水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユ-モア短編集 [第60話] 異次元ポケット

2016年01月26日 00時00分00秒 | #小説

 道岡 田舎(いなか)は異次元を信じる風変わりな学者として、大学や世間で知られた男だった。道岡は大学から、いや正確には世間一般からも異端視されていた。というのも、彼の理論はどう考えても今の現在科学では説明できない理論だったのである。彼は持論を曲げなかった。そのためか、UFOの飛来を、さも現実的に語るマニアチックな人々と同列視された。
 ここは、牧野家の茶の間である。
『ほら! 見えるでしょ! この斜め横にある異次元ポケットが…』
 テレビ画面から流れる道岡の映像と音声を見ながら、小学1年の弘輝(ひろき)は、ははは…と笑った。
「パパ、この人、○ラえもんの作者?」
「いや、弘坊、そうじゃないんだ…」
 父親の弘明(ひろあき)は説明に困った。この人は変な学者なんだ・・とも我が子に言いにくい。事実、よくこんな男が教授になれたもんだ・・との風評(ふうひょう)が流れていた。いつの間にか巷(ちまた)でポケット学者という道岡の別名が付けられていた。
「今日は天気がいいから、外へ出よう!」
 説明に困った弘明はテレビを消した。
 ここは、数分前のテレビスタジオである。道岡がゲストとして座っていた。カメラは左側に座るMCの男性アナウンサー1名と女性タレント1名、それに右側に座る道岡をワイドに映し出していた。
「では、この異次元ポケットの扉(とびら)を開けてみましょう…。ほう、牧野さんのお宅のようですね。あっ! 今、このテレビ画面が映ってます。近づいてみましょう。おお! お嬢ちゃんがテレビをご覧になってますねっ!」
 道岡の異次元ポケットは惜しいが、少しズレていた。

                    THE END


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