水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (25)冷静(れいせい)

2019年10月21日 00時00分00秒 | #小説

 物事(ものごと)をする上で焦(あせ)りは禁物(きんもつ)だ。焦る気持は分かるが、そこはそれ、冷静(れいせい)に落ちついてコトに臨(のぞ)むのが得策(とくさく)といえる。冷静にコトに臨めば、自(おの)ずから正しい対処(たいしょ)の方法が見えてくる。正しい対処をすれば、コトは目的を達して成功裏に終わり、楽しい気分となる。と、まあ、こういう過程[プロセス]を辿(たど)る訳だ。^^ 辿らない人は少なからず焦っていることになり、心の修行が足りない・・と言われても仕方がない。^^
 とある小学校の図画工作の時間である。
「あと30分しかないわよっ、禿山(はげやま)君!」
「先生! まだ、書きたい構図が決まらないんです…」
「決まらないって君、皆(みんな)、適当に書いてるじゃない。適当でいいのよ、適当で…」
「適当って先生、絵画(かいが)を馬鹿にしちゃ~ぁいけないっ! ここは冷静に決めないと…」
「まっ! 勝手になさいっ!!」
「はい、勝手にします…」
「ぅぅぅ…」
 クラスを受け持つ女性教師、毛川(けがわ)は生徒の禿山の反発に少し切れたが、そこはそれ、教師の立場というものがある。グッ! と我慢して、禿山の席を通過した。禿山は、さてと…と、なおも冷静に構図を決めていたが、残り20分の頃になり、ようやく構図が決まったのか、その後は瞬(またた)く間に描(えが)き切った。その絵の出来映(できば)えは大人のプロ画家を思わせるもので、毛川は、その出来映えに唸(うな)り、禿山はニンマリ! と笑った。
 冷静になれば楽しくニンマリ! と笑えるようだ。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (24)疲れ

2019年10月20日 00時00分00秒 | #小説

 楽しいのはいいが、その楽しいひとときが済めば、疲れが待っている。若いときはそう感じることも少ないが、年を重ねるにつれ、ジワジワと疲れが襲(おそ)ってくる。人により程度の差こそあれ、高齢者には疲れが付いてまわるのだ。離れてくれっ! と頼んでも、こればっかりはどうしようもなく、『ヒヒヒ…まあまあ、そう邪険(じゃけん)にされず…』と、疲れは忍び寄る。^^ それでも、楽しい気分を味わいたいから、高齢者は意固地(いこじ)になって無理をする。無理をすれば余計に疲れることになる。この繰り返しは負のスパイラル[螺旋(らせん)]を齎(もたら)すから、いただけない。^^
 久しぶりの家族旅行から帰ったご隠居が、家に着くなり隠居所に籠(こ)もってしまった。家族としては、夕食になっても出てこないご隠居に気が気ではない。
「お義父(とう)さま、どうされたのかしら?」
「僕が見てこようか?」
「たぶん、疲れたんだろ…。そぉ~っとしておいた方がいい」
「そうね…お腹が空けば、出ていらっしゃるわねっ!」
「お兄ちゃん! お肉ばっかり食べてる…」
「お前の分は残してあるだろっ!」
「まあね…」
 家族四人は雑談を繰り広げ、旅行の疲れも見せず、スキ焼を突(つつ)いた。そのいい匂いが隠居所に届いた瞬間、ご隠居は猛スピードで台所へ急行した。
 高齢者の楽しい後(あと)の疲れも、食欲で吹っ飛ぶのである。^^

 ※ 風景シリーズ・湧水家の人々のスビン・オフ出演でした。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (23)旅

2019年10月19日 00時00分00秒 | #小説

 テレビのリモコンを押していると、旅番組が映ることがある。仕事は別としても、いろいろな土地を訪れる旅という行動は、実に楽しいものである。旅も短期、長期、国内の近隣、国内の遠方、海外と、パターンがいろいろあるが、孰(いず)れにしろ楽しいことに変わりはないだろう。旅から帰った途端、「フゥ~~っ! やっぱり家が一番、いいなあ!!」とか言われるお方がおられるが、あの神経が私はよく分からない。なら、旅などしなきゃいいだろっ? …と思えるからだ。^^
 とある地方の駅である。ホームのベンチに座り、ボケェ~っとしている男がいる。列車が着いても乗らない男が不審に思えたのか、駅員が近づいて訊(たず)ねた。
「どうされました?」
「いやぁ~、別に…」
「どちらまで行かれるんですっ?」
「私ですかっ? さぁ~~て、どちらでしょう? …足の向くまま気の向くままっ、あても果てしもねぇ楽しい旅なんでございますよぉ~」
 男は急に時代劇調で語り出した。駅員は、『こりゃ、ダメだ。関(かか)わらない方がいいや…』と思ったのか、軽く一礼すると愛想笑いして男の前から去った。
 この男のように、目的地がない旅も楽しいに違いない。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (22)思う

2019年10月18日 00時00分00秒 | #小説

 楽しいことを思うと、自然と楽しい気分になるから不思議だ。これは人の心理に関係するそうだが、またその逆も言えるそうで、心配して悪くなることを思っていると、上手(うま)くいっていることでも悪い方向へ物事が進む・・というようなことだ。だから出来るだけクヨクヨせず、明るく朗(ほが)らかに楽しい気分で過ごすことが人生を成功させる秘訣(ひけつ)ということになる。ただし、それも程度もので、破目をはずし過ぎたり場所 柄(がら)を考えないとご破算(はさん)になるから注意しなければならない。不幸があった席で、不釣り合いにもニコニコと楽しい笑顔でいるような場合だ。^^
 雨がシトシトと寂しげに降っている。陰鬱(いんうつ)な秋霖(しゅうりん)の季節だが、この男、袋小路だけは降る雨をアグレッシブに捉(とら)え、人口樹脂のポリ盥(だらい)の中に座り、ボディシャンプーを付けたタオルで陽気に身体(からだ)を洗っている。
「ははは…こりゃ水道代が浮いて、いいやっ! それに飲み水や植木の水も溜めておけるしなっ!」
 まだ蒸し暑さも残る気候だから寒くはなく、この男にとっては願ったり叶(かな)ったりの雨に思えるようだ。飲み水は手製の濾過器(ろかき)で濾過されたあと煮沸(しゃふつ)され使用されるようだ。汚(きたな)いと思うか、そう思わないかの差だが、袋小路はそう思わない派なのだから致し方がない。^^ そのとき、垣根越しに隣に住む玉木が声をかけた。
「ははは…やっておられますなっ! 結構、結構!!」
 内心では、『この男、馬鹿かっ!』と思う玉木だったが、そうとも言えず、思うに留めてヨイショした。
「やあ、お隣のっ!! いい雨ですなっ!」
「はいっ! 秋らしくなりました…」
 夏は過ぎたぞっ! が本心の玉木だったが、やはりそう言ってヨイショした。言われた袋小路はヨイショされ、素直にそう思うことで楽しい気分になったが、思ってもいないことを口走った玉木の気分は、ちっとも楽しくなかった。
 このように楽しい気分で素直にそう思うと楽しく、そう思わないと楽しくない・・というお話だ。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (21)近道(ちかみち)

2019年10月17日 00時00分00秒 | #小説

 分かれ道に出食わしたとしよう。片方は目的地に早く着く近道(ちかみち)だが、高低差のある滑落(かつらく)しやすい危険な坂が待っている。もう片方はかなり遠巻きながら、高低差が小さい穏やかな道である。さて、あなたならどちらを選ばれるだろう。^^
 とある山を登山中の男、煮干(にぼし)が分かれ道にさしかかった。煮干は立ち止まり、徐(おもむろ)に登山マップを広げた。
「さて、どうするかだ…。この地図によれば、左が近道だが、少し高低差がある…。まあ、急ぐこともないから穏やかな右にするか…。せっかく来たんだ、楽しい登りがいいからな…」 
 煮干は躊躇(ちゅうちょ)することなく決断し、右側の道を登っていった。いい景観が展望できる九十九(つづら)折りの道を、煮干は楽しみながら少しずつ登り、やがて峠に差しかかった。
「さて、ここいらで昼とするか…。少し先に出た皮味(かわみ)さんは近道を登る・・と言ってらしたが、頂上で食ってんだろうな…」
 煮干は快晴の空の下(もと)、小気味いい微風を受けながら、持参した弁当を広げた。しばらくして食べ終えた煮干は、ふたたび登り道を少しずつ頂上へと近づいていった。
 頂上の山小屋へ登り着いたとき、そこに皮味の姿はなかった。
「あの…他に登ってきた人はいませんか?」
「ああっ! そういや先ほど救難者が出たって、山岳救助隊が向かいましたよっ!」
「ええ~~っ!!」
 その頃、皮味は滑落(かつらく)で捻挫(ねんざ)した脚を引き摺(ず)りながら、山岳救助隊に支えられて下山していた。むろん、楽しい気分どころの話ではない。昼も食べていなかったため、空腹でグゥ~~ッと腹が鳴り、散々な目に遭(あ)っていたのである。
 美味(うま)い話には危険が付き物で、楽しい気分を味わうなら、近道をせず急がば回れ・・の精神が肝心だというお話である。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (20)時の流れ

2019年10月16日 00時00分00秒 | #小説

 今の時代、時の流れが早い・・と、よく言われる。これは昭和2、30年代の頃と比べ、格段に移動手段が発達した結果とも考えられる。昭和2、30年代当時は、そんなに移動手段が発達しておらず、地方道には人の歩く姿か自転車が見られたぐらいだった。それが昨今では、深夜の一定時間を除き、車がひっきりなしに走る時代へと変貌(へんぼう)している。時の流れでこうも変化することを、当時の人々は予想しただろうか? 時の流れで変化が生まれることは仕方ないにしても、長閑(のどか)な楽しい気分が損なわれ、殺伐(さつばつ)とした雰囲気が巷(ちまた)に蔓延(はびこ)ることが果たして社会の発展と言えるのか? と疑問が湧(わ)くところだ。どうして、うどんのあんな美味(うま)い出汁(だし)が作れるのか? という疑問とは、まったく関係がない。^^
 とある繁華街の一角を、ウロウロと一人の老人が目的の建物を探して歩いている。そこへ、一人の中年男が対向から近づいてきた。
「あの…つかぬことをお訊(き)きしますが、この辺(あた)りにホニャララ座というのはございませんか?」
「ホニャララ座? …そういや、20年ばかり前、この近くにあったな、確か…。おじいさん、もう取り壊(こわ)されて、今はねえよっ!」
「そうでございましたか…。時の流れは早ようございますな。で、今は?」
「今かい? 今は、ほらアソコのニャゴワン劇場!」
「ニャゴワン劇場でございますか? なんとも賑(にぎ)やかそうな劇場でございますな」
「そら、そうだよっ! 出てるのが漫才のチュンチュン兄弟、カアカア、コント・ニワトリなんて喧(やかま)しい連中だからっ!」
「ハッハッハッ…まるで鳥の劇場ですなっ!」
「そうだな…」
「ホニャララ座は演劇専門で、特に後退座の[瞼(まぶた)の母]なんて、ようございましたが…」
「今は漫才、漫談、コント、マジックが中心だね」
「いや、どうも…。笑って帰りますかな、ははは…」
「それじゃ!」
 二人はふたたび歩き出し、擦(す)れ違って別れた。
 時の流れで建物が変ろうと、楽しい気分を味わいたい…と思う人の気持は変らない・・というお話である。^^ 

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (19)不謹慎(ふきんしん)

2019年10月15日 00時00分00秒 | #小説

 世間の常識に合っていないと、『あの人は不謹慎(ふきんしん)だっ!』と思われたり言われたりする。これといって間違っている行動でもないのに、そう言われたり思われるのは楽しい気分が損なわれ、誰でも面白くないだろう。この不謹慎・・という目に見えない社会的な規範めいたものは、いったいどうして生まれるんだろう? などと考えてみよう。そんなことを考える暇(ひま)があったら、掃除の一つでもしろっ! と言われれば返す言葉はないが、まあ、この場合は美味(びみ)なコーヒーなどを啜(すす)っていただき、笑い飛ばしていただきたい。お菓子も付けますっ!^^
 とある映画館の中である。多くの観客がスクリーンの映像に目を奪われる中、一人の観客が、ムシャムシャ! と人の目を気にすることなくコンビニ弁当を食べている。別に映画館の中で食べてはいけない・・という決まりがある訳でなく、大声を張り上げてもいないから、周囲の観客が、とやかく言う筋合いではないのだが、映画館の中には目に見えない規範めいた雰囲気が漂っていて、この観客は不謹慎に映るのである。
「オホンッ!」
 隣の観客が、『集中できんじゃないかっ!!』という迷惑そうな目つきで弁当を食べる観客を一瞥(いちべつ)し、咳払(せきばら)いをした。だが、食べ続ける観客はまったく意に介せず、楽しい気分で食べ続ける。そして、グビッ! とペットボトルのお茶を間(あい)に飲む。それが余計に腹立たしいのか、隣の観客は、また咳払いを一つ、強めに『オホンッ!!』とやった。ところがその声を迷惑に思った隣の隣の観客やその後ろの観客が、『集中できんじゃないかっ!!』という迷惑そうな目つきで隣の隣の観客を一瞥し、咳払いをした。ところが、その隣の隣の観客や後ろの観客の咳払いが、『集中できんじゃないかっ!!』という迷惑そうな目つきで隣の隣の隣の観客や後ろの後ろの観客が隣の隣の観客や後ろの観客を一瞥し、咳払いをした。こうして咳払いは波状的に館内全体に広がり、とても映画に集中できるような状態ではなくなった。
 これが、不謹慎が生まれる過程と、楽しい気分が損なわれる結果である。^^ 

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (18)マンネリ

2019年10月14日 00時10分00秒 | #小説

 マンネリという言葉がある。いくら楽しいことだって、常態化すれば、ちっとも楽しくなくなる状態だが、この状態をマンネリと人は言う。相思相愛でアツアツだった二人が、結婚後、数十年経つうちに、どちらかといえば相手が煙(けむ)く思える状態・・これはマンネリというより倦怠(けんたい)だろう。^^
 街の商店街にある餅屋の前を一人の老人ご隠居がスゥ~~っと通り過ぎた。それを見ていた店主が訝(いぶか)しげに声をかけた。
「おやっ! ご隠居!! 今日は寄られないんですかっ!?」
「ああ、これはご主人…。いや、少し腹具合が悪いもんでしてねっ!」
 実のところ、腹具合など少しも悪くないご隠居だったが、軽く暈(ぼか)した。
「毎日、寄られるので、どうかされたのかと思いましたが、そうでしたか。お大事に…」
 店主は軽く頭を下げた。軽く暈したご隠居は、店主に軽く頭を下げられ、思わず自分が悪人にでもなったような気分がした。時代劇ファンのご隠居にとって悪人は正義の味方にバッサリ斬られるとしたものだったから、自分も斬られてはっ! …と思えた。
「い、いや…そ、そんなに悪いってこともないんですがな。そうだっ! 腹具合が治(おさ)まってから食えばいいか…。いつものように包んでもらいますかな」
 ご隠居としては、マンネリで今日は余り食べたくないもんで…とは、口が裂(さ)けても言えなかったから、また軽く暈した。
「あっ! さよですか。では…」
 店主には理由が薄々(うすうす)、分かっていたが、ご隠居を甚振(いたぶ)るようなことはせず、軽く応じた。ご隠居はいつもの額を支払うと、餅の包みを受け取って店先から軽く消えた。
 楽しくないマンネリ気分は、軽く暈すことで楽しい気分に変化する訳である。お相撲では、これを軽くいなす・・と言う。…言わないかっ!^^ 

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (17)番組

2019年10月13日 00時00分00秒 | #小説

 テレビのリモコンを押しても、観たい楽しい番組がなければ、思わずチャンネルを変えたり切ってしまうことだろう。では、人にとって毎週観たい楽しい番組とは何なのか? ということになる。もちろん個人の嗜好(しこう)性もあるから、それぞれ違ってくることは否定できないが、総じて観たいと思える最小限の条件を炙(あぶ)り出すことにしよう。いや、どうせ炙るなら焼き鳥か焼肉、またはカツオの叩(たた)きにしてくれっ! と言われる方はそうしていただければそれでいい。^^
 とある家である。どこにでもいるような男がカップ麺を食べながらテレビを観ている。テレビの芸能人は美味(おい)しそうな料理を食べながら楽しく寛(くつ)いでいる。
「チェッ! 美味(うま)いもの食って楽しんでりゃ世話ねえやっ!」
 男は観ていた番組が気に入らなかったのか、リモコンのチャンネルを変えた。カップ麺⇔美味しい料理という余りにも違う現実とのギャップにイラッ! としたのである。次の画面には殺人事件を捜査するサスペンス番組が映った。
「チェッ! また事件かいっ! 現実が、益々(ますます)、悪くなっちまうっ!」
 男は番組が気に入らなかったのか、またリモコンのチャンネルを変えた。すると、次の画面には楽しそうに釣りをする魚釣り番組が現れた。
「ほうっ! 楽しそうに釣ってるなっ! まっ、これはいいが、時間がかからぁ~」
 男は、すぐ楽しい気分になりたかったのか、またチャンネルを変えた。現れた画面は芸能人が楽しそうに旅する旅番組だった。
「チェッ! 勝手(かって)に旅してろっ!!」
 男はここ数年、旅に出る機会がなかったせいか、すっかり気分を害して、チャンネルをすぐ弄(いじ)った。次に画面に現れたのは歌番組だったが、生憎(あいにく)、男が聴きたいような歌ではなかったから、またまたチャンネルが変わった。画面に現れた番組は、何人かの芸能人が楽しそうに話しているバラエティ番組だった。
「チェッ! 自慢ばかりしてやがるっ! 東大の大学院! フンッ! てめえなんざ、犬吠崎の灯台で十分だっ! そんな自慢話、聞きたくもねえやっ!」
 男は、またチャンネルを変えた。そして、ようやく男がコレはっ! と思える演芸番組が映し出された。
「ははは…こういう番組でいいのさっ!」
 男は単純に笑える番組がよかった訳である。
 これは飽くまでも、この男が楽しいと思った番組の話であり、楽しい番組は人それぞれだということを付け加えたい。^^

                                


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

楽しいユーモア短編集 (16)好(この)み

2019年10月12日 00時00分00秒 | #小説

 人それぞれに好(この)み・・というものがある。好みが達成されれば、人は楽しい気分となる。だが、そういつもいつも自分の好みどおりになる訳がない。多くの人の中で生活していれば、当然、他の人の好みも受け入れねばならないからだ。例えば、美人や美男子よりオカメやヒョットコが好みの人がいたとして、『ええ~~っ! あんなのがっ!?』と思ったところで、当の本人の好みなら致し方ない。まあ、この場合、自分には関係ない話なのだか…。^^
 三人の中年男が、喫茶店の席で喧嘩(けんか)するでなく口論している。
「いやいやいや、私は三杯は入れますよっ!」
「そんなにっ! そりゃ甘過ぎるでしょうがっ! まあ、二杯が限度ですよっ! 現に私の好みは二杯なんですからっ!!」
「お二方(ふたかた)、何をおっしゃるっ!! コーヒーてなもんは、ブラック! ブラックに決まってるじゃありませんかっ!!」
「ええっ! そりゃ、いくらなんでも苦(にが)いっ!」
「苦いって、アンタっ! それが美味(うま)いんじゃないですかっ!」
「まあまあまあ、そう興奮されずっ!」
「興奮してるのは、アンタじゃないかっ!」
「いやいや、私(わたし)ゃ、興奮なんぞしてませんっ! ただ私の好みを言ったまでですっ!」
「私だって好みを言っただけですっ!」
「私もですっ!」
「… … だったら、それでいいじゃないですかっ!」
「ええ、まあ…」「さよですな…」
 三人は沈黙して、それぞれの好みでコーヒーを飲み終えたあと、仲よく別れた。
 好みが自分に合っていれば、人は関係ない・・ということになる。ただ、好みを人に主張するものではないようだ。^^

                                完 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする