水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (33)まずまず…

2019年10月29日 00時00分00秒 | #小説

 世の中で起きる物事は、自分の思うようにならないのが常だ。物事が、七、八割がた上手(うま)くいけば、まずまず…と満足するのがいいだろう。100%思うようにしようとすれば、必ず何らかの軋轢(あつれき)を生むことになる。軋轢はカツレツのような食べるものではない。^^ 摩擦となるトラブルを生む・・といっようなことだ。まずまず…の心得で世を渡れば、思い通りに行かなくても、そう腹も立たずに楽しい人生を過ごせる訳だ。まずまず…は欲望を制御する、いわば車のエンジン・ブレ-キなのである。「美味(おい)しいわよっ!」と自慢たらしく出された奥さんの不味(まず)い料理に、まずまず…と我慢(がまん)する気分とは少し違うように思えるのだが…。^^
 ひと組の中年夫婦が泊まる、とある地方温泉の旅館である。旅行社で格安のクーポンを組んでもらい、旅行に出かけたまではよかったが、どういう訳かうらぶれた温泉で、他の観光客も疎(まば)らで、ほとんどいなかった。それに、どこか薄気味悪い感じがしないでもない。
「なんか、妙な温泉ね。旅館の人も陰気だし…」
「ああ、全然、観光客もいないしな…。まあ、料理は美味(うま)かったし、湯加減もよかったんだから、まずまず…と、しなきゃ!」
「そりゃ、そうだけど…」
「まあ、格安クーポンだから、こんなもんさっ!」
「そうね! こんなもんか…」
 二人は、陰気な温泉を気にしないことで、まずまず…と楽しみ、二日後、帰路に着いた。後々(のちのち)分かったことだが、その温泉は自殺者がよく出ることで有名な温泉だった・・ということだ。まずまず…と楽しい気分で帰れば、訳が分かったからといって、どぉ~~ってこともない訳である。^^

                                


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