私は政治家でもジャーナリストでもないので、アメリカの政治に口をはさむ能力も資格もないのですが、世界経済や政治に大きく影響するアメリカ社会で、今何が起こっているのかを大統領選を通して考えてみたいと思います。
今年11月8日の投票日に向けて、2月から各党の大統領候補を選ぶ予備選挙が始まっているが、共和党では過激な発言を繰り返す、実業家で不動産王のドナルド・トランプが代議員の獲得数でトップを走り、民主党でも圧倒的優位が伝えられていたヒラリー・クリントンを向こうに回し、バーニー・サンダースが健闘している(敬称略)。
去年の秋から冬にかけて、政治学者もジャーナリストも、今の事態を予想した人は誰もいませんでした。トランプは話も面白く、メディアを利用するのも上手だけれども、共和党の大統領候補として残るとは、思われていませんでした。
こうした現象はなぜ起こっているのでしょうか。
テレビのリアリティ番組で有名になったビジネスマンのドナルド・トランプと、社会活動家の歴史が長く、無所属で知名度がほとんどなかった左寄りリベラルの上院議員バーニー・サンダースが熱狂的な支持を得ている。
トランプとサンダースに人気が集まっているのは、両党の支持者がいかに現状や、既存の政治家のリーダーシップに不満を抱いているかを示しているのです。
私のブログ「アメリカはなぜ没落するのか」でも書きましたが、アメリカ社会には中産階級が大幅に少なくなって、かつての中産階級の人々は下流社会へと下って行ったのでした。
高学歴でも就職ができなくなった人々や会社勤めをしている人でも、路上で寝起きして、そこから会社へ出勤するというような異常な事態がアメリカ社会で起こっているのです。
リーマンショックの前後で、アメリカは大きく変わったのです。
今世紀に入ってアメリカを襲った2つの悲劇。それは、同時多発テロ事件とリーマンショック、いずれも、ニューヨークが舞台でした。
同時多発テロ事件はアメリカの自作自演と言われ、被害者や国民が犯行組織へ抗議行動を起こしています。リーマンショックも政府、金融機関が犯行の片棒を担いだ事件として、国民が抗議しているのです。
今回の大統領選挙でアウトサイダー候補の躍進を支えてきた心理、『今のままでは国の将来に希望が持てない』という有権者の考えは、今回どのような形で示されるのか。
グローバル化や自由貿易協定で、仕事がなくなり失業するのではないか、あるいはテロが起こるのではないかと不安を抱いている人たちが、そのはけ口としてトランプやサンダースを支持している。この現象は、いまの米国にはそれだけ現状に対して不安・不満が高まっているということを、象徴していると言えるでしょう。
5月3日のインディアナ州予備選の惨敗を受けて、共和党のテッド・クルーズ候補は電撃的とも言える「撤退」を表明した。圧勝したドナルド・トランプ候補は、これによって共和党の統一候補に指名確実となったのです。
アメリカ社会の根本的な問題というのは、人種と階級と格差だと言われています。
この人種と階級という問題は、基本的には一致していた。つまり、黒人と白人で、白人はミドルクラス、黒人は低所得者層。そして、その間の格差があるという問題だったわけです。
今、ここにねじれが生じているのです。白人が必ずしも今、ミドルクラスになれず、そして白人のブルーカラーが増えてきていて、格差が台頭している。
逆に、黒人たちの中にミドルクラスへ上がっていく人たちがいる。ミドルクラスの黒人に対して、低所得者層に落ち込んだ白人が不満を持っている。「こんなはずじゃない、僕たちは支配者層のはずだ!」という人たちが、トランプを熱烈に支持しているわけです。
これはとても、根深い問題です。
アメリカにおいては、人種問題をみんなで「解決しましょう」と言うのは、表面的には合意されているわけです。 しかし、実際に解決するつもりがないと思うのは、異なる人種同士はほぼ永久に交わらないからです。それは、黒人と白人の結婚は滅多に起きないという実績がそれを証明しているのです。構造的な問題と、人種問題というのはなかなか解決しないと思われています。
そのような、ねじれの構造が非常にアメリカを不安定にしているのです。
この人種問題が本当に沸騰して湧き上がった場合には、アメリカの根本を揺るがす問題になるのです。トランプが非常に支持を集めているのは、アメリカの問題が表面化し始めているという表れではないでしょうか。
また、現時点での大方の見方は、民主党ヒラリー・クリントン VS 共和党ドナルド・トランプの大統領選挙になるとみなされているが、予備選でヒラリーが勝利しても民主党の党大会で敗退する、または撤退するというシナリオが舞い上がっているのです。
この続きは、後編へ。
---owari---
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