水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (7)休みの前

2019年10月03日 00時00分00秒 | #小説

 休みが終った後(あと)は誰も気分が後退し、『ああ、また明日(あした)から学校か。テスト、嫌だな…』とか、『また仕事か。契約、取れるといいが…』などと思ったりもするが、休みの前は気分がウキウキと弾(はず)み、誰も楽しいものだ。まあ、中には仕事が生き甲斐(がい)で、ちっとも楽しくないという風変わりな方もおられるだろうが、概(がい)して楽しいものである。この休み前の気分を考えてみよう。そんなことはどうでもいいから、美味(おい)しいサンマを温(あった)かいご飯で食べよう!! と決意された方は、そうしていただけば、それでいい。^^
 ここは、とある動物園である。連休ということもあり、休みの前は閑散(かんさん)としている園内が大勢の家族客で賑(にぎ)わっている。
「おおっ! 今年も台風ですねっ!」
「新人、来たかっ!」
 飼育員の年配職員、飼桶(かいおけ)は、去年、入った若い職員、秣(まぐさ)に振り向きざま返した。秣は飼桶の交代職員だった。
「なんか、台風の前、最中(さいちゅう)、後に似ていませんかっ?」
「だな…。まあ、園内が壊(こわ)れないだけいいかっ! ははは…」
「芥(ゴミ)は、かなり出ますがね…」
「そうだな! 芥が被害だな、ははは…」
「清掃員は大変ですよね」
「まあ、それが仕事だからな…」
「動物達も疲れるんでしょうか?」
「ああ、そうかもな。こいつらもお客さんに愛想(あいそ)振り撒いてるのかも知れん…」
「休みの前は億劫(おっくう)なんでしょうかねっ?」
「ははは…そこまで、こいつらは考えんだろうが…」
「ははは…考えてるかも、ですよっ!」
「ははは…かもな・じゃあ、あとは頼んだぞ、秣!」
 飼桶はそう言うと、サッ! と格好よく姿を消した。
「はいっ!!」
 すでに飼桶の姿はなかったが、秣は大声で返した。休みの前も休みの後も変らない視線で、動物達は秣を見ていた。そろそろ、餌(えさ)の時間が近づいていた。
 休みの前が楽しいのは、動物の中でも人間だけのようである。^^

                                


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