百年以上前の人になりますが、デンマークのキルケゴールという哲学者は、こんな話を紹介しています。
その国のある地方には、毎年、渡り鳥の野ガモが飛んでくる所があり、親切な老人が餌付けをしていたそうです。
ところが、栄養のある餌をもらえるものだから、野ガモたちの一部は、寒くなったら南の方へ飛んでいくという習性を忘れ、だんだん太っていき、飛べなくなってしまったといいます。
ところが、ある日、その親切な老人がコロッと亡くなってしまったのです。それで大変なことになりました。実は、太った野ガモたちは空を飛べなくなっていたため、「さあ、困った。どうしよう」ということになったのです。彼らはすでに渡り鳥の習性を失ってしまっていたわけです。そして、雪解け水が洪水のように流れてきたときに、溺れて死んでしまったということです。
ちなみに、この話を紹介したキルケゴールは、生きていたときにはあまり有名ではなく、無名に近かったのですが、後に、ドイツのハインデッカーという哲学者が有名にしました。哲学においては、いわゆる実存主義哲学の始まりのところになります。
キルケゴールという方は、もとは家のお手伝いさんだった女性との間に生まれた子供であり、病気も持っていたということで、ある意味では不幸な生い立ちという見方もあるかもしれません。
また、晩年には「瞬間」という題の教会批判の冊子をつくっていました、
「君たちは、もう手遅れだ。月曜日から土曜日まで、毎日、ぐうたらぐうたらと堕落した生き方をしていながら、『日曜日だけ教会でお祈りをしたり心を清めたりしたら、いいところへ行ける』などと思っているなら間違っている。人間は、毎日毎日が大事なのだ。月曜日から土曜日まで怠けていて、日曜日だけで救われると思っているのか」などといった調子で教会を批判していたのです。
そんなことをしていたある日、路上で行き倒れになって、悲惨な最期を遂げました。
これが実在主義哲学の始まりにいた人ですけれども、今述べた野ガモの話などが有名です。
さらに、この話を、IBMという大会社をつくったトーマス・ワトソン親子のジュニア(息子)のほうが引用しています。
「飼いならされた野ガモのようになるな。人から餌をもらって食べているうちに、飛んでいけなくなるようになっては駄目だ」というように、野性味を失わないことの大切さを、IBMの精神として説いています。
要するに、「『現状では食べていけるから、これでいい』と思うような生き方をしていたら駄目だ。いつ危機が来るか分からないし、いつ潰れるか分からない。だから、危機感を持って生きなさい。毎日毎日が真剣でなければいけないし、毎日毎日がイノベーションでなければいけない。そういう野性味、危機感を持って、毎日を生き抜かなければ駄目なのだ。一生懸命生きなければ、未来はない」というようなことを言っていたわけですが、それもあって、IBMは世界的な企業になりました。
このような考え方は、みなさんにとっても大事なことであると思います。
「今、これで生活が成り立っているから大丈夫だ」と思っていたとしても、いつ、その生活が何らかの外部的事情、例えば、ライバル店の出現等、さまざまな状況によって変わるかは分かりません。また、大手の企業にしても、今、どんどん潰れています。トップメーカーであっても潰れかかっているところはたくさんありますし、現に潰れたところもあります。ほかにも、外国のライバルが出てきたり、国内のライバルにやられたりすることもあるでしょう。
今、世界を席巻しつつある「ユニクロ」のようなところにしても、もし、一ドル百五十円になれば潰れるでしょう。以前は円高だったために、外国に数多くの出店をしても安くできていたのですが、これが一ドル百五十円になったら潰れるはずです。
トヨタのように輸出で儲けられるところであれば、為替レートが一円安くなると、百億円ぐらい儲かったりすることもありますが、安売り店などは潰れ始めます。円高対策に、海外で現地生産をするようにしたところなどは潰れるようになるので、どうなるか分からない面があります、
したがって、「野ガモ精神」を忘れてはいけません。ここが非常に怖いところであり、そういう危機感を持って人生を生きなければいけないというところでは同じだと思うのです。
やはり、みなさんも、いつもそういう気持ちを忘れてはなりません。「日々精進する気持ち、日々自己変革をし、新しい課題に挑戦し、環境の変化に耐えていこうとする“遺伝子”」を持たねば、もはや、人間個人としても、あるいは組織としても、生き残ることはできないのです。
---owari---
今回の野ガモの話はグサリときますね。人間は楽な方に楽な方に流れていってしまいますよね。
野ガモのように、(野生の動物のように)強く生きていきます!
たびたび、コメントをいただき、有難うございます。
貴方様のブログも読ませてもらっていますが、、
いつも素直で、前向きなご意見が多いので、感心しています。
今後ともよろしくお願いします。