分かれ道に出食わしたとしよう。片方は目的地に早く着く近道(ちかみち)だが、高低差のある滑落(かつらく)しやすい危険な坂が待っている。もう片方はかなり遠巻きながら、高低差が小さい穏やかな道である。さて、あなたならどちらを選ばれるだろう。^^
とある山を登山中の男、煮干(にぼし)が分かれ道にさしかかった。煮干は立ち止まり、徐(おもむろ)に登山マップを広げた。
「さて、どうするかだ…。この地図によれば、左が近道だが、少し高低差がある…。まあ、急ぐこともないから穏やかな右にするか…。せっかく来たんだ、楽しい登りがいいからな…」
煮干は躊躇(ちゅうちょ)することなく決断し、右側の道を登っていった。いい景観が展望できる九十九(つづら)折りの道を、煮干は楽しみながら少しずつ登り、やがて峠に差しかかった。
「さて、ここいらで昼とするか…。少し先に出た皮味(かわみ)さんは近道を登る・・と言ってらしたが、頂上で食ってんだろうな…」
煮干は快晴の空の下(もと)、小気味いい微風を受けながら、持参した弁当を広げた。しばらくして食べ終えた煮干は、ふたたび登り道を少しずつ頂上へと近づいていった。
頂上の山小屋へ登り着いたとき、そこに皮味の姿はなかった。
「あの…他に登ってきた人はいませんか?」
「ああっ! そういや先ほど救難者が出たって、山岳救助隊が向かいましたよっ!」
「ええ~~っ!!」
その頃、皮味は滑落(かつらく)で捻挫(ねんざ)した脚を引き摺(ず)りながら、山岳救助隊に支えられて下山していた。むろん、楽しい気分どころの話ではない。昼も食べていなかったため、空腹でグゥ~~ッと腹が鳴り、散々な目に遭(あ)っていたのである。
美味(うま)い話には危険が付き物で、楽しい気分を味わうなら、近道をせず急がば回れ・・の精神が肝心だというお話である。^^
完