愚鈍(ぐどん)とは普通、人を小馬鹿にして言う言葉だが、どうしてどうして、愚鈍ほど気楽で楽しいことはないのだ。^^ と、言えば、皆さんは『そんなはずがないっ!』と怒られるかも知れない。ところが、それは事実なのである。^^ というのも、愚鈍な者は、いらぬ気を使う必要がない・・ということだ。『あっ! そうでしたか?』と訊(き)き返すほどの愚鈍ならば、剛(ごう)の者と言ってもいいだろう。^^ 人に馬鹿にされる愚鈍だが、結局のところ、利口な者より、より以上に利口ということになる。理由は、苦も少なく、楽しく生きられるからだ。^^
子供を対象とした真夏の肝(きも)試(だめ)し大会が行われている。二人ひと組で深夜の墓地へ行って戻(もど)るというものだ。行ったという証拠(しょうこ)は墓地に前もって置かれた認定証で、それを持って帰ることで分かる・・というルールだ。
「ちっとも怖(こわ)がらないけど、お前、怖くないのか?」
「全然! それよか、むしろ涼(すず)やかなくらいです」
「変ったやつだな。俺なんか、途中でやめよう…と思ってんだ、実は…」
墓地が近づくにつれ、クラスで一番、利口な子供は、クラスで一番、愚鈍な子供にそう告げた。
「あっ! それなら、ここで待っていて下さい。僕が行って認定証、持ってきますから…」
「そうか? 悪いなっ!」
小一時間、経って、愚鈍な子供は墓地に置いてあった認定証を二枚、持って帰ってきた。
「帰りました…」
「こ、怖くなかったか?」
「全然! それどころか、幽霊さんと話をしてきたくらいです。暑い夜ですから、ちょうどいい気分です、ははは…」
それを聞いた利口な子供は、墓地でもないのに恐怖で足が竦(すく)み、そこから一歩も動けなくなった。その結果、大会本部へ楽しい気分で戻(もど)ったのは、愚鈍な子供一人だった。利口な子供は半時間ばかりして這(は)うようにそのまま家へ帰ったそうだ。
愚鈍が利口に勝(まさ)る・・という、ほんの一例の楽しいお話である。^^
完