溝下(みぞした)静男が車を運転していると、突然、若者が運転するオ-トバイがバリバリバリ! と賑(にぎ)やかな音を出し、追い抜いた。おお! 格好いいなっ! と思った瞬間、今度は白バイが、ウゥ~~~! とサイレンを鳴らして横を通過した。
「前の車! 止まりなさいっ!」
白バイに乗った、これもまた格好いい警官が発するマイク音が溝下の耳にも届いた。しばらく、バリバリバリ!とウゥ~~~!による音の競争が続いたが、5分弱すると、静かに消えた。溝下は、止められたな…と思いながら車を走らせ、前方を注視した。すると、白バイが前方に見えてきた。ああ、やはりな…と思ったが、通過したとき、おやっ? と思った。白バイは止まっていたが、オ-トバイの姿がなかった。事情は分からなかったが、どうも逃げられた感がしないでもなかった。なんだ! しっかりしろ! 白バイ…と応援しながら、目的の地で荷を降ろすと、急いでUターンした。今日は同じルートをまだ2往復しないといけないからだった。
溝下が車を運転して途中までやってきたとき、またバリバリバリ! と賑(にぎ)やかな音がしてオ-トバイが溝下の車を猛スピードで追い抜いていった。若者は格好いいが、70キロは出てるな…と思えた。そう思った直後、またウゥ~~~! ときて、白バイと格好いい警官が見えた。心なしか警官が萎(な)えて見えたから、警官、ガンバレ! と溝下は、また内心で応援していた。多少、追い抜かれた悔(くや)しさが潜在意識であったからかも知れなかった。
「前の車! 止まりなさいっ!」
行きと同じように、警官が発するマイク音が聞こえ、バリバリバリ! ときた。そして、バリバリバリ!とウゥ~~~!の音競争がし、また5分弱で消えた。やがて溝下は、工場へ戻(もど)り、2度目の積み荷を積むと、また発車した。また、バリバリバリ! が抜くんだろうな…と期待せずに期待していると、やはり
バリバリバリ! は聞こえた。だが、格好いい若者とオ-トバイの姿は現れなかった。当然、格好いい警官と白バイの姿も現れなかった。なんだ…と楽しみをとられたように溝下はテンションを下げた。そして、3度目の最後の積み荷を降ろし、帰途についたときもバリバリバリ!とウゥ~~~!の音のみだった。
その後も運転中、バリバリバリ!とウゥ~~~!の競争音が溝下の耳に聞こえ続けた。まあどちらにしても俺は格好よくないからな…と思うだけで、溝下の興味は完全に消えていた。
THE END