テレビが賑(にぎ)やかに唸(うな)っている。何をしても盛り上がらない堀崎沙希枝は、動くのを諦(あきら)め、ひとりアングリとした顔でテレビを観ながら煎餅を齧(かじ)っていた。もちろん、畳の上へ寝転がった姿勢で、である。これは誰が見ても、典型的なオバチャンが退屈している姿勢に思えた。沙希枝自身もそれは自覚しているのだが、取りたてて気には留めていなかった。旦那の堀崎は別に何も言わず、そんな沙希枝と日々、暮らしていた。沙希枝の内心は、私はまだ若いんだから…そうそう! 買い置きがなかったわね、煎餅(せんべい)を買ってこなくっちゃ…くらいの浮いた気分だった。
「堀崎さん、別にどこもお悪くありません。…あの、こんなことを言っちゃなんなんですがね。お悪くはないんですが、少しダイエットされた方がよかないですか? ははは…太った私が言うのも、なんなんですが」
体重が優(ゆう)に100㎏は超える・・と思える医者の皮平(かわひら)は、検診結果の書類を見ながら退屈そうに欠伸(あくび)をしながらニヤリと言った。沙希枝は、そうよっ! アンタには言われたくないわっ! と内心で怒れたが、さすがにそれは言えず、思うに留(とど)めた。
「はい! 少し、頑張りますわ」
沙希枝は一応、そう言って、愛想笑いした。
病院の帰り道、よくよく考えれば、もうそんな年なんだわ…と沙希枝は少し反省した。沙希枝は今年で五十路(いそじ)に入っていたのだった。退屈しのぎに寄ったス―パ―に美味そうなメロ[銀ムツ]の切り身パックがあった。いつもは4きれパックを買うのだが、2きれパックにした。ご飯が進んで、1きれで3膳以上、食べてしまうことは百も承知だったからだ。余ったお金で退屈しのぎに煎餅を4袋買った。いつもは2袋だった。退屈が沙希枝を太らせていたのだ。
THE END