水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (22)思う

2019年10月18日 00時00分00秒 | #小説

 楽しいことを思うと、自然と楽しい気分になるから不思議だ。これは人の心理に関係するそうだが、またその逆も言えるそうで、心配して悪くなることを思っていると、上手(うま)くいっていることでも悪い方向へ物事が進む・・というようなことだ。だから出来るだけクヨクヨせず、明るく朗(ほが)らかに楽しい気分で過ごすことが人生を成功させる秘訣(ひけつ)ということになる。ただし、それも程度もので、破目をはずし過ぎたり場所 柄(がら)を考えないとご破算(はさん)になるから注意しなければならない。不幸があった席で、不釣り合いにもニコニコと楽しい笑顔でいるような場合だ。^^
 雨がシトシトと寂しげに降っている。陰鬱(いんうつ)な秋霖(しゅうりん)の季節だが、この男、袋小路だけは降る雨をアグレッシブに捉(とら)え、人口樹脂のポリ盥(だらい)の中に座り、ボディシャンプーを付けたタオルで陽気に身体(からだ)を洗っている。
「ははは…こりゃ水道代が浮いて、いいやっ! それに飲み水や植木の水も溜めておけるしなっ!」
 まだ蒸し暑さも残る気候だから寒くはなく、この男にとっては願ったり叶(かな)ったりの雨に思えるようだ。飲み水は手製の濾過器(ろかき)で濾過されたあと煮沸(しゃふつ)され使用されるようだ。汚(きたな)いと思うか、そう思わないかの差だが、袋小路はそう思わない派なのだから致し方がない。^^ そのとき、垣根越しに隣に住む玉木が声をかけた。
「ははは…やっておられますなっ! 結構、結構!!」
 内心では、『この男、馬鹿かっ!』と思う玉木だったが、そうとも言えず、思うに留めてヨイショした。
「やあ、お隣のっ!! いい雨ですなっ!」
「はいっ! 秋らしくなりました…」
 夏は過ぎたぞっ! が本心の玉木だったが、やはりそう言ってヨイショした。言われた袋小路はヨイショされ、素直にそう思うことで楽しい気分になったが、思ってもいないことを口走った玉木の気分は、ちっとも楽しくなかった。
 このように楽しい気分で素直にそう思うと楽しく、そう思わないと楽しくない・・というお話だ。^^

                                


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