待つという状況は、いろいろとある。しかも、その状況に置かれた個々の性格によって、展開に大きな差異を生じる。その性格の中でも、特にイライラしやすい気短(きみじか)な人の場合は待ち時間が長いと楽しい気分が損なわれる。そうだから、という訳でもないが、待つという行為は気長(きなが)な人が適しているだろう。^^ だが、そんなことを言ってられない小忙(こぜわ)しい世の中だから、気短な人でも待つことになり、そんな場合は、ややこしいことにならないよう、特に注意が必要だ。^^
とある朝の駅である。鋤焼(すきやき)は、やっと取れた休暇で旅に出ようと駅へ入った。ところが、どういう訳か、この日に限って予約した特急・鯨(くじら)が崖崩れの影響で運休となってしまった。さあ! 哀(30)れなのは鋤焼である。どうにかならんかっ! と駅の切符売り場に駆け込んだ。
「そう言われましてもねぇ~。起きてしまったことですからっ!」
「それをなんとかするのが君達の仕事じゃないかっ!!」
鋤焼はグツグツと煮え過ぎて少なくなった鍋汁(なべじる)のように駅員に絡(から)んだ。
「はあ…。ともかく、払い戻しはいたしますから…」
「払い戻しっ!? 払い戻しは当たり前だっ! 私の言ってるのは、この先、どうしてくれるのか! って話だっ!」
「はあ。噴潮(ふきしお)までの代行バスは出ますので、それでなんとか…」
「ほおっ! 代行バスは出るんだなっ!」
「はいっ!」
「それで、どれくらい待つんだっ!?」
「はあ、二時間ばかり…」
「に、二時間っ!!」
「はい…」
「も、もういいっ! 君では話にならんっ! 駅長を出しなさいっ!」
「あいにく駅長は急用のため、一時間前の特急・鴨鍋(かもなべ)で出られました…」
「特急・鴨鍋っ!? 鴨鍋と言やぁ、私が乗る鯨の前の特急じゃないかっ!」
「はあ、そのとおりです。なにせ崖崩れの前でして…」
「そんな馬鹿な話があるかっ! 駅の者が行けて私が行けんという話があるかっ!!」
「そう言われましても…」
駅員は急に小声になった。
「も、もう、いいっ!! 二時間、待てばいいんだなっ!」
「はい…」
「なら、待ってやるっ! こうなりゃ、なにがどうなろうと待つっ! 待って待って待ちくたびれてやるっ!!」
男は駅のベンチで怒りながら二時間後のバスを待つことになった。
気短な人でも意固地(いこじ)にすれば、待つことが可能になるようだ。^^
完