水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (23)旅

2019年10月19日 00時00分00秒 | #小説

 テレビのリモコンを押していると、旅番組が映ることがある。仕事は別としても、いろいろな土地を訪れる旅という行動は、実に楽しいものである。旅も短期、長期、国内の近隣、国内の遠方、海外と、パターンがいろいろあるが、孰(いず)れにしろ楽しいことに変わりはないだろう。旅から帰った途端、「フゥ~~っ! やっぱり家が一番、いいなあ!!」とか言われるお方がおられるが、あの神経が私はよく分からない。なら、旅などしなきゃいいだろっ? …と思えるからだ。^^
 とある地方の駅である。ホームのベンチに座り、ボケェ~っとしている男がいる。列車が着いても乗らない男が不審に思えたのか、駅員が近づいて訊(たず)ねた。
「どうされました?」
「いやぁ~、別に…」
「どちらまで行かれるんですっ?」
「私ですかっ? さぁ~~て、どちらでしょう? …足の向くまま気の向くままっ、あても果てしもねぇ楽しい旅なんでございますよぉ~」
 男は急に時代劇調で語り出した。駅員は、『こりゃ、ダメだ。関(かか)わらない方がいいや…』と思ったのか、軽く一礼すると愛想笑いして男の前から去った。
 この男のように、目的地がない旅も楽しいに違いない。^^

                                


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