そんなはずはない…と白川は思った。よく考えれば、そっくりな男もいる訳だ。偶然、似ていただけだろう…と、白川は無理に思うことにした。その間(あいだ)にも、小峰そっくりの男は遠ざかっていく。悪くしたもので、その日の白川は急いでいなかった。というか、手持ち無沙汰でどう時間を潰(つぶ)そうか…と思っていた矢先だったのだ。小峰に急用だといって勇んで会社を出たまではよかったが、待ち合わせ相手のOL、由香(ゆか)から携帯メールが入り、ドタキャンされたのである。そのあと奇妙な偶然に出会った・・という訳だ。
 遠ざかるにつれ次第に小さくなるその男は、前だけではなく、後ろ姿まで小峰によく似ていた。気づいたとき、白川はツカ、ツカ、ツカ、ツカツカツカツカ…と早足でその男を追っていた。すぐ、男に追いついた白川は男の前へ素早く回り込んだ。
「あの、もし…」
「はい、なにか…」
 立ち止った男は、やはり課長の小峰と瓜(うり)二つだった。それに、声まで小峰と似通っているではないか。
「人違いでしたら、すみません。あなた…小峰さんですか?」
「いえ、私は大峰(おおみね)です」
 白川は一瞬、ポカン…と木偶(でく)の坊(ぼう)になり、ややこしい…と思った。

                    THE END


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