今の時代、時の流れが早い・・と、よく言われる。これは昭和2、30年代の頃と比べ、格段に移動手段が発達した結果とも考えられる。昭和2、30年代当時は、そんなに移動手段が発達しておらず、地方道には人の歩く姿か自転車が見られたぐらいだった。それが昨今では、深夜の一定時間を除き、車がひっきりなしに走る時代へと変貌(へんぼう)している。時の流れでこうも変化することを、当時の人々は予想しただろうか? 時の流れで変化が生まれることは仕方ないにしても、長閑(のどか)な楽しい気分が損なわれ、殺伐(さつばつ)とした雰囲気が巷(ちまた)に蔓延(はびこ)ることが果たして社会の発展と言えるのか? と疑問が湧(わ)くところだ。どうして、うどんのあんな美味(うま)い出汁(だし)が作れるのか? という疑問とは、まったく関係がない。^^
とある繁華街の一角を、ウロウロと一人の老人が目的の建物を探して歩いている。そこへ、一人の中年男が対向から近づいてきた。
「あの…つかぬことをお訊(き)きしますが、この辺(あた)りにホニャララ座というのはございませんか?」
「ホニャララ座? …そういや、20年ばかり前、この近くにあったな、確か…。おじいさん、もう取り壊(こわ)されて、今はねえよっ!」
「そうでございましたか…。時の流れは早ようございますな。で、今は?」
「今かい? 今は、ほらアソコのニャゴワン劇場!」
「ニャゴワン劇場でございますか? なんとも賑(にぎ)やかそうな劇場でございますな」
「そら、そうだよっ! 出てるのが漫才のチュンチュン兄弟、カアカア、コント・ニワトリなんて喧(やかま)しい連中だからっ!」
「ハッハッハッ…まるで鳥の劇場ですなっ!」
「そうだな…」
「ホニャララ座は演劇専門で、特に後退座の[瞼(まぶた)の母]なんて、ようございましたが…」
「今は漫才、漫談、コント、マジックが中心だね」
「いや、どうも…。笑って帰りますかな、ははは…」
「それじゃ!」
二人はふたたび歩き出し、擦(す)れ違って別れた。
時の流れで建物が変ろうと、楽しい気分を味わいたい…と思う人の気持は変らない・・というお話である。^^
完